第121話 伝心期⑥ 尻尾を掴む

ツクモに昨日あった事をランニング後に話すと、


「竜二は熱血系だな。嫌いじゃないけどクレバーじゃねーよやり口が。カガミの言う通り五月先生に似てるわ。まぁ俺も家族の事になったら同じように周りが見えなくなる気がするんだが。」


「だろ?でクレバーって何よ??クレイジーバルーン200の略か?」


僕はやたらと判定が厳しいイライラ棒と呼ばれるゲームを思い浮かべていたが、ツクモからは


「それは知らんけど、頭良いって事だぞ。」と普通に返された。


「んじゃクレバーなツクモさんに聞くが、どうすりゃあ良いんだ?僕たちが一歩前進する方法は何か無いのか?」



そう聞くとツクモはニヤリとして、

「尻尾を捕まえる。」と言ったんだ。



僕は全く何の事だかわからなかくって

「なんかするの?」と聞いたけどツクモはマジな顔になって


「カガミにだけは言うが、内緒だぞ。」

そういうと周りを見回してから話出した。



「俺の母さんが失踪した時期が、もうすぐくるんだ。」


「アザレアの咲く時期か!いつなんだ?」

「5月。5/1の病院前だ。」


「春だから4月かと思ってたけど、5月なんだ。良かったら計画を聞かせてくれ。」僕は真剣になって聞いてしまった。


ハイドラが、ツクモの母さんを拉致した奴らがすぐそこに来る。と言う異常事態がもののひと月で訪れてしまう。それまでに僕が出来る事を、やらなきゃいけない事を煮詰めてイメトレするんだ。


「あぁ。」ツクモはタオルを肩にかけて僕に話し出す。


「まず、五月先生の伝手で協力をしてもらえた特殊捜査科の警察を配備させて1人を囮に跡をつけてもらう。きっと目的地があるはずだ。


母さんがハイドラに連れ去られた時は、危険だから家でいてなさい。って言われて俺と父さんでガマンしてた。


もうそんな無駄な事はしない。ハイドラのメンバーか、ハイドラへと続く旅先案内人が必ずいる。俺と警察はそう踏んでる。」


「なるほどね。去年は誰か来てたのか?」


「あぁ、怪しい奴はいた。だが父さんと俺では何も出来ないと思って警察を頼る事にした。一年越しだ。五月先生のおかげでまともに取り合ってくれる特殊捜査科と出会えたから感謝はしてるぞ。」


「だったらもっとゴリ先と仲良くしてよ!」

「結構仲良いけどなぁ。言いたいこと言える仲だぜ。」


ツクモは厳ついゴリ先と友達感覚でいるようだった。


「で捕まえて尋問か?」

「そうだな、場合によっては拷問かも?俺はそのぐらいの気持ちさ。でも面倒なのは一般人がバイトで雇われてた場合だ。

きっと目的地迄そいつに連れられて次の人に受け渡される。その後は何らかの交通手段で拉致られる。」


「つまり一般人が途中まで旅先案内してたら?」


「そーだな、その場合、尋問しようが何しようが何も答えられないし、一般バイト君が、警察に捕まったなんてハイドラの耳に入れば最後、俺たちの街が真っ先に疑われちまう。だから慎重行きたい。」


でも一般人かどうかなんてどうやって見分けるんだ?

君!ハイドラって知ってる?って聞いて「ハァ?」とか言えば一般人だけど、嘘つかれる場合もあるしなぁ。 あ、嘘を見分けるのか。


「ヒカルを使うのか?」


「いや、俺の嗅ぎ分けで何とかなるなら、極力他のイチゴサイダーの奴らにゃ迷惑をかけたく無いんだ。ただ、」


「ただ?」


「カガミだけは手伝って欲しい。」


僕は少し悩んだ。


正直言って危険だ。トラブル回避モードはいつもONだけど、竜二はこの先ノーリスクで得られるものなんて必要無いってな事も言ってたし、大人に任せても良いんじゃ無いかと思いつつも、いつまでもおんぶに抱っこもどうなんだ?と言う気持ちも少なからず芽生えてる。


それに、同じイチゴサイダーのツクモからのお願いだ、ここで手伝わずして後悔すると小さな波が時間をかけて津波になるってゴリ先が言ってた。


僕が中学になってから出会った、周りの意見と自分の考えをごちゃ混ぜにしてミキサーにかけ、綺麗に裏漉しして抽出された物をビーカーに入れて、上から覗いた時、得られる純粋な意見は



「わかった【手伝うよ】。」 だった。


だがこの選択は後に後悔する事になる。



ツクモからは明るい笑顔と「ありがとうな!」と言う言葉を貰えた。



それからはツクモと連絡先を交換してランニングを辞め、朝からお互いの家に近い公園で組み手やキャッチボールをしながら計画を聞き、5/1を目標に意見と情報を擦り合わせていった。




「ツクモには、話しときたいんだけど。僕はMAX10秒位かなぁ?場合によるんだけど先のビジョンが見える。【先行視覚】って言うちょっと説明しづらい強化能力があるみたい。」


驚くかと思ったけどツクモは

「なるほどねぇ。恐怖が無くて【先行視覚】かぁ。たった10秒。それでもすげーわ。」


「冷静だね。さすがツクモ。」


「いや、俺はただ【驚き】が欠如した欠陥品だ。会話をしてても面白く無いんじゃ無いか?」


そうか!考えてなかったけどヒカルと同じ【驚き】なんだ。

落ち着いた雰囲気がどこと無く似てるのは気のせいじゃなかったのかも知れない。


「僕は基本、友達と話すのに面白く無いなんて思ってないしツクモの話は賢いからむしろ面白いと毎回思ってるよ。


僕らの会話内容はもはや中学じゃないらしいから。周りに波長が合う友達が少ないのはしょうがないんじゃないかな?」


「そうか。自分で面白くないと思ってるからあんまり他人と話さなかったんだけど、イチゴサイダーともっと仲良くせにゃならんな。」


「そうだよ!あんまり一人で無理しない方がいい。」僕の他力本願もとうとう【教え】を人にまで布教させる域に来た。


これからは本格的に他力本願寺を構えて住職になる【夢】もありかも知れない。


【楽しよう】【人任せ】【無理禁物】って書いたお札を可愛いお巫女さんに1札500円で売ってもらって稼ぐんだ。


あ、お巫女さんにはアオリちゃんが来て欲しいな!でも白は似合うけどアカはあんまり好きじゃないからお花見の時に着てきたパチモンのワンピースをユニフォームにして仕事してもらおう。可愛いだろうなぁ。


あ、アオリちゃんも、パチモンするんだよなぁ!今度パチモンの話してみよう!

美女とブサ男のカップルを、街でたまに見かけるけど、きっと趣味か何かに魅力を感じたんだと思うんだ!趣味が一緒なら仲良くなってくれるかも?!



あかんあかん、僕程、趣味に没頭してたらきっと逆に引かれてため息つかれるね。火傷はしたくない。僕に恋愛は向かないのかなぁ。


ため息と火傷で思い出したけど、ブレス・ファイアがアドバンスに移植されてたから手軽だし買っちゃったんだよね。MOOK OFFで箱なし1200円。帰ったらやるか。


アドバンスは今何のカセット入ってたっけ?アークにお薦めされたマジバケだったかしら?



「おい!カガミ?」

「えっ?、あ。ただいま。」

「今ぼーっとしてたからどうしたのか心配だったぞ。」


「エニグマが出てきた。あ、ごめんごめん。妄想という名の居眠りをしていたのかも知れない。」

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