第49話 不可能を可能に……

「さぁ~てと」


九郎の足取りは軽く、隙を見せているかのようだった。


「お前ら、何のつもりだ」


急に九郎の声色が変わる。


「どういうことだ?」


「とぼけるな、そこの2人はリングの最高幹部だろ」


「それが?」


「なんでムーンの最高幹部のお前がここに居る」


「……」


エアーは無言で銃弾を放つ。


「しらばっくれるつもりか?」


しかし九郎は腕のシールドで受けとめる。


「これ以上話す事はない」


「あるだろ、納得する答えが出るまで質問は続けるぞ」


ブレードがエアーの首元を掠める。


「速いな」


「お前もな、流石は伝説の殺し屋」


「お前、どこでその情報を」


「名前くらいは知ってるさ」


「まて、エアー…殺し屋だと?」


「ああ、ドレッジ奴は伝説の殺し屋『ブルーローズ』、百年以上前に死んだはずだがな」


「訳がわからない、そんな故人が今、俺たちの前に立っているのか?」


九郎はシズの隣まで歩くと、しゃがみ小声で話し始めた。


「シズ、今から隙を作る、そのタイミングで逃げろ」


「まだ戦えます…」


「重症の奴は足手まといだ、さっさと治療してこい」


「…はい」


シズはふらつきながらも飛行し、離脱した。


「させるか!」


しかしドレッジがそれを許さない。


「おっと、邪魔それはさせねぇぜ」


九郎はドレッジの頭を地面に押さえつける。


「くっ!」


「いつの間に」


「ふむ……まるでローズの『短距離転移』のようだな」


九郎はいつの間にかエアー達の後ろに回り込んでおり、結果としてドレッジを押さえつける事に成功していた。


「ドレッジ、ダガー、手を出すなよ」


「地面に突っ伏した状態で言っても格好つかねぇぜ?」


「地面に伏せてるんだよ」


「あ?」


するとエアーの機体からエアーブースターが噴射した。


「悪いが俺の機体はパワーが桁外れなんでなそんなんじゃ…」


「知ってるさ、だからこうするんだよ」


「うお!?」


突如エアーブースターが高出力で噴射し、たちまち九郎が吹き飛ばされた。


「なるほど、能力の応用か」


エアーは自身の機体のエアーブースターに能力を乗せることで通常よりも高出力の空気を排出し、九郎を吹き飛ばしたのだ。


「こんなことも出来るぞ」


するとエアーは自身のブレードに風を纏った。


「なるほどな、こりゃ切られたら堪ったもんじゃない」


「さぁ、続けるぞ……」


「そうだな」


しかし九郎はブレードを構えず素手で挑む。


「ほう、ブレードは使わないのか?」


「生憎俺はステゴロ派なんでな」


「行くぞ!」


エアーはブレードで斬りかかるが九郎は紙一重で躱し、カウンターを繰り出す。


「くっ!」


ブレードで受けるが威力が強くブレードが後ろに飛ばされた。


「まだまだぁ!」


九郎は拳のラッシュを繰り出す。


「!」


エアーも身を硬めガードするが、腕力強化されているため徐々にガードが捲れ始める。


「くっ!」


「そんなもんかぁ!?」


「クソッ!」


「今助ける!」


ドレッジとダガーが援護に入ろうとする……が。


「何をしている」


後方より一機の最高幹部専用機が現れた。


「お前は……」


「ナイフ!」


現れたのはローズやタスクの元隊長である

ナイフであった。


「!」


九郎が一瞬ダガーに意識が向いたことでラッシュが弱まりその隙を突いてエアーが抜け出した。


「ドレッジ、ダガー何をしている」


「何って戦いだが?」


「なぜムーンの最高幹部が此処に居る、そしてなぜお前たちは援護しようとした」


「ああ〜、そう言えばお前『だけ』幹部集会に呼ばれてなかったな」


「……何が言いたい」


「その集会に呼ばれてない時点でお前はもう信頼されてねぇってことだよ」


「……」


ナイフは黙り込んでしまった。


「ハッ、ざまぁねぇな」


「フッ、むしろ動きやすくなったがな!」


「なっ!?」


ナイフはダガーを蹴り飛ばした。


「ダガー!」


「おい!そこのあんた!」


ナイフが九郎に話しかける。


「ん?」


「そっちは任せた」


「お、ならそっちは任せて良いのか?」


「ああ、問題ない」


ナイフはドレッジとダガーを相手に。


九郎はエアーを相手に、戦闘が再開された。







同時刻 空中にて


「はぁ……はぁ……」


シズは激痛に耐えながら、壊れかけのバックパックで飛行していた。


「あと……少し……」


「大丈夫か!?シズ!」


「ローズ……」


「とりあえず帰るぞ!」


ローズはシズを抱きかかえ飛行した。




「急患だ!」


ローズはすぐさまシズを集中治療室へ運んだ。



早速検査が行われた。


シズの容態はかなりの重症だった。


肋骨 八割骨折


大腿骨 骨折


左腕 複雑骨折


内蔵 一部裂傷


正直死んでもおかしくないレベルの怪我を負っていた。




「……と、かなりの重症です、最悪の場合死に至るかもしれません」


「……そう、ですか」


「……おそらくかなりの間は動けないことでしょう」


「どれくらいですか」


「軽く見て、半年」


「……長くて?」


「三年ほど…」


「……クソッ!」


「ローズさん、貴方は悪くありません、自分を責めないでください」


「俺が……付いていればっ!」


ローズはひどく自分を責め立てていた。


自分が居れば、自分が守れていれば……と。

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