未来

遠藤良二

僕は能力者

 僕は父と母と姉の4人暮らし。山奥の方に住んでいるので車の免許は必須だ。


 僕は今年、高校を卒業した19歳で市井悟志いちいさとしという。身長は180cmくらいで細身。高校卒業してすぐに髪を茶色に染めた。ずっと前から染めたかった。お洒落というやつ。

 職業は実家が農家なのでその手伝い。ちなみにミニトマトと野菜を作っている。

 顔は自分で言うのも何だが、目は細く、鼻筋が通っていて、口は小さくイケメンだと思う。その証拠に高校の頃は3年間彼女がいた。3人と交際していた。もちろん、一度にではない。よく、悟志くんて優しいよねと言われる。僕は普通にしているのだけど。


 好きなことは、カラオケ、読書、習字、ゲーム、散歩、バスケと野球をプレイする・観る、温泉と多趣味だ。

 嫌いなのは、相手の気持ちを考えないで話す人、不潔な人・不潔なこと、などだ。


 僕は特技というか、特殊な能力というか、力がある。


 現在、彼女はいる。どこで知り合ったかというと、収穫したミニトマトを農協に持って行く仕事があるのだけれど、そこで、若い女性と何度か顔を会わす機会があってこちらから声をかけた。


 僕よりひとつ年上の20歳。名前は長田潤奈ながたじゅんなという。付き合って1年目。子どもが好きなようで、僕の姉の子どもを可愛がってくれる。


 職業は僕と同じく、実家が農家で手伝っている。ミニトマトと米農家だ。

潤奈は、身長は標準くらいだと思う。細身。髪は背中くらいまで伸びていて黒い。顔は、目が二重で割と大きく鼻はスッと高い。のほほんとした女性。

 

 彼女の好きなことは、花を植えて鑑賞すること、読書、熱帯魚観賞、猫と犬を飼っているから一緒に遊ぶことだと思う。お互い好きなことが多いから、デートは週に2~3回にしている。毎日は会わない。


 潤奈と共通の趣味は読書で、お互い、ミステリー小説が好きだ。小説家も同じ人が好きで、全て共通してる訳ではないが、感想を言い合ったりしている。それでたまに喧嘩する時もある。ヒートアップして。すぐに仲直りするけれど。


 僕が思うに共通の趣味があるといいな、と思う。実際、潤奈とはお互い読書好きだから会話に困らない。

「来月、この作品が出るよ!」

 とか、

「これ面白いよ!」

 と、いうような話が尽きない。

 犬も猫も僕の家にはいるから、そこも共通点だ。


 まあ、共通点だけあればいい、というわけではないが。もちろん、潤奈の外見や性格も好きだし。可愛い。


 僕が潤奈の性格で好きなところは、[頑張り屋さん]、[明るい][優しい][神経質の傾向が低い]という感じかな。彼女は僕の好きなところを訊いたことがあるけれど、

「恥ずかしいから言わない」

 と、言っていた。そういう繊細な部分も好き。


 でも、逆に嫌な部分もある。そこはあえて追及しないが。追及して潤奈のことが嫌になっても困るし。嫌にならない自信はあるけれど。それだけ、彼女のことが好きだということだ。


 潤奈が嫌いなのは、多分、不誠実で適当な人間が嫌いなような気がする。


 喧嘩などをした時に僕は彼女の心を読む。でも、人の心を読むということは精神を凄く集中させるから疲れる。潤奈と家族だけは僕が人の心を読めることを知っている。何で知ったかと言えば、小さい頃、母親の思っていることを読んでしまって、それでバレた。潤奈には自分から打ち明けた。すると、

「読まないでね!」

 と、強い口調で言われた。でも、潤奈の真相を知りたい時だけ、この能力を使う。もちろん、相手には言わない限りバレない。会話で真相を知ればいいのだろうけれど、喧嘩をしたら本音を吐かないから困る。言って欲しいのに。だから、この能力を使う。でも、彼女の真相を知っても言うことはない。僕の中で、そう思っているのかぁ、と解釈するだけ。気持ちを共有できないのが寂しい。でも、仕方のないことだ。


 この前、喧嘩した時に潤奈の心の中を読むと、

<もう会いたくない>

 というものだった。ショックだった。でも、そう言われた訳ではない。読まなきゃ良かった。自業自得だ。でも、心を読むのはやめない。だって、楽しい時もあるから。ゲーム感覚で、潤奈が何かを思い僕がそれを当てる、というもの。ゲームの中でたまに彼女は嘘をつくので結構、楽しい。


