第78話 振返期③ パンとビスケット

「ビスケットの技術がほんとに安定していたら、もっと工業や産業に活用されていたのかもしれないけど硬化時間に問題があってそれが理由で利用価値が無かったの。


もし他の誰かが見つけてて学会か何かで発表しててもゴミ技術として埋もれていたかもしれない。」


ヒカルが「なんで??」と聞くと


ネネちゃんはスマホの新作発表するCEOかのごとく左右に歩きながら説明しだした。


「ビスケット。これはハイドラが作り出したんだと思うんだけどメリットの割にデメリットが多いの。

それが今から言う5項目でわかると思う。


①液体金属の質量によって磁力をぴったり当てないと全く硬化しない。


②一度硬化すれば質量が変わらない時、20分ほど強固な結合によって形は保たれる。


③20分経過、もしくはかけたり質量が変わると10分くらいで徐々に柔らかくなって初めの液体に戻ってしまう。


④液体に戻る前に磁力を調整してあげると再度硬化するがその時、硬化に必要な磁力が不安定なため数回変動する


⑤磁力設定調節ツマミは1000段階ある可変式で、正解率0.1%を数回探すのは戦闘中では得策でない。



恐らくエーセブンは規定量の液体金属に対して、最初は絶対硬化する規定値の磁力を把握していて使い捨てで戦う予定だったんだよ。2個所持してた事が遺品からわかったの。」


「え?と言うか僕らってたった2〰30分くらいしか戦ってなかったの!?」僕はそっちに驚いてしまった。


「そうだよ。」


「俺もめっちゃ長く感じた。」と竜二。


「なるほどなぁ。決して使いやすい武器ではないんだね。こちらとしてはいつ何時なんどき武器が生成されて襲われるか、と考えるとたまったもんじゃないけどそれも狙いなのかも。」


「そういう怖さはあるよね。でも使い捨てじゃぁねぇ。携帯性能は決して悪くないけど。そんな感じでメリットデメリットが均等にあってはっきりしない武器がビスケットよ。


実用的じゃないってのが研究所の見解。」



「じゃあ俺の使ったライトニングは??」


「僕は自宅謹慎中、ライトニングの解析前の情報をヒカルに聞いたような気がするけど。」


「ネネがお兄ちゃんに言ってた話ね、ドンピシャで想像通りだったわ!あれは規格外の兵器だった。

ね。」


「竜二しかいないじゃん!」と僕。


「だから竜二君に合わせてカスタムしてるんじゃない!ゴリ先から聞いてなかった??」


「まじか~こえー!!あれがメインウェポンかぁ~!」と竜二が言ったけど顔は楽しそうだった。


「ゴリ先の思い当たる武器ってライトニングだったんだ。というか現代武器の銃なんかで対抗されたら勝てないよね。」とヒカル


「それがね!」


ネネちゃんはパッチリした片目をさらに開いて、


「まだ検討段階で秘密なんだけど、ビスケットの技術で軽量の防弾チョッキかマントを作れる気がしたから提案したら素案が通ったの!」


「銃弾も防げるの?!」僕はビックリした。

「そうね、それが出来ないと意味ないよ、軽量でもいくらかは重いよ。中学生で着れるかはわかんないけど、ってお兄ちゃん達みたいに結構 鍛えてたら絶対着れるわ。」


僕らは3人でお互いを見合って自分たちが3ヵ月前に比べてかなり鍛えられていることに気がついた。

3人とも体格は男子体操選手でムキムキの人に近くなっていた。


「そっか、基礎体力・筋力は結構ついてたんだ。」竜二がボソッとつぶやいた。

「ここで筋力付けたら身長伸びないんじゃ・・・。」僕は心配になった。






テスト勉強を終わらして竜二とも別れ、アークと話しながら勤め先のムギ薬局に向かっていた。

もうすぐ仕事が終わる母さんを迎えに行こうと思ってたんだ。そしたら母さんは近くのキャリン堂から出てきた!


