55.

 私たちの作戦会議は深夜一時にまで及んだ。

 さすがに眠くなってきた私が残りは明日にしようと提案し、会議は一旦の区切りを迎える。


「なんか目がしょぼしょぼする……」

「長引いちゃったね。結社の内情が明らかになったのは初めてだからつい……」

「そっちじゃなくて掃除疲れ」

「本当にすみませんでした……明日から気を付けます……」

「今日から。ね?」


 透子とうこは申し訳なさそうに項垂れ、素直に謝った。

 ……こうやって素直に謝るのは透子の良いところだけど、果たしてその反省が今後に生かされるのか。真相はやぶの中へ。




結月ゆづき、こっち。申し訳ないけど、今日は私の部屋で寝てくれる? まだ部屋が用意出来てなくて……」

「全然。むしろごめんね、お邪魔しちゃって」


 お風呂を終えた結月を部屋に招き入れ、寝支度にかかった。

 私のベッドはセミダブル。小柄な女子高生二人くらい平気で寝られる。先に布団に入り、横をぽんっと叩いた。


「お邪魔しまーす……」


 ごそごそと、隣に結月が潜り込んだのを見届けてから部屋の電気を消した。真っ暗な中でしか寝れないから豆電球も消した。


「……」

「……」


 寝息は聞こえない。背を向けているから分からないけど、きっと結月は起きている。結陽ゆうひが寝たから結月も眠れない、なんてことはないと思う。


「……起きてる?」

「起きてるよ」


 どちらからともなく声をかけ、身を寄せ合った。こうやって結月と一緒に寝るのはずいぶん久しぶりだ。お泊りだって最後にしたのは……高校三年生に上がる前だったっけ。

 あの時はこのマンションじゃなくて、前の……私の家だったけど。こうやって一緒の布団に入って、何時間も語り合ったことをよく覚えている。


「……懐かしいね。一緒の布団で寝るの」


 私の心の声が聞こえたのか、結月も同じことを呟いた。

 高校はどうなの? 恋人は出来た? 勉強頑張ってる? あの頃と何も変わらない楽しいお喋り。時間を忘れてついつい話し込んでしまう。




「春は、さ……私がいない間、どうしてた?」

「どうしてたって……コウセイジャーになって戦ってきたよ」

「それは……私のため?」

「結月のためと……家族のため、かな。今度一緒にお参り行こう。おばさんもおじさんも結月に会いたがってるよ、きっと」

「そう、だね。…………お母さん、お父さん」


 鼻を啜る音が聞こえ、目を背けたくなる。半年前、結社に攫われたあの日。家族そろって朝食をとった時が最後だったんだろう。

 親の死に目にも会えない。ご遺体も…………半年前に葬式は済ませてしまったから。


「……春は、平気なの?」

「………………平気なわけ、ないじゃん」


 もう涙は出ないと思っていたのに頬が熱くなる。……やだな。あの時、何度も泣いたのに。

 私は、結月と違って、親の遺体を確認している。無惨に殺された、私のお父さんとお母さん。もはやどっちがどっちなのか分からないくらい、ぐちゃぐちゃにされた遺体を。

 あの時、駆けつけた透子の胸を借りて大声で泣いたんだ。

 だから今度は私が結月に胸を貸そうと思っていたんだけど……。


「う……ううう……」

「…………」


 顔は涙でぐしゃぐしゃ。とても結月を慰められそうにない。だから——。


「春……。春は、いなくならないでね。絶対、死なないでね」

「結月こそ……絶対守るから。何があっても守るから。だから私の側を離れないで……!」


 お互いの泣き顔を隠すように抱き締め合った。服についた涙も鼻水も、気にならないくらい強く抱きしめ合った。

 鼻水も涙も止まらない。プライドも恥ずかしさもない。私たちは等しく独りだから。

 泣いて、抱いて、泣いて。そんな夜。

 そんな夜があるからこそ明日が来る。

 明日には前を向いて、歩いて行かないといけない。どれだけ独りでも私たちは生きている。これからも一緒に生きていくんだから——

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