19.
「私は春ちゃんと……レッドや他の仲間たちと協力したい。もっとお互いのことを知りたいと思ってるよ」
「……」
「分かってる。春ちゃんはそれが嫌なんだよね? 協力とか親睦を深める、とか。だったら春ちゃんの事情は聞かない。話して良いって思うまで私からは聞かない。それが交換条件。どう?」
「良いですけど…………良いの? それに交換条件って?」
「うん、良い。その代わり、ちゃんとみんなを信用して協力して戦ってね。一人で突っ込まない、
私の事情聞かない代わりの交換条件だろう。しかも三つとも普段からピンクやブルーに言われていることだった。
「分かりました。その約束、ちゃんと守ります」
私の事情、家族のこと、
どちらにせよ全員で協力して戦えというのは支部からも言われていたことだ。五人で協力して連携を取れ、リーダーであるレッドがみんなをまとめろ。耳にタコができるほど言われてきたことだ。
「よし、
「大丈夫ですよ、約束は守りますから」
凛華さんはまるで鬼の首を取ったかのように喜んでいる。
「じゃあ今日はこれで——」
「あ、さっきの話とは別件なんだけど。今度うちに遊びに来ない?」
「え?」
今度こそ話が終わったと思ったら予想外のお誘いだ。
「……何しに?」
「コウセイジャー関係なく、普通に遊びにおいでよ。
「……」
「うち来るの嫌?」
そんなしゅんとした顔をされると困る。嫌じゃないけど。嫌じゃないんだけど、別に用事もないし……。行っても何を話せば良いのか分からない。
ああ、じっと凛華さんが私を見つめてくる。その目はだめだ。私が折れるしかなくなるじゃないか。
「…………分かりました。行きます」
「やっぱり優しいね春ちゃん」
さっきまでのしょんぼり顔はどこへいったのか、笑顔で凛華さんは言う。まさか罠だった?
「莉々にはなんて言えば?」
「私から言うよ。春ちゃん家に呼ぶって。あ、連絡先交換しよう?」
「……はい」
なんだか凛華さんのペースに乗せられっぱなしな気がする。既にスマホを差し出してしまったから今気づいても手遅れだけど。
「日にちはまたチャットで相談しよう!
そう言って足取り軽く去って行く。
凛華さんが去り、校門の前にポツンと立ちすくむ。
じっとスマホを見つめる。画面はさっきからチャットアプリを開いたままだ。
アプリのお友達一覧に凛華さんが追加されている。アイコンは青々とした空の写真。アイコン横の一言には『DVD返却』と書かれている。
レンタルでもしたのかな。生活感満載で思わずくすりと笑ってしまった。
「春、何してるの?」
急に名前を呼ばれてびくりと肩を震わす。
「びっくりした……脅かさないでよ、透子」
「普通に声かけたんだけど? てかまだ学校残ってたの? なんか用事?」
「いや、今から帰るところだよ。透子こそ早いじゃん。今日って定時だったっけ?」
「残業するつもりだったけど思ったより早く仕事が片付いたから。一緒に帰ろう?」
二人並んで夕暮れの並木道を歩く。
「帰りにスーパー寄りたい」
「いいよぉ。お酒買いたい。あと煙草」
「禁煙週間はどこへいったの?」
「今日は締め切りが近いレポート