第3話 日常
トウコとリョウの2人が、階下のリビングに降りるとすぐに野太い声が2人を迎えた。
「ちょっと!朝っぱらからいつまでヤってたのよ!せっかく作った朝食が冷めちゃったじゃないのよ!」
身長が190センチは超えている、筋骨隆々の30過ぎの大男。
スキンヘッドで金色に近いこげ茶のあごひげに、体とは裏腹につぶらで優しげな瞳は緑がかった青。
大男の本名はマスタングだが、そう呼ばれることを嫌い、マリーと呼ぶことを強要しているオカマ―が2人に叫ぶ。
「ヤってない。」
「ヤろうとしたら一発いいのもらった…。」
トウコ、リョウ、マリーの3人は同じ家に一緒に住んでいる。
1階は広めのリビングとキッチン、トイレや風呂等の水回り、3人の装備品や道具が置かれた物置だ。
2階は3人それぞれの部屋があるが、リョウは大抵トウコの部屋で寝ているため、リョウが自分の部屋で寝る事はあまりない。
トウコとリョウがテーブルに付くと、マリーが、コーヒーの入ったカップを2人の前に置きながら言う。
「で?リョウは何度目の求婚を断られたの?」
―トウコ、結婚しよう
トウコの紫の瞳を見つめながら、いつも軽薄な態度を崩さないリョウが真剣な顔でトウコに求婚すると、
「しないぞ。」
トウコはにべもなく断った。
もう数えるのもばからしくなるほどリョウはトウコに求婚して、そのたびにすげなく断られている。
コーヒーの入ったカップを、小指を立てて優雅にカップを傾けて一口飲んだマリーがリョウに言う。
「リョウもいい加減諦めなさいよ。アンタもトウコも結婚なんてガラじゃないでしょう。」
「俺は25、トウコは22。十分結婚していい歳だろ。何なら遅いくらいだ。トウコに似た可愛い女の子の子供とかいてさーいいじゃん。やっぱ結婚しようぜ、トウコ」
「お前しつこいぞ。私は結婚なんてする気はないんだ。諦めろ。」
「リョウとトウコの子供…。恐ろしくて想像したくないわ。」
「なんだよマリー失礼な奴だな。男でも女でも俺とトウコに似たら美形になるに決まってんだろ。」
「見た目のことを言ってるんじゃないわよ!あんたら2人の間に出来た子だったらさぞかし可愛いくて、論理感なんてトウコのお腹の中に忘れちゃった子が出来るって言ってんのよ!」
マリーの言葉にリョウがけらけら笑う。
「トウコの腹んなか以前に、俺の種の中に忘れてくるかもな。」
「リョウの子供…笑いながら人を切り刻みそうだな。」
トウコが呟くと、すかさずリョウが言い返す。
「トウコの子供は笑いながら人を殴り殺しそうだな。」
「どっちにしろろくでもないじゃないのよ…。」
マリーの疲れたような声に、トウコとリョウが笑う。
「リョウの頭がイカれてるのは本当だからな。こんなイカれてるやつと結婚なんてごめんだ。」
肩をすくめて少しおどけたように言ったトウコに、マリーが即座に言い返す。
「私から言わせてもらえば、頭がイカれてるリョウと寝てるトウコも、十分頭がイカれてるわよ…。」
マリーからそう言われたトウコは嬉しそうに微笑んだ。
「この世界に頭がイカれていない人間なんてどこにもいないさ。」
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