第14話 無邪気
翌日、案の定少し寝坊したトウコとリョウは、マリーに散々小言を言われた。
しかし、マシンガンのような小言の合間、息継ぎの為に少しマリーが言葉を途切らせた隙に、「マリー心配かけて悪かったな。」という少し不貞腐れたような、少し照れた様子で呟いたリョウの一言で小言は終わりを見せた。
その後、朝食を済ませた3人は再び南門へいた。
夜明け前の早い時間帯だというのに、南門にはそれなりの数の組合員が集まっている。3人が辺りを見渡していると、幌が付いたピックアップトラック式の魔導車が近づいてきて3人の側で止まり、中から2人の男女が降りてきた。
「破壊屋のみなさんですね?」
男の方が問いかけてきたのに対し、マリーが
「破壊屋なんて名前ではないけれど、そう呼ばれているのは事実ね。」
うんざりした顔で答える。
「それは失礼しました。僕はヨシでこっちはリカ。僕が荷物持ちでリカが魔導車の運転手です。兄妹で活動しています。」
リカと呼ばれた女――まだあどけない顔をしており少女といっても差し支えがない、が「よろしくお願いします。」とペリコと頭を下げる。
2人とも茶色に近い金の髪と瞳をしていて、若干ヨシの方が瞳の色が金に近い。ヨシは少し癖のある髪を耳辺りで切り揃えており、顔にはそばかすが浮いている。リカもまたくるくるとした髪をポニーテールにしていて、くりっとした瞳が可愛らしい愛嬌のある顔立ちをしている。組合員にしては、すれたところのない2人だった。
「そう、よろしくお願いするわね。私がマリーで、彼女はトウコ。それにリョウよ。それにしても2人とも若いわねぇ。歳を聞いてもいいかしら?」
「僕が18で、リカは16です。」
「若いわねぇ。お肌がぴちぴちでうらやましいわ。」
「おっさんくせーぞマリー」
リョウが茶化し、
「おだまり!お姉さまといいなさいよ!」
「年齢を公開してくれたらお姉さまかおばさんか判断できるな」
トウコが突っ込む。
「若いのは今だけよ!トウコだってそのおばさんになるんだからね!その時に、その言葉を後悔するがいいわ!」
3人がじゃれ合う姿を見たヨシとリカが困ったように顔を見合わせた。
この世界において乗り物とは馬車もしくは魔導車を指す。
魔導車とは、魔力を原動力に動く車のことである。魔力の供給には、運転者が魔導車に直接魔力を流して動くものと、魔力石と呼ばれる魔力を蓄積できる鉱石を使用するものの2種類が存在する。
魔力が切れた場合でも、簡単に魔力石を付け替えることできるが、その分、直接魔力を流す魔導車よりも値段が跳ね上がる。
貴族や上流階級ら2区に住む人間にとって魔導車は一般的で、2区より以東に入れないトウコ達は実際には見たことがないが、1区と2区では魔導車は当たり前のように走っている。
3区より以西に住む人間にはあまり普及しておらず、いまだに馬車が庶民の足になっている。裕福な豪商や比較的大金を得やすい、力を生業とした組合員の中にはチーム所有の魔導車を持っているが、トウコらはまだ持っていなかった。
魔導車を持っていない組合員が、仕事で遠出する必要が出た場合は魔導車を借りてリカのような運転手を雇うのが一般的だ。
運転手が魔導車を所持している場合もある。
今回の場合は、組合が所持している魔導車を組合長が貸してくれており、また、リカの報酬も組合持ちだ。さらに言えば、組合長は「足と荷物持ちはこちらで用意する」と言っていた通り、荷物持ちであるヨシの報酬も組合持ちである。
リカが運転するピックアップトラック式魔導車に乗った一行は、一路死の森へと向かっている。死の森へは8時間程かかる。
通常であれば、ヨシは助手席に乗ることが多いようだが、トウコら3人とは初めて組むということで、3人が乗り込んでいる荷台部分にヨシも乗り、交流を兼ねて情報交換をしていた。
「それじゃあ、ヨシ君は自分の身を守るくらいの覚えはあるのね?」
「はい。なので、皆さんは戦闘に専念していただいて大丈夫です。」
「そんなわけにはいかないわよ。荷物持ちは遺跡において命綱と言ってもいいんだから。ちゃんと私が守るわよ!怪我しても私が治してあげるから安心してね。」
情報交換と言っても、すれていないヨシを気に入ったマリーが、しきりにヨシに話しかけるのをトウコとリョウの2人は見張りをしながら生暖かく見守っているだけだ。
荷物持ちとは、遺跡内に長期間とどまる必要がある場合の、食料や野営の道具、または遺跡内で発見した遺物を運ぶ専門の人間のことを指す。