 あと、親や姉の心も読む。

「心を読むなよ」

 言われているが、いたずら小僧のように心を読んでバラしては怒られている。この能力は多分、生まれ持ったものだろう。


 父は45歳で市井順いちいじゅんという。自衛隊勤務だ。聞いた話に寄ると、父が独身の頃は転勤が何回かあったらしい。でも、結婚を機にマイホームを建て、それから転勤しなくなったらしい。

 母は、46歳で市井紀子いちいのりこといい、看護師をしている。デイサービスセンター勤務だ。この前、僕の仕事の話を母としている時、勤続15年目と言っていた。

「凄いなぁ」

 言うと、

「お父さんは、高校卒業してからずっと自衛隊だよ。多分、26年くらいになるんじゃない? 計算したことないけど」

「2人とも凄すぎ! よく、そんなに続くよなぁ」

「生活していくには、働かないといけないから特別なことはしてないんだよ」

 僕にはそこまで続けられる自信は、はっきり言ってない。そう話すと、

「そりゃ、最初から自信なんてないさ。続けていく内に、いろんな経験をして自信はつくものだよ」

 母はそう言い、妙に説得力のある話だなと思った。さすが、経験者は語るだ。

 姉も看護師をしている。市井彩いちいあやという。姉は病院勤務だ。母が勧めたらしく、給料のいいところに就職しなさい、と言ったらしい。進学するためにお金は出してあげるからと。そこまで言われたら看護師目指すか! となったらしい。本当は小説家になりたかったようだ。それを母に打ち明けると、

「堅実に生きた方がいい、小説は働きながらでも書けるでしょ」

 そう説得したようだ。

 姉は姉で、そんなことは承知の上だったらしい。けれど、母の意見に逆らえなかったと言っていた。母は強し。


 僕は、親以上に姉が好きだ。シスコンと言っても過言ではないと思う。頼りがいがあり、一緒にいて安心する。母は口うるさいので正直苦手だ。父の方がそんなに言ってこない。母というのはそういうものか。


 今日は雨で仕事は中止。潤奈の家も休みだろうか。もし、そうなら会いたいな。そう思いLINEを送った。

〈おはよう! 潤奈。今日、雨だけど仕事は中止?〉

 暫く返信がない。仕事をしているのだろうか。辛抱強く待ってみる。

 約2時間後、返信がきた。

 本文を見てみると、

〈ごめん、熱出して寝てた〉

 書いてある。えっ? 熱? 急に心配になった。更にLINEを続けた。

〈大丈夫? 風邪? 病院に連れてくか?〉

 次のLINEはすぐにきた。

〈ありがとう、じゃあ、お言葉に甘えようかな。辛くて……〉

〈今から行くから、用意して待ってて〉

〈わかった〉


 僕は急いで支度をした。ブルージーンズを履き、白いTシャツに柄が入っている。財布とスマホと煙草を潤奈にもらった小さいポーチに入れて家を出て、自分の車に飛び乗った。道中はスピードを出して走った。家族に何も言っていないのを今になって思い出した。まあ、いいか、と思い走り続けた。


 彼女の家は僕が町に降りる途中にある。心配のあまり40キロ規制のところを80キロくらいで走っている。ちょうど、車の通りも少なく、パトカーも走っていなかったので捕まることはなかった。でも、潤奈を乗せたら少しスピードを抑えないと。以前、猛スピードで運転したら怖がっていたから。そういう思いはもうさせたくない。愛しの潤奈。


 7、8分走り彼女の家に着いた。

そして、LINEを送った。

〈着いたよ〉

 潤奈は何も言わずに家から出てきた。そして、助手席に潤奈が乗りゆっくりと発進した。運転しながら、

〈大丈夫か?〉

 と、話し掛けると、

〈あんまり……〉

 僕は彼女の顔を見ると、真っ赤になっていた。一体、どうしたというのだろう。心配だ。

〈怠いし、38.9℃も熱あるんだ〉

〈えっ! そんなに!?〉

 潤奈は黙っている。喋りたくないのかな。そう察し、話しかけるのを控えることにした。

〈内科のある病院に行くか〉

 僕は小声で呟いた。

 町立病院の内科にしよう。

 

