第90話 会遇期⑤ 模擬戦2

「模擬戦開始!」

僕たちはネネちゃんのスタートの合図で走り出した。竜二と走るのは慣れてる。


ホントは索敵能力の高いヒカルが欲しかったんだけど、今は攻守のバランスが取れたヒカルにディフェンスを任して、コストを2払ってでも敵の情報を得られるだけ持って帰ろうって作戦だ。


今だけ三人とも無料アプリでハンズフリーの会話状態だからヒカルが襲撃されたらすぐ戻れる。たぶん。


草陰に隠れながら走る事、数分。東ルートがアタリなのかまだ敵とは遭遇せず。開けた芝生の近くをバレない様に物陰を探しながら陣地のちょうど半分ほど進んで一旦止まって話をしだした。


「やっぱりカガミはえーな!」

「うん。あっ!」バチン!




「もう蚊がいるんだ。」

「お、おぅ、ありがとな。スゲーな、素早さはカガミにゃ勝てんわ。ふたつ名あげよっか?」


「クレクレ!カッコいいの頼むぞ!!」

閃光せんこうの。」

「おっ!カッコいいじゃん!早さ滲み出てるね!」


蚊取かとり。」


「・・・いやそれ蚊取り線香じゃん!そこは名前で良いから!」


「アハハハハ!そういや俺、触覚無くて虫刺され気づかないから吸われ放題みたい。」


「やだなそれ。あ、ネネちゃんめっちゃいいにおいの虫除けスプレー持って来てたよ!後で借りよう!」


「ナイスカガミ!」


二人で笑い合っていると芝生に人影が一瞬見えて木の陰に隠れた。


「いるな、1人。周りは?」

「いない。ん~~遠くて見えない。小柄??同じようにフードかぶってたかも。近づく?」

「そうだな、2人で相手取って倒せるなら倒そうか?1人で無理なら即撤退。力量がわかれば御の字。」


僕らは更に進み、木の陰にいる敵を見ようと首を出した。敵はまだ気づいていない。

敵が反対方向を向いた!距離30m!



「よし!仕掛けよう!左右から挟むか?」

「OK!いつでも。」 

「そいじゃいくぜ!5・4・3・2・1・GO!!」

僕らは春風に背中を押される形で駆けだした!

敵は二人草むらから出てきたことに対して驚き、一旦足を止め恐らく仲間と通信していた。


「相手も似たようなこと考えてるな!顔も隠してる。いくかカガミ!」

「竜二力量を見るだけだぞ!わかれば引く前提だ!」

「あいよ!」

竜二がライトニングを起動させずに警棒を振り上げたその時、


竜二がカウンターで吹っ飛ばされるビジョンを見た!

マジか!!相手の方が小柄だぞ!


「竜二!!硬化だ!マント起動!」

僕は竜二が硬化しても飛ばされると思って自分のマントを起動して竜二の後ろ側に回りクッションとなる準備をした。


どんな攻撃が来るんだ?ゴリ先のキックぐらいじゃないとあんなにぶっ飛ばされないぞ!!

ハンマーか?チャージアックスか?



けど敵は武器を出さなかったんだ。というよりはグローブで手を保護してるだけで、素手みたいなもんだった。


そして竜二が繰り出した攻撃をスレスレで躱し、それどころかヌルっと体をねじるとカウンターが返って来た!

運よく発動が間に合った硬化マントの腹部に着弾。


その瞬間にクッションの僕の所まで吹っ飛ばされた!めっちゃ力が強い!!

「小さいのにパンチ力パネ~!」

何とか立て直す2人。


「竜二、何だかあいつレベル72以上に上げたらいけない気がしないか?」

「そうだな96以上だと最悪。」


僕らが大好きなRPG【黒のトリガー】で出てくる仲間キャラクターは『拳』一つで戦う女戦士だが、

レベルが72で『鉄拳』・96で『剛拳』に変わってダメージが増大するヤベー奴だった。



「ライトニングで威嚇!」竜二に聞こえる声で作戦を伝える。

僕は両手の木剣で竜二と挟み撃ちにする作戦を考えたんだが、敵はカウンターで引き離した後、僕らに挟まれない様に立ち回り陣営に戻ろうとしていた。冷静だな。


大きな声で「勝てるか?」と聞いてきた


僕は

「100%勝てる!」と言う。


敵が僕の【先行視覚】をゴリ先に教えてもらっていたら絶対逃げるだろうこのハッタリに敵は反応し


無かった。くそ!引けよ!!逃げると見せかけて僕に殴りかかってくるビジョン!!


いや、直前まで逃げるビジョンだった!何かを見つけたな?罠が!?