大きな荷物を担いでいては戦闘に支障をきたすため、日帰りを除き遺跡調査には必須の存在で、また荷物持ちが倒れた場合にはそれらの荷物を自分たちで運ぶか、もしくは必要最低限を残して破棄する必要があるため、迷宮に深く潜っていた場合はそれだけ帰還が困難になる。
マリーが言う遺跡においての命綱とはそれが所以である。
会話が無くなり魔導車の駆動音のみが響く荷台で、ヨシが先ほどからちらちらとトウコを見ている。
最初は無視していたが、次第に鬱陶しくなったトウコが
「そんなに忌み子が気になるかい?何も取って食いやしないから安心しな。」
少しおどけた口調でヨシに話しかけた。
突然話しかけられたヨシは驚き、目を泳がせながら口をぱくぱくさせるだけで言葉が出ない。
「トウコ、ヨシ君を苛めちゃだめよ。」
「苛めてなんていないさ。さっきからこっちを気にしているようだったからね。」
肩をすくめてトウコがマリーに言い返した。
「あ、あの。その・・・トウコさんを見てたわけじゃ・・いや、見てたんですけど、その・・・すみません・・・。」
ヨシがうつむき、消え入りそうな声で言う。
「なんだよ。はっきりしねー奴だな。トウコが気にいらないってのか?」
「リョウやめな。私もちょっとキツいことを言ったね、悪かった。ただあまりにもちらちら私のことを見るもんだから、ちょっと気になっちゃってね。何か言いたいことがあるなら遠慮なく言うといい。怒ったりしないからさ。」
トウコは苦笑しながら少し優しい口調で言った。
それでもヨシは「すみません・・・」と呟き、うつむいたままだ。
その時、会話を聞いていたであろう運転席のリカが前を向いたまま会話に入ってきた。
「トウコさん、リョウさんもごめんなさい!お兄ちゃんがじろじろトウコさんのことを見ていたんでしょう?お兄ちゃんに悪気はないんです。お兄ちゃん、トウコさんのファンなんですよ!」
リカの言葉にトウコとマリーは目を丸くし、リョウは少し面白くなさそうな顔をした。
「わ!ばか!お前やめろよ!」
ヨシが慌ててリカを止めようとするも、リカは構わずに続ける。
「お兄ちゃんったらこの仕事が決まった時、トウコさんと仕事が出来るー!って大はしゃぎだったんですよ。昨日もずぅぅぅっとそわそわしちゃって!トウコさんのことをエロい目で見てたのなら遠慮なくぶん殴ってください。でもそうじゃなければ許してあげてくれると嬉しいです。ほら、お兄ちゃんもちゃんと言いなよ。誤解されたままじゃ、仕事にも差し支えるでしょ!」
リカの言葉にトウコ、リョウ、マリーの視線がヨシに集まる。少したじろいだヨシだったが、意を決したように口を開いた。
「あの、すみません。僕がトウコさんを見ていたのは本当です。でもそれは色無しだからとかではなくって・・。トウコさんが綺麗だから・・いや!綺麗っていうのはそういう意味じゃなくて!紫の瞳が宝石のように綺麗なのでつい・・。」
ヨシの言葉に少し目を見張ったトウコだったが、にやっと笑い、
「綺麗なのは瞳だけかい?」とヨシに問いかけた。
「あ!いえ!もちろん瞳だけじゃなくてトウコさんは綺麗です!」
顔を真っ赤にしながら叫んだヨシに、トウコは声を上げて笑った。
少し離れて座っていたリョウがいつの間にか近づいており、トウコの腰に手を回す。
「あんた・・子供にまで嫉妬するのかい?」
「嫉妬なんてしてねーし。」
そっぽを向いて答えるリョウを呆れたようにトウコが見ていると、再度リカが声を上げる。
「ちなみに、ちなみに私はリョウさんのファンなんです!リョウさん、今度デートしてくださいよ!」
リカの言葉に再度ぎょっとしたヨシが、少し青い顔で横目でトウコを伺いながら、
「お前何言ってんだよ!トウコさんに失礼だろ!」と叫ぶも、リカは「えー?」とどこ吹く風だ。
そんなリカにリョウは表情を変えることなく、
「悪いな。俺はメリハリのある体の女が好きなんだ。」と言い、トウコの腰を撫でた。
「ざーんねーん。じゃあ、4年後くらいに出直しまーす。」と屈託なくいうリカを、マリーは少し顔を顰めて見ながらリカの評価を少し下方修正した。
ヨシが恐る恐るトウコを見ると、トウコは気にした風でもなく、自分の腰から胸に移動してきたリョウの手を捻りあげているところだった。
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