 10分くらい走り町立病院に着いた。駐車場には患者だろう、たくさん停まっている。これは、かなり待ちそうだ。全員が内科ではないだろうけれど。


 潤奈は怠そうにしていて車から降りようとしない。なので、声をかけた。

「着いたよ、降りよう?」

 彼女は沈黙を貫きながらドアを開けて降りた。体調が悪いからなのだろうけれど、いつもと様子がおかしい。だが、尚も僕は話しかけずに黙って様子を見ていた。


 僕は彼女の傍に寄り添い、手を繋いだ。

「ありがと」

 ようやく笑みを見せてくれて僕は少しホッとした。僕も内心、手を繋げて嬉しかった。


 とりあえず、ゆっくりと彼女の歩調に合わせて駐車場から病院まで歩いた。


 受付を済ませ、待合室で待った。待っている途中で潤奈が血圧を測ったり、体温を測り、体重、身長も測っているのが見えた。立っているのも辛そうだ。可哀相に、なんでこんなことになったんだ。


 診察室には一緒に入った。


 診察してもらい、風邪だろうと言われた。熱が高いので、点滴を受けることになった。


 僕は待っている間、母の携帯に電話をした。事の経緯を話した。

母は驚いていた。いつも凄く元気なのに、と。

 お互いの両親には既に会っている。一応、結婚を前提で交際している。


 僕と潤奈が結婚を意識するようになったのは、お互いの家を行き来して、お互いの両親に会うようになってからだと思う。


 待っている間、そのようなことを反芻していた。


 点滴室には入れないので、外来の待合室で待っている。



 約2時間後、点滴が終わったようで呼び出しのコールを鳴らす音が聞こえる。僕は潤奈が出てくるのを、今か今かと待っている。看護師が足早にやって来て、彼女のところに行った。


 数分後、看護師が出てきて、その後ゆっくりと潤奈が出てきた。怠そうだ。僕は、

「潤奈?」

 と、声をかけた。

 熱は点滴をうったから、じきに下がるだろう。彼女はうつむき加減で僕の傍に来た。

「はぁー……。辛い……」

「早く良くなるといいな」

「……そうね」

 僕は立ち上がり、

「帰ろうか」

 と、言いながら手を差し出した。潤奈は、

「ごめん……今はちょっと」

 そう言われ、僕は手を引っ込めた。僕の心にちょっぴり傷がついた。でも、仕方ない。彼女は体調が悪いから。


 帰りも車の中では無言だ。すると、

「さっきは拒否しちゃってごめんね」

 潤奈は言った。でも、

「僕のことより、潤奈な気持ちを優先させたくてさ」

 すると、

「相変わらず優しいのね。その誰にでも優しいところが私は嫌なの。私だけに優しくして」

 僕は絶句した。そんなことを言うなんて思いも寄らなかった。しかもキツい言い方で。熱があるせいなのか。よく分からないが。


 僕はこの時ばかりと潤奈の気持ちを読んでみた。気持ちを集中させ、彼女の心の中を覗いてみた。すると、

<早くひとりになりたい。コイツはその優しさが今はウザい>

 えっ! マジでそんなこと思っているのか……。大打撃だ……。ショック……。僕は、一気に落ち込んだ。もう、だめだ……。そんなこと思われているなら。これは、嫌な予感……。


 僕は、潤奈を自宅まで送りとどけ、

「じゃあ、大事にして。良くなったらLINEちょうだい? 無理しちゃだめだからね」

「うん、ありがとう」

 そう言って、潤奈が家に入るまで見届けた。

 それから僕は自宅に向かい車を走らせた。せっかく、会えたというのにこの有様だ。


「私だけに優しくして」


 そのフレーズだけが脳裏に残っている。そうするように心がけるかな。でも、周りの人達が急に僕が冷たい態度になったらどう思うだろう。それか、冷たくなくても、優しくしないとか。


 今回は酷いことを潤奈は思っていたが、彼女の意向に沿うようにやっていこうと思う。


 翌日。潤奈からLINEがきた。

<おはよう! 熱下がったよ。昨日はひどいこと言ってごめんね>

 と、いう内容だ。

<正直、ショックは受けたけど潤奈だけに優しくするように努力するよ。他の人には優しくしない>

 しばらくLINEはこない。どうしたのだろう。そして、ようやくきたLINEの本文には、

<周りの人達にも優しくしてあげて。昨日はどうかしてた。ごめんなさい>

 と、書かれていた。

 そうなのか、謝ってるし気にしないことにしよう。

<いや、いいんだ。気にしないで。熱が悪さしたんだと思うから>

<ありがとう! やっぱ、優しい悟志が好き!!>

 昨日とは大違いだ。

<熱下がって良かったよ。ありがとう。僕も好きだよ!>

 こうして僕達はわだかまりもなく、またいつものようにやっていこうと思えることができた。

                              (終)

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未来 遠藤良二 @endoryoji

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