ろく バラスト

 居場所が分からないものだから、街中をさまよう。

 目的や楽しみや様々な苦労はひた隠しにして、なんとかやっているよ。


 ただ生きていて、それだけ。

 時流が悪ければ捨てられ、良ければ買われて、けれども一様に期待外れだった。

 見た目の悪い野菜から買ってやろう。


 流行る飲食店と展示にこだわる服屋と、そのどちらもを見ながら公園のベンチに腰を下ろす。

 なんだか違和感があって、この場がとても不安定なものに思えた。

 何度も何かを捨てて、沈みゆくのを避けようとしてどこか裂けている。

 ハムのように。


 自宅で包んだサンドイッチを取り出して食べる。

 水分が染みて、生ぬるい。悪くならないように保冷剤を入れてくれば良かった。

 溶けかけたチーズがいやらしく張り付くものだから、垂れ下がるものだから、包んできた紙袋はもう使えない。


 味はまだしっかりと舌から感じられる。

 忘れたのは植物性油脂、ファストスプレッド。取りすぎている脂肪酸ばかりが周りにあって、アマニ油をそのまま飲む。

 水筒に麦茶と入れて飲む。油を入れれば漏れ出すのは承知の上でやる。


 やらないでください。考えてくださいね。


 頭から溶け出している思い出はここで捨ててしまおう。掃いて捨てるほどにある思い出は些細なことばかりだ。

 ちょっと嫌な思いしたとか、言葉を大袈裟な想像力で捉えたとか、噛み砕いて飲み込むパンとハムだとか、照りつける太陽を見ればくしゃみが出るだとか。


 ひとつ食べて立ち上がる。

 なぜここにいるのだろう。早く出ないと。

 居場所はやっぱりわからない。街中も公園も、少し溶け出して消えるだけだから、不安定なままな地面を踏んでさまよう。

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