まぁ余裕で躱せる!

殴りかかって来た時、木剣の柄で背中を叩こうとするとこちらの攻撃もしなやかに躱された


「もう一人いるぞ!!」先に気付いた竜二が叫ぶ!!そうか逃げようとしたけど仲間を見つけて攻撃に出たんだ!!


「どこだっ!?」後ろを向くと遠くに人影が!!

そこから何か飛んでくるビジョン!!


「遠武器ありかよっ!!」


だが、僕に当たる予定だったその攻撃はビジョンによって軌道を読まれ木剣で打ち払われた。


芝生の上に落ちた矢は先端は尖っていないけど当たるとそこそこ痛そうな木の矢だった。


僕のはたき落とすそれを見て

拳の敵は

「うそッ!?」と呟いた。声が高い。体格も小さい。女子か!?


相手も情報が絞られてるのか?僕の【先行視覚】を聞いていないみたいだ。


遠くの敵が叫ぶ!

「エーコ!!!ココ君が敵陣に近い!応援いくよ!!!」

「わかった!!!!」


その声に

「「女!?」」竜二はライトニングの間合いに入ったのに敵の情報を知って通電し損ねた!

電撃が空中でバチッ!と鳴り響く!!


エーコと呼ばれた敵はそれに気づいて

「何!?それ!!やばっ!!!」と言って遠距離武器の仲間の方に一目散に逃げだした。追いかけようとした時、



スマホから

「竜二!カガミ!!ヤバそうな奴が来てる!!!帰還してくれ!!」と言われた。ヒカルだ!


「僕らもこの戦闘は離脱して早く戻ろう!!」

「OK!!」と言いながら隠れる必要が無くなったので走りやすい道を最短距離で走り出す!



僕が先に陣営に着いた時にはヒカル達はお互いに武器を構えて威嚇し合ってて交戦には至っていなかった。かなり早く気付いたんだな。


僕がヒカルと睨み合ってる感じの敵を警戒しながら大回りして陣地に戻ると、竜二も近くに来てて

敵は「3人か予想通りの人数だな。」と言っていたらしい。


ヒカルは

「もう1人がフラッグを刺してる頃かもね。」と言い返したが

独り言が聞かれていた事には驚かず

「だったら俺の読み間違いだ、素直に負けてやるよ。」といつしか会話をしていた。



そいつはヒカルより長い木の棒を持ってて体格は僕らより大きかった。僕にはヒカルと同じく結構強そうに感じた。今日見た敵の中で断トツの強者だろう。


「そっちは何人ですかねぇ!っと!」竜二はズサーっと石畳を滑りながら僕らを守る様なポジションに戻った瞬間、自分の右尻をかかとで蹴り上げて敵への攻撃に切り替えた!

陣地も近いから竜二はライトニングを使う事に決めた様だった。


「三人で行くぞ!」

「はいよ!」ヒカルの策に僕は返事をする。今日ビビった事は、見た敵全員が硬化マントを着ていた。

無料配布か!?



敵の長い棒から繰り出される攻撃をマントで防ぐも、むき出しの足はどうしても防げず、ヒカルは苦戦していたが両手武器の竜二は左右の警棒を攻守巧みに使って接近していく。僕はサポート役に徹する。だって木なんだもん。敵も木だけど。


三人で取り囲んで乱打戦が始まったが、ヒカルはビスケットをまだ晒さない。


まずは相手の実力を知る。いつもの基本作業は体にしみ込んだのか、3人タイミングよく攻撃を加える事が出来ていた。それが暫く続いた気がしたが

ついに敵の行動パターンが変わり終了となる。

ヒットアンドアウェーはやはり敵にはやりづらい様で


「仲間来たけど、作戦会議するからいったん引くわ。じゃーな!」


と息の上がった声で言って遅れてきたさっきの二人と合流して帰って行った。



やっとホッとできる。

ヒカルは徐々に戦線を押し戻しながらも内心焦っていたみたいで、

「たぶんあいつは一人で止められなかった。ゴメン。」と謝ってきて僕らは

「結果オーライだって!僕らも休憩しよう!疲れた。」と返事をした。




水を飲みながら僕らの話を聞いたヒカルは何やら頭を悩ませて、スマホで動画を見て笑ってるネネちゃんに質問しようとしたが、誘惑を振り払って自分の答えを絞り出したんだ。


その間僕と竜二は先日クリアした剣の伝説3の話をしてた。ゴメンヒカル。


ヒカルの考察はこうだった。


「参加者は恐らく6人。根本から僕の予想は間違っていた。何の数かもう解るよね?」


竜二は「あっ!」と言った。

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