74.

 透子とうこの困惑した声。ブルーの悲鳴。何もかもが異常事態だった。

 一体、何が起きているんだ。

 私たちは目的のモノを手に入れたはずなのに、アジトにいたナンバー持ちを倒したはずなのに。


「透子。昭和火口だよね。今から向かう」

『待っ————』


 狙ったように切れる通信。偶然なのか、何者かに妨害されたのか。……タイミングのことを考えると後者じゃないかと思う。

 この島に来て戦いが始まって以来、ずっと私たちが優勢だと思っていた。だけど……これは……。


「罠、だったのかな」


 私の、私たちの心境を全てブラックが代弁してくれた。

 否定は出来ない。今、この状況が物語っている。私たちはおびき寄せられたんだ。この桜島に。


「行こう。ブルーが危ない」

「おう」


 再びバイクに跨り、ブルー達がいる地点へと向かう。速度は限界ギリギリに。乗っている私たちが飛ばされない、ギリギリで走る。

 急げ。嫌な予感がする。急げ。ブルーとグリーンに何が起きているか、この目で確かめるまでは分からない。

 一分でも、一秒でも早くたどり着け————!









「ブルー!!」

「これは……」


 たどり着いた先は地獄。苦しそうに呻くブルーとその傍らで薄ら笑いを浮かべるグリーン。

 状況は……最悪だった。


「グリーン……そこで何をしている。ブルーが倒れているのにお前は……!」


 掴みかかろうとイエローが歩み寄る。

 だめだ。今のグリーンに近づくのは危ない……!


「待って!」

「っと。なんだよ、レッド」


 慌ててイエローの腕を掴んで引き留めた。力を籠めすぎたせいか、イエローは私の手を振り払おうとする。

 だけど離さない。ここで離したら次に倒れるのはイエローだから。


「冷静ですね。レッドは」

「お前、何を——」

「グリーン。貴方なの? 私たちをこの島におびき寄せたのは」


 単刀直入に問いただす。私の中にある予感を確信に変えるために、グリーンの返答を待つ。





「そうですよ。僕が……僕こそがナンバー”5”だ」

「なっ————」



 なんだ、それ。

 ありえない。そんなことがあって堪るか。

 だって今までずっと一緒に戦ってきた。何度も私を助けてくれた。何度も私たちに優しい顔を見せてくれた。

 あれらが全て嘘、演技だったと言うのか————!


「ナンバー”5”はさっき倒した。お前なはずがない!」

「君は相変わらずですね、イエロー。そういうのを浅慮というらしいですよ。さっきの男がナンバー”5”だって? 何故それを断言出来る? 裏付けはあるのか?」

「……ッ!」


 イエローは言葉に詰まり、悔しそうに俯く。

 さっきアジトで戦った男。あいつは自分のことをナンバー”5”だと言ったが、私たちは何の証拠も得ていない。つまり、あの男は……偽物フェイクだ。


「だが、ブラックは別だろう。あの男を見た時、ブラックは別人だと指摘しなかった。だったら——」

「……私が知ってるナンバー”5”はあの男のはず。だから貴方は、違う」

「一番最初だ。君と”5”が出会った時。その時、既に僕は支部に侵入していた」


 ……最悪だ。それが真実なら私たちの情報は筒抜けだったはず。今日この島に来ることも、囚われた私を奪還するための作戦も。全て、筒抜けだったんだ。


「じゃああの男は誰⁉ 私の……この身体の子の父親じゃないの⁉」


 珍しくブラックが声を荒げながら問いかける。

 そうだ。もしあの男の存在が、何もかもが嘘だとしたら辻褄が合わない。あの男は顔をいくらでも変えられるし、やっぱり成り済ましただけで別人——


「いや、それは真実ですよ。あの男は正真正銘、黒野くろの 結月ゆづきの父親だ」

「そん、な……」


 ブラックは膝から崩れ落ち、へたり込んでしまった。

 その真横に立ち、グリーンを睨む。……私にはそれくらいのことしか出来ない。


「つまりはこういうことです。ナンバー”5”の影武者として今日まで表舞台に立っていたのはあの男、黒野 結月の父親。昔から人を解剖して中身をいじくるのが好きな男でね。全く……不気味な男でしたよ」

「…………止めて。聞きたくない」


 これ以上、結月の父親の話は聞きたくない。

 ずっと優しくて、家族想いで良い人だと思っていた。それが嘘だなんて未だに信じられない。

 ブラックはへたり込んだまま、立ち上がれない。きっと、心の中で結月が泣いてるんだ。


「グリーン、お前は……!」


 鋭き一閃。

 左手に握った槍がグリーンへと迫る。


「右手、怪我でもしてるのかな。いつもよりキレがないですね」


 グリーンはイエローの一撃を軽々避けると、お返しと言わんばかりの一太刀を浴びせた。

 避ける間もなく、イエローの左腕から血飛沫が上がる。


「ぐっ…………いってぇ、な!」


 力任せに槍を振るうが、当たらない。


「君では相手にならない」


 下段からの斬り上げ。


「ぐはっ!」


 肩から腰にかけて、斜に広がる傷口。

 駄目だ。あれは駄目だ……!


「イエロー!」

「…………」


 駆け寄ったが、イエローはピクリとも動かない。微かに聞こえる呼吸音だけが彼の生存を証明していた。


「次は……君かな?」


 薄ら笑いを止めることなく、グリーンは私の前に立つ。


「絶対、許さない……。グリーン、お前は許さない!」


 もう躊躇なんてしていられない。呪いを、解放するしかない——!

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