第29話ㅤ力の自覚
ダンジョンモンスターは基本的に最初はどの項目も均等にステータスを割り振った状態にし、そこから種族的な長所、短所を参照に割り振りをされていく。
例えばアシッドスライムならば、敏捷と物攻が八割減り、物防と魔防がその分増えている。
ダークゴブリンであれば、物防と魔防が五割減り、物攻と魔攻が増えている。
スライム種は基本的にカウンタータイプである為、襲ってきた敵の攻撃を受けてからその体の特性を活かして反撃を行う。
アシッドスライムは酸を当てて機動力を奪った敵に取り付き溶解吸収、ノーマルタイプのスライムならば体に張り付いて消化吸収といった具合いだ。
普通に生きていたら絶対にお目に掛かれない人外の化け物を相手に、彼がソロで戦えているのはそういう所が影響している。
ヒットアンドアウェイな戦術を行えるビルドなのも大きいが、被弾すれば頭部損傷の場合を除いて即座に回復するスキルのおかげで防御に全くステータスを振らなくてもなんとかなっている部分が大きい。
その紙防御にもノックバックが発生しないという隠れた恩恵があったりもするのだが、そこには気付いていない。
このように極端なステータスをしているおかげで、格上のモンスターを相手にしても、そのモンスターよりも強く早いので、殴り勝てるし避ける事も出来ている。
防御にもステータスを回していたら、現在はまだダークゴブリンと戯れていたであろうレベルだ。
戦法がハマれば強いが、その戦法がハマらない相手には弱いという面もあるが、まだ上層階なのでまだ気にするべき時ではない。
――そして、彼はまだ自分の実力がどの程度の物かしっかり理解出来ていなかった。
パンッッッ!!
ぶん投げた棍棒が着弾すると水風船を破裂させたような音が響き渡り、そこから数拍おいて固いものと固いものがぶつかる音と、重いものが地面に落ちる音が聞こえてきた。
「............は!?」
鎖骨辺りから上が吹き飛んだナイトメアトロルが倒れ伏している。
当たり所が良ければ殺せるだろうと想定していた以上の惨状に呆気に取られてしまった。
投擲した武器の攻撃力と自身の物攻が合わさった結果、遥かに格上で厄介な相手を瞬殺したのだから、呆気に取られてしまう事は仕方のない事だとも思う。
本来なら致命的な隙なのだが、取り巻きのナイトトロル達も自分同様呆気に取られてしまっていたので、そこは助かったといえるだろう。
「......いや、呆けている場合じゃない。ヤツらが混乱している隙になるべく数を減らすぞ」
自分の愛棒である金砕棒を担いで、未だにあたふたしているナイトトロルに向かって駆け出した。
「......アハハハハハッ」
なるべくコンパクトに、振り終わりの隙を減らすように意識しながら、一番手前に居たナイトトロルの頭部を破壊。
動きの流れに乗ったまま、倒した個体の近くに居たもう一体の頭も同じように破壊。
知力の乏しい相手なのが幸いし、ナイトトロルらが敵襲と気付いて正気に戻る頃には残り二体となっていた。
だが、今更戦闘態勢に移行してももう遅く、武器を構えようとしている隙に残った二体の片方は頭を金砕棒に砕かれる。
「アハハッ、これでラスト一体......体を消したけど、それはもう知ってる。初見殺しな技だけど空間把握で丸見えだよ」
こちらの死角で消える能力を解除し、振りかぶっていた棍棒を振り下ろすナイトトロルの攻撃を余裕をもって避ける。
かすり傷を治す分の血液さえ惜しいので、石の破片さえ当たらないように。
後は隙だらけのナイトトロルの頭を潰すだけの簡単なお仕事。呆気なく頭を叩き潰して戦闘を終えた。
「アハハッ......アハハハハハッ!! あれだけ苦労させられたナイトトロルも、やり方によってはこんなに簡単なんだね。投擲、奇襲、不意打ち......凄く効率的だ!! ただ頭が悪いモンスターじゃないと、今回みたいな戦闘にはならないだろうな」
避けて殴る、避けられなければ当たりながら殴る脳筋気味な男が、遠方からの攻撃と混乱している敵を襲う有用性に、本当の意味で気付いた瞬間だった。
『レベルが3上がりました』
戦闘が終了した事を告げるレベルアップのアナウンスを聞きながら、素早く倒したモンスターの血を取り込み始める。
0.1Lでも多く、少しの血も無駄にしたくない故の迅速な行動だ。そして残った肉は腕の一本を残して全て肉食ナイフに食わしていく。
今回は運良く全ての死体が残っていた。倒したてで巨体なおかげで吸えた血液の量もかなりの量だった。
「この階層の残りの敵は全部コイツらがいいなぁ。ロスなく二十も倒せれば元の貯蔵量まで戻せそうだし」
ナイトメアトロルからは約2.5L、ナイトトロルからは約1.5~2.0Lも取れたので思わず機嫌が良くなる。
上機嫌なまま敵の持っていた棍棒の選別に取り掛かる。
「......投擲用に棍棒をもっと欲しいけど、持ててもう二本だよなぁ。ナイトメアの持っていた物は他のよりも頑丈で持ちやすそうだから確定。残りは素振りしてみてから決めようかな......もう少し持ちやすそうなのを持ってたらいいのに」
文句を言いながらも楽しそうに棍棒を振るっていく。基本は投げる用だが、もしもの時は振ろうとも考えている。
五分程で選び終え、持っていけない分の処遇を考えた結果、棍棒が壊れるまで投擲の練習をしようと思い至る。
「アハハッ、今まではその場で捨てていっていたけど......そうだよね。これらを使って練習すればよかったんだ......あー、無駄な事してたな、勿体ない」
その後、棍棒が全て砕け散るまで壁に向かって投擲訓練を行い、威力がもっとあってもいいとレベルアップした分のポイントを全て物攻に振り、次の部屋へと向かって歩き出した。
――砲撃とも言える威力の投擲と空間把握スキルを手に入れた彼は、ここから危なげなく進んでいく事となる。
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吉持ㅤ匠
Lv:55→58
HP:100%
MP:100%
物攻:44→50
物防:1
魔攻:10
魔防:1
敏捷:50
幸運:10
残SP:0
魔法適性:炎
スキル:
ステータスチェック
血液貯蓄ㅤ残16.5L
不死血鳥
状態異常耐性Lv3
拳闘Lv4
鈍器Lv5
簡易鑑定
空間把握Lv3
投擲Lv1
■■■■■■
装備:
魔鉄の金砕棒
肉食ナイフ
布のシャツ
丈夫なズボン
再生獣革のブーツ
魔鉱のブレスレット
悪夢の棍棒
木の棍棒
丈夫なリュック
鱗皮のナイフホルダー
ババァの店の会員証ㅤ残高135
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