え!?母さん!潜入市場調査!?ワクワクして近寄って、低い声で

「そこのキレイな奥さん!!」と母さんに声を掛けたら、キラキラした営業スマイルで振り返り、

「私の事かしら!!」と僕をみた。


「え~~カガミじゃん。」


「それ息子に失礼だよ!!」


「とりあえず仕事終わらしてくるね!明日のパン買ってて!!」母さんはそう言うと1000円を僕に握らせてまたムギ薬局に戻って行った。





僕はおいしそうなパンを探して商品棚を見ていると、白い服の店員さんが寄って来た。

ネクタイをしててハゲ散らかしてたから店長だなぁってわかったんだ。

ネクタイの柄が変わってて目についた。こすると魔人が出てきそうなカレーを入れる容器のからーが注がれる絵だった。変なの。



「天道さんの息子さんのカガミ君だよね?」

僕はこういう所で人の株を上げる事が得意な男だ。いっちょみかんちゃんの株でも上げますか!?


「はい!こんばんわ!不肖ふしょうの母、天道みかんがいつもお世話になっております!」


「え~めっちゃ丁寧だね!もう中学校って言ってたもんね~スゴイ!でも不肖は母さんに使っちゃダメだよ!」店長は笑顔で母さんをディスってることを注意してきた。ゴメンゴメン。



「そうです13歳になりました。確かに店長さんお久しぶりですね!母さんからよく話は聞くんで久しぶり感無かったです!いつも賞味期限の近いジュニアプロテイン頂いてありがとうございます!!」


「あ~プロテインってカガミ君が飲んでるんだったね!確かに小学校の時に比べて体つきが良くなったよ!

天道さんは僕の悪口を言ってるんじゃないか?ハハハ!!そんな事ないか!ワハハハハ。」


僕は悪口に心当たりがあったからサァーっと視線をパンの方へ避難させた。


「えっ!えっ!!!悪口言ってるのかい?どうなんだい!!教えてくれ!一生のお願いだ!天道さんにムギを見放されたらやっていけないんだ!!何でもするから!何でも買ってあげるからっ!」


「あー、店長さん、後ろ・・・。」

パンコーナーの前で膝をついて僕に懇願し始めたハゲ店長のすぐ後ろに母さんの仁王立ちが見えた!

後光がして見える!なんだ化粧品コーナーの照明か。



「あ、天道さん!お疲れ様です!」

母さんに気付いて立ち上がり中学生に命乞いをする店長は若干のシンパシーを感じたが、母さんの目にはただのクズに見えたんだろう。

どうなってるんだこの二人の立場関係は!?


母さんは

「ムギブランドの食パンにしましょう!北海道産の国産小麦を使ってて発酵はルヴァン種なの!舌ざわりのいいもっちり感の中に小麦の力強さを感じる一品なのよ。ムギだけに。」と店長を無視して笑顔で僕に話し出した。


「確かにちょっと前、試作品のパン貰ってきたって言ってたけどおいしかったよ!味わかんないけど匂いは良かった。あれが商品化されたんだ。」と似たパッケージを見てそう言った。



店長は話したかったのか

「そのパンはまだ発売したてであんまり知名度は無いんだけど、そこらへんで最近流行ってる高級パン屋のそれと比べても遜色ないクオリティで価格もお手頃なんだ!さすが天道さん!」


「え?!母さんが開発に携わったの?!」


母さんは遠い目をして、目を細めると話し出した。


「ええ。非常に困難を極めた戦いだったわ。この3ヵ月あなたが特訓で死にそうになっている時、私も必死だったの。カガミの姿を見て私も頑張んなきゃと思った。


声を掛けてやれなくて本当にごめんね。でもこのムギを救えるのは私しかいないと思ったの。自分に与えられた仕事を着実にこなしてこそ、次のステップは訪れる。


今まで培ってきた薬品知識をパンの発酵に生かせないか?そんな疑問を本部主催のして、の話は半ばに始まったの。」


母さんは無駄に【コウボ】と【オウボ】を掛けてドヤ顔だったからシンプルにムカついた。


パン > 息子  


家族の献身的な支えってものがあればツクモの前で突然泣いたりしなかったのに。


「僕も結構限界まで追い込まれてたけど、まさか、パンに負けたなんて。」母さん。ショックだよ。

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