第3話 幼少期③ 落ちていく雫
ちょっとの間、目を見つめてしまったけどキョトンとしてるところ見ると怒ってるわけではなさそうだ。
青リボンの言うイチゴサイダーはどの自販機にも売っておらず、一度拝みたかったが、
諦めてもらうよう説得を試みる。
「サイダーはあるけどここの自販機にイチゴサイダーはないと思うよ。」
と言うと不思議な顔をして首を傾げられた。
え?変なこと言った??あ、期間限定かも!?くそー!アイスは味の違いがわかんないから触感重視のサイダー 一択だったけど、まさかイチゴの味付きがあるとは!!
毎月ここに来ているはずだが、僕は自分の知識の無さにショックを受け、知識の女神に用意できなかった分と未熟で申し訳ないという二つの意味を込めた「ごめん。」を口にした。
僕にちゃんと味覚があれば悔しさで口の中は血の味が広がっていたに違いない。
唇を甘噛みした程度ですが・・・。
その後も他の場所まで隈なく探したけど実際無かった、がしかし、存在した事実を知っている彼女に軍配が上がるのは明らかだ。
そしてたった一人の知識の勝者を讃えるべく「どのアイスにしますか?」と問う。
女神はキョトンとした顔のままだった。
いちいち言わないと解らないのか、あんたの勝ちって事だよ!と。
そう500円という限られた資金の中でアイス行きの切符を手にできるのはたった一名。
今から20円母さんにもらいに行くほど僕は落ちぶれちゃいねーぜ!!
今日もサイダーでいいさ。 もしかしたら青リボンは
「ふつうのサイダーね、ププッ!」
ってなるかもしれない。でもいつかこの悔しさの壁を【知識】という名のハンマーでぶち壊し新たなステージに舞い上がって見せる!
帰ったらスマホで母さんにイチゴサイダーをググってもらおうと誓いました。
5分後
僕たちはなぜかぬいぐるみを挟んではいるがくっついて腕を組んで二人で仲良くアイスを食べていました。
寒かったのかな?
なんと!女神は170円のプラッチックの安いバニラを希望し、「え?まだ330円あるじゃん!」と言って
興奮した僕は260円のスイカ味のアイスのボタンを連打で購入。(出てきたのは一つだけでした)
誰もが500円という大金を持っていれば高級アイスを口にしたいと考える。そんな
愚かな僕の先入観の壁を見事に【知恵】という名のハンマーでぶち壊してくれた。
感謝しています。名前で呼ばせていただけますかアオリちゃん。
それになんだかおいしい気がするんだよね?
なんとなくだけど。元々スイカの味なんて知らないけどスイカと相性が良いのかもしれない!なんか味がするってこうゆうこと??みたいな。
初めての味って物に感動しつつ、お互いの名前の紹介もしたから聞いてみたんだ
「アオリちゃんはバニラ好きなの?」ってあれだよ高級アイス譲ってくれた後ろめたさとか探りをいれるとかじゃないよ!純粋に質問したんだよ!
するとですね、思ってもみない答えが返ってきたわけですよ。
「いつもは100点だけど、今日は50点かな。でも味がわかって良かった。」って
ちなみに僕の中の予想してた答えは
「うん好きだよ!ありがとう!」だったんだけど斜め上か下かも解らない返事に頭を悩ませる。
けど怒っているわけではなく優しい感じがする。笑ってないけど笑ってる感じ。
??あぁ あれね 理解するのに時間がかかるよ。
前はおいしいと思ってたけど【100点】久々に食べたら ん?こんな食感だっけ【50点】??
ってなって、最終的にはすぐにまた食べるわけじゃないけどま、この感じ思い出せたし【良かった】。って話。 ワカラン。母さん謎の友達が出来たよ。
食べ終わる頃には看護師さんと両親がやってきてそれぞれ検診に向かった。お互い手をふって別れた後、
母さんに「アオリちゃん若いのに病院かわいそうだね。」って言うと
「・・・カガミ、あなたも一緒だしあの子同い年よ。」っていわれました。
やめて何言ってんのって顔やめて!
僕の検診は手術後の体力測定と身体測定これは小学校でやってるのと同じなんだけど、
その他たくさんあって4時間くらいでやっと終わる。それでも一般の人と比べるとかなり早い方で
一人の専任看護師さんが付きっ切りで一緒に回ってくれるスタイル。並ぶこともない特別枠。
5歳の時に心臓の手術をしてもうすぐ2年。今は経過観察がメインだそうだ。
採血の時にいつも聞いてくるおなじみの言葉も覚えた。
「アルコールでかぶれたりしない?」「怖かったら言ってね?」
あと知能も見られて恥ずかしい。後日になるが僕と同じ病気だった子どもたちの順位が書いているのか7人中7位のぶっちぎり最下位に母さんも僕も苦笑いだったけど、
病院の人は「テストの点数には出ないものもありますから大丈夫ですよ」と言われた。
母さんバカでごめん。
そのテストの後は心臓エコーとCT・MRIで終了。地下4階と5階で
すべて回り切った。 スタンプラリーの終了だ。
家に帰って
「ふ―疲れたねぇ。」
と言ってソファに座った母さんに何となく
「今日もありがとうね。」
って(まぁ主にアイスの事なんだけど)言ってコップにお茶を入れて渡そうとしたんだけど、僕も疲れてたみたいでお茶のポットが重く感じてヤベー!と思ったが最後、注ぎ途中でコップも倒しポットも床に落としてしまった。
すぐ「ごめんっ!!」
って謝ってポットを立てて床拭きタオルを取りに行こうと見上げたら目の前に
母さんがいて突然ギュっと抱かれて。
顔は見えなかったけど多分泣きながら「大丈夫、大丈夫だから、ね。」って言われたのを忘れない。
西日のさすオレンジ色の部屋でテーブルからポトポト落ちるお茶の速度がゆっくりになっていくのを、何だか表現できない胸苦しい気持ちでただ見ていることしかあの時の僕にはできなかったんだ。
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