32.
「いらっしゃーい!」
「お邪魔します。あの、これ良かったら……」
「えー! そんな気を使わなくて良かったのに。ありがたく貰うね」
今日は学校帰りに
次の週末にでも、と私は思っていたんだけどいつの間にか
思い立ったら即実行だからな、あの二人……。
「
「うん、そうだよー。十九時前には帰ってくると思う。ちなみに他の兄妹たちは遊びに行ってたり、習い事に行ってたり。莉々と同じくらいの時間に帰ってくるよ」
「そう、ですか……」
分かっていたけどやっぱり莉々は部活に行っていて不在だ。透子もちょっと残業してから顔出すって言ってたし。しばらくは二人かぁ……。
「気まずい?」
「えっ。そんなことないです、よ」
「顔に気まずいって書いてあるよ?」
こっちからお願いしてお家に上げてもらったのに、申し訳ない。でも、どうしていいか、何を喋って良いか分からないんだもん。自分の口下手さには嫌になる、本当に。
このまま気まずい時間が続くくらいなら、すぐに本題に切り込んだほうが良いんだろうか……。
「うーん、これはアレだ。こっちおいで」
「は、はい」
さっきから所在なさげに立っていた私に凛華さんは声をかける。自分が座っているソファーの隣をポンッと叩いたから、ここに来いということだろう。
「……わっ」
隣に座ろうとしたら凛華さんに引っ張られ、頭を膝に乗せてしまった。
「な、なんですか?」
「んー?」
にこにこと笑いながら私の頭を撫でるものだからどうしていいか分からない。緊張して体に力が入ってしまっている。ピンと足を伸ばして膝枕されて、傍から見たら笑ってしまいそうなくらい珍妙な光景だ。
「あ、あの。なんで、膝枕……?」
「疲れてそうだなーって思って」
「疲れてないですよ? 今日も学校行っただけだし」
「目の下のクマ、前よりひどいね。ちゃんと寝れてる?」
正直、昨日は寝れなかった。衝撃的なことを透子から聞いて心が落ち着かなかったっていうのもあるけど、何より発動してしまった呪いのせいで寝れなかった。
別に痛みがあるわけじゃない。ただ、夢の中で自分が死ぬところを見てしまった。怪人と戦って、ではなく呪いが発動して夢の中の私は死んでいた。
まるでそれは呪いのカウントダウンが”0”になったらお前はこうやって死ぬんだぞという警告のようで寝ていられなかった。
眠ると必ずこの夢を見る。だから昨日の私は、眠れなかった。
死ぬのなんて怖くないって思っていたのに。実際に、限りなくリアルな夢を見ると怖くなった。
戦って死ぬなら良い。でもそれ以外の理由で死ぬなんてごめんだ。
「体に力入りすぎ。もっとリラックスしてよ」
「そうは言ってもですね……」
「それに今日は敬語、なんだね?」
「あっ」
「悲しいなー、凛華さんは悲しいなー。距離があるみたいで泣いちゃいそう」
「ち、ちが、ちょっと間違えた……だけ」
「そう?」
いつも以上にグイグイ来るから余計に気を張ってしまう。今日の凛華さん、どうしたんだろう。
「あ、あの。私、重いから……」
「そんなことないよ。軽すぎて心配だよ、逆に」
身体を起こそうとしたけど、凛華さんに制されてしまった。
「…………」
「……春ちゃんのこといっぱい甘やかしたくて膝枕してみたんだけど、嫌だった?」
「嫌じゃないけど……どうしていいか分かんない」
今度こそ起き上がり、凛華さんの隣に座る。
「凛華さんはどうして私を甘やかしたかったの?」
素直に聞いてみた。回りくどいのはお互い苦手だと思うから。
「うーん……。可愛くてしょうがないんだよね、春ちゃんのことが。なんだろう、もう一人妹が出来たみたいな感じ?」
「妹?」
「そう。可愛い妹が増えたなーって。そうだ、試しにお姉ちゃんって呼んでみてよ」
「え」
「一回だけ! 一回だけで良いから!」
そんなに必死にお願いされたら断りにくい。今なら私たち以外は誰もいないし、一回くらいなら——。
「……お、お姉ちゃん?」
「か、かわ……! 可愛い!」
凛華さんは両手を私の背中に回し、幸せそうな顔をしている。
まさかこんなに喜ぶとは思わなくてびっくりした。こんなの他の人には見せられないな——。
「……二人とも何してるの?」
「……そういう関係?」
……本当にタイミングが悪い。
部活を終えた莉々と透子が一緒に帰って来たみたいで、私たちを見て固まっている。
「ちがっ、違うって!」
凛華さんから離れようとしたけど全然離してくれない。
「透子さん、春ちゃんちょーだい!」
「凛華さん⁉」
むしろ火に油を注ぐようなことを言っている。
そんなこと言ったらますます二人に誤解されちゃうじゃん!
「ええ……春、本当にどうしたのこれ」
「分かんないよ……私が聞きたいよ。というかこのお姉ちゃん、何とかしてよ莉々」
実の妹を差し置いて私を可愛がるのはどうかと思うよ、うん。
「……浮気?」
「付き合ってすらないじゃん」
透子は凛華さんと同じくらい、もしかしたらそれ以上に変なことを言う。なんだ、浮気って。
二人からはからかわれるし、凛華さんは離してくれないし。わちゃわちゃと、よく分からない時間が続く。
ふと、凛華さんに抱きしめられながら気づいた。
部屋に来たばかりの最初の頃よりもリラックス出来ていることに。
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