耀秀伝

刃口呑龍(はぐちどんりゅう)

序幕

「廷国の艦隊が逃げ出そうとしても、返しのついた鉄製の杭が刺さり身動きとれずに、そして、油につけた船は良く燃えます。まあ、多少、硝石を積んでおけば、より……」


「へっ、へ〜」


「そして、火は廷国の艦隊も燃やし尽くすでしょう。まあ、廷国の兵は鎧よろいを脱いで海に飛び込めば助かりますし、艦隊が無くなれば、再び攻める気にはならないでしょう」


「こわっ」


 引きつった顔が僕に向けられたのだった。


 僕は、そのデビュー戦において、海を真っ赤に染め上げ、その恐怖をカナン平原の民に植え付けたのだった。


 真っ赤な炎から誕生した鳳雛。いやっ、カナン平原の四霊。麒麟、霊亀、応龍と並ぶ、鳳凰が、僕のあだ名となった。






「おっはよ〜」


「あっ、おはよう。龍清リュウセイ君」


 後ろから、凄い勢いで走ってきた、男の子が、僕に挨拶をする。僕より頭一つ大きく、そして、運動神経抜群で、顔も良い。


 僕はと言うと、小柄で、運動はいまいちだし、顔も、穏やかで優しそうな顔ですね。って、言われるぐらい。特徴は、あまり無い。でも、先生だけは、いつも僕を、こう慰めてくれる。


「君は、いつか何かを成し遂げるでしょう。焦らずに、一歩一歩進んでください」


 先生は、私塾の先生だ。大趙帝国だいちょうていこくでは、かつて幼い頃から通える、学校があったそうだが、乱れた今の世では無い。ここ如親王国じょしんおうこくには、そのような学校も無かったから、私塾の文化が発達している。


 それで、ここは如親王国でもちゃんとある、軍官学校への入学を目指す為の学校だ。




 そうだ言い忘れていたけど、僕の名は、耀秀ヨウシュウ。偉大すぎる先祖を持つ、ただの子供だけどね。

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