ごーに ViVi-D

――この宇宙がもうおしまいだって、言ったら怒る?

 怒る先もない。昔はずっとずっと長い時間をかけてようやくわかったことが、今ではすぐに到達する。

 わたしは全てを任せて宇宙をただよう。車の後部座席で横になって気が付けば目的地に着いている。それと同じように、宇宙船に乗り込んでこうしている。

 無重力が体を漂わせる。わたしには様々な細かなこと、技術的なことは分からない。ただ、外側を投影する柔らかな画面だけに包まれて、ボタンも、パネルも、まるで人らしい操作が出来そうなものが何一つない船内を自由に、あるいは拘束されて、歩き回ることも出来る。

「歩けるようにして」

――イヤ。

 そんなひねくれたやり取りの後で、この楕円形をした船内の広い面の方に足をつける。外側が全て投影されているから、何もない所に立って、全身で何もない空間宇宙を見ることが出来る。

 少し前に、太陽系が太陽によって呑み込まれて、なくなってしまったのを聞いた。他の場所へ、似ている惑星へ、わたしたちはそうやって飛ばされて、新たな居住星を見付けた。

 というよりも、から、そのようにしか知らない。

 生まれた頃には生活するための場所があり、そこに住む人に似た知的生命と融和的な関係が結ばれ、何不自由ない居場所が形成されていた。

――わたしは逃げたんです。

「怖くて?」

――そうではなくて。

 わたしはその声が生まれた時から寄り添っているものと知っている。<新しい脳>本当はもっと専門的な言葉で、難しいことをして、人のありかたを進化させた。

 そうはいっても、わたしは人寿命で、このはそのずっとずっと先まで残る。H、O、N、C、これらがあれば、何度だって繰り返せるから。

 ベニクラゲと同じようなものだよ。ただ、残す、繰り返す、その所にちょっと細工をしただけ。

 そしてそれはもうこれっきりだって。

 なぜなら、この宇宙はもうおしまいだから。圧縮か、拡散か、再帰的なものか、場そのものがなくなってしまうのか、いろいろあったけれどもう意味はない。

――ほんの少しの隙間から理論上の宇宙を作り上げて、情報は不完全だけど機能して、それを現実のものとすることが出来たんだ。

「でも、こうして逃げて来ちゃった?」

 わたしに新しい脳ViVi-Dは見えない。わたしが安心するように、とても似たような声で話すけれど、その子がどこに居るのかさえ分からない。

――こうしていれば、ね。

 わたしはまた漂う。楕円形の形がずっと前後に伸びて、おそらくそれは前と後ろで繋がっている。平衡感覚が分からなくなっても、壁にぶつかって、跳ね返って、そんな感覚があった。

「怒らないけどね、ほら。あちこちで」

 重力波が出ていた。たくさん伸び縮みして、弾けて、多くの恒星がきらめいて、わたしはそのものになる。

――見せたかった。見せられないから、せめて最後は一緒にいようと思って逃げた。

 言わんとしていることは知っていた。わたしたちはだ。だから、ここ現宇宙では一緒に、協力していられた。

「それなら、歩けるようにして」

――それは、イヤ。

 言いながら、わたしは宇宙に足をつける。この遠大な光景が全部わたしのものだと思い込む。光れ、弾けて、その光景だけ。

「あ、そうか。そうだね」

 わたしはふと、イヤと答えるこの子がどうして、漂わせるか、その理由に至った気がした。

――わたしにも、教えて欲しいな。

「イヤ」

 たまにはやり返してやろう。もう終わってしまうなら。

 下方で比較的近い位置の恒星が今にも超新星爆発を起こしそうだから、たぶん回避は間に合わない。

 ヴォイドの中に逃げ込めば、そうはならなかったかもしれない。そんな時間もなかったけど。

――ほんとに、ダメ?

「‥‥同じように、漂っていて欲しいから、だよね」

 少しだけ、はっとして沈黙がある。その沈黙はとても柔らかい。

――うん。

 この宇宙はもうおしまいだから。

 全てを任せ、



 ただよう。

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