第4話ㅤ孵化

 ――岩に頭を突き刺して死んだはずだった。


ㅤなのに、また目を覚ましてしまった。もう一度死のうという気持ちは起きてこない。自死を選択するなんて、人生に一度だけでいい。


ㅤどうせ自殺しても、もう一度目を覚ましてしまうんだから。


 どうやら神は自分に、自ら“死”を選ぶ権利すらも許可しないみたいだ。嫌われて、蔑まれて、それでも死んで逃げる事、楽になる事を許さないとは残酷だ。


 服は破れていて、血も付いているので、今までの事が夢や幻という訳ではないらしく、先程味わった痛みもはっきり覚えている。


「ここから脱出しようにも、上に行ける階段とかも見当たらない。あるのは下に降りる階段とヒヨコの羽が一つ、後は自分のお金が入った封筒だけ......」


 そう独り言ちる。


 これから自分は何をしようとするにしても、ここから下に降りなければならない。

 ここで独り寂しく朽ち果てるのも悪くはないと思えるけれど、先程ヒヨコに対して行った反抗――反抗とも言えないくらいの悪あがきだったが――が忘れられず、気持ちが高揚していた。


 今まで我慢して、我慢して、我慢して......我慢してばかりの人生を歩んできた自分を変えたい。

 そんな気持ちが強くなり、階段の先へと進む事を決意させた。



 自分自身を大切と思っていない彼は、この先どんな危険があろうとも構わないといった心持ちだ。


 封筒と羽をポケットにしまい、もし生きて地上に出られたら、偽物の家族の頬をこの封筒で叩きつけてやろうと考える。そして、もうこの部屋の中に何も無い事を確認してから、階段を下りていった――




『原初ノ迷宮一層のクリアヲ確認。人類初ユニークボス撃破報酬とシテ、スキル:ステータスチェックを付与シマしタ』




 ――はァ!?


 な、なんだ今の声は......


 穴に落ちた直後に聴こえた声に似ていた気がするけど......




 スキルやら迷宮やら、挙げ句の果てにステータスチェックやらは何なのだろうか。そんなゲームみたいな出来事が起こるなんて、現実には有り得ない。


 階段を下りている最中だったが、足を止めて思考する。


 ......既に自分は死んでいて、今の“コレ”は夢や死後の世界と言う事なのか......?


 それなら......夢ならば夢らしく、我慢なんて一切しないでやってやろうじゃないか。


 さっきのヒヨコ相手みたいに、どうせ夢の中でも嫌われてしまう。ならばもう我慢する必要なんてないだろ。


 卑屈になる必要はない。

 遜る必要はない。

 我慢なんて一切しない。


 死んでも復活してしまうんだ。一度殺されても諦めずに、相手が死ぬまで復活すれば負けることはないんだ。


「ハハハッ......楽しくなってきた」


 ――夢の中にいる間だけでも強者であろう......と、そう決意した。


「ステータスチェックっていうのを貰ったらしいけど、どう......ッ」


 その単語を口に出したからだろうか、目の前に半透明のタブレットらしきモノが現れた。


「......あまりやる機会が無かったけど、RPGみたいで楽しそうかも」


 そう漏らし、現れた自身のステータスを確認し始める。



 ──────────────────────────────


 吉持よしもちたくみ


 Lv:3


 HP:100%

 MP:100%


 物攻:1

 物防:1

 魔攻:1

 魔防:1

 敏捷:1

 幸運:1


 残SPステータスポイント:6


 スキル:

 ステータスチェック

 ★血液貯蓄ブラドタンクㅤ残:5L

 不死血鳥ブラドフェニックス

ㅤ■■■■■■

 ──────────────────────────────



「アハハッ......なんだこれ。厨二病は発症してないはずなのに」


 よくわからない箇所がある。その中でも一際目を引く点滅する★の付いたスキルを指で押してみると、ログみたいものが現れた。


 えーと、どれどれ......


〈ダンジョン発見、初侵入ボーナスとして、スキル:★血液経験ブラドエクスペリエンスを授与〉

〈不死血鳥(幼体)を撃破〉

〈血液経験が発動、スキル:不死血鳥を獲得〉

〈人類初モンスター撃破報酬により、血液経験が血液貯蓄に変質〉

〈この報酬は対象者の深層心理に基き付与〉


 気を失っている間の事で、自分が認識していない場面の事が詳しく書かれていた。

 そしてもう一箇所あった★を押して確認する。


〈血液経験:対象の生物から血液を取り込み、対象のスキルを取り込む

 使用できるのは一度だけであり、使用後は消失する〉


 ......なるほど。

 あの赤いヒヨコは不死血鳥という名前で、字面からしてフェニックスの親戚みたいなモノなんだろうな。



 このスキルを得た時は、血が足りなくて寒いって思っていたから......かな?

 それで、スキルが変質した時は死にかけの自分が血を欲していたから、初モンスター撃破報酬のおかげでコレが消失せずに変質。

 ヒヨコの血肉が美味しく感じられたのは、このスキルが発動していたから。


 ......なんだと思う。予想だけど、多分これで正解。


「クフフフッ......」


 あの時生きるのを諦めず、理不尽に抵抗してよかった。

 あの時反抗したおかげで、人生が終了する寸前にボーナスステージへ飛ぶ事ができたみたいだ。


「ハハハッ......楽しくなってきたぞ。スキルも確認してみよう」


〈血液貯蓄:自分以外の生物の血液を、自分の血液に変換して体内に保存できる

ㅤ相手の傷口や死体から血液を吸収できる

ㅤ上限は存在しない

 貯蓄血液が一定値以下の場合、一定値に戻るまで血液の生成力が上昇〉


〈不死血鳥:血液がある限り、破損した体が際限なく即座に修復される

 復活する際に血液を消費し、血液が無い時に致命傷を負うと死亡するので注意が必要〉


〈ステータスチェック:自身のステータスを道具を用いることなく、いつでもチェックできる

 相手の名前、種族、レベルを見る事ができる〉


〈■■■■■■:閲覧不可〉


 ......とてつもなく自分に都合のいい結果になっていた。一つ不穏な物があったけど、見れないなら見れないでいい。


ㅤ気にするだけ無駄だ。コレが現実だろうが夢だろうが、ゲームオーバーになるまではこの世界を全力で楽しもう。

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