20.
「ぷはぁー! レポート終わりのビールは最高だぜ!」
「
「分かってる分かってる。春、
「もう、自分で注ぎなよ。私まだレポート終わってないんだから」
「だぁって春にやってもらったほうが美味しいもん」
やれやれしょうがない大人だ。
キーボードを叩く手を止めため息をついた。早く早くと急かす透子のために半分くらい空になった缶を持ち上げる。
「またこのビール飲んでるの? 好きだね」
「これがお気に入りなの。いろいろ種類あるけどこれが至高にして最高」
「ビールって苦いじゃん」
「ビールは味わうんじゃなくて
分かるような分からないようなことを言って透子はふんぞり返る。
呆れつつも透子に手渡されたグラスにビールを注ぐ。良い感じに泡を出せたと思う。普段からビールは泡が大事だと透子がうるさいから上手になってしまった。透子と暮らすようになって出来た数少ない私の特技だ。
……ビール注ぐのが特技の女子高生ってどうなんだろう。
「春はまだレポート終わんないのー?」
「うーん。あとちょっとなんだけどさぁ、あいつめっちゃ喋ってたから書き留めるの大変なの」
「あー、喋ってたなぁ……。何て名前だったっけ? あの怪人」
「ジャミゼンだって。凛華さんに教えてもらった」
「ジャミゼン……音に特化した怪人だったよね確か。なるほど、凛華はそれで……」
「……最後なんて言った?」
「なんでもなーい。早くレポート仕上げなよー。学校の宿題もあるんだし」
……今日は透子の隠し事から目を反らす。せっかく楽しくご飯を食べて、二人の間にあった微妙な空気がなくなりつつあるんだから。今日はこのまま楽しく終わりたいのだ。
それに宿題がたくさんあるのも事実なわけで。
「宿題手伝ってよ、先生」
「宿題は自分でやるから意味があるんだよーぅ」
「先生みたいなこと言って……」
「先生だって」
ため息を吐いてレポートの続きを打ち込む。
えーっと、どこまで打ったっけ。ああ、そうだ。ジャミゼンの特性は音、と。かなり
ここまでのレポートを読み直すとやっぱりとんでもない相手だったなと思う。音が飛んでくるようなもんだから遠距離戦は論外だし、近距離で戦おうにも結局音が飛んでくるし。
ジャミゼンの攻略方法は背後を取ることだった。私一人では中々難しい。ピンクが引き付けてくれたから出来たことだ。
もっと私が強かったら一人で倒せていたのかな……。もっと圧倒的に、誰の手も借りなくて良いくらい強かったら。
「強くなりたいな……」
思わず心の声が漏れる。
いつもそうだ。レポートを書いたり読み直すと自分はまだまだだと落ち込んでしまう。
私はたぶん怪人を目の前にして冷静にいられないから、せめて力だけでも怪人を圧倒していないといけない。
「十分強いじゃん」
「……皮肉?」
「違う違う。強いって、春。急にコウセイジャーになって戦えって言われても普通の人は戦えないんだって。まだ半年しか経ってないのにこんなに最前線で戦ってて、偉いよ」
「……」
よしよしと透子の右手が優しく私の髪を撫でる。
「……でも足りない」
「ん?」
「これじゃ足りないよ。もっと強くなるにはどうしたら良い?」
「そりゃあ、地道な努力と経験?」
「もっともらしいこと言うね……」
そうだろうけどそうじゃない。
もちろん私だって努力してる。コウセイジャーになって筋トレを始めた。ちゃんと毎日欠かさずやっている。
透子には内緒だけど食事メニューにも気を使っている。身体が資本だから偏った栄養バランスにならないようにしている。
経験は確かに浅い。まだ半年だ。そのうち怪人と戦った回数なんてたかが知れる。私よりずっと前からコウセイジャーをやっている他の四人の足元にも及ばない。
だから短期間で経験が積めてパワーアップできる方法があればと思ったけど、そんな都合の良い方法はないみたいだ。
「じゃあさ、武器とか。試してみる?」
「え?」
「ちょうど試作体が出来たらしいから行ってみない?」
透子はそう言って一件のメールを見せた。
『ご案内:かねてよりご要望頂いておりました武器の試作体が完成しました。つきましては一度ご確認頂きたく——』
「武器はどれもしっくりこないから素手でってなったよね?」
「うん、前はね。でもやっぱり武器があったほうが良いと思ってこっそり春専用のを発注してたんだよねー。大丈夫、今と戦闘スタイルは変わらないようなものばかりだからさ」
「ばかり?」
「たくさん発注した!」
そんなどや顔で言われると支部の懐事情が心配になる。一つ発注するだけでも相当な金額なのに、それをたくさんとは……。
「どうする? 興味ない?」
愚問だと思う。そんなのとっくに決まってる。
「行く。いつ? 場所はどこ?」
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