さんーいち 枯れぼたん

 花と油は誰もが求める生活の網。素直に誰もがそれを必要と考えてました。

――考えたことがある?

   わたしが落ちたらってこと――

 誰でもいつかは落ちます。

 けれどもそれが早いから彼は恐れている。綺麗な薄い青のドレスは一点もので替えがありませんから。

――それを見ていて、どう思うだろう。

 いたずらっぽく首を傾げて見せようとしても、もうあの頃のようには動かない。

 動けません。

 自然から作られた人形は早いの。その一点だけの、彼は、早いのでした。通り過ぎる季節が瞬きの瞬間で終わるように。

 綺麗な髪は油がないとくすくすと崩れてしまうし、関節は命を無くしたからわたしが動かしてやらないといけなかった。

 枯れ牡丹。毎年現れる彼の名前です。

――わたしはね、どうやらまた一点もので作られるみたいなんだ。

 それを知らないわけがありません。

 同じ木から生えているのですから。


 わたしはお祝いに貰った花と、赤に近いピンク色の薔薇油を持て余していましたから、彼の元にいつも毎日同じ時間に行きました。

――汚さないでね、こんなこと言うのもなんだか悲しいね。

 ほんの少しずつ、彼は衰えているのがわかります。

 自分では動けなくて、それで自我があるって、大変なことです。

 球体関節には油を差してはいけません。そのものが持つ滑らかな球面が自然な動きを生むので、差すのは本当に最後の手段となります。

 そして、枯れ牡丹には至る所に油が必要でした。ほんの少し垂らして、関節を回してやって、髪の艶を保ってやって、わたしは彼がもう長くないのを日増しに感じていました。

――また、会ったら。ううん、枯れ牡丹だなんて、呼ばないでさ。

 彼は小さな声でわたしに伝えます。

 その素敵な名前は、ここでは伏せておこうと思います。だって、言ってしまえばそれは摩耗してしまうから。

――もう、明日はいいよ。わたしが、落ちるのは見て欲しくないから。

 そうだと思っていました。

 彼は確りと自分が落ちる時を知っていますから、わたしたちと違って穏やかでいられたのです。

「うん。そうするよ」

 今だけでも、あの美しかったころの髪と、強かったからだと、その生を感じていて欲しい。

 

 わたしは、最期の髪をく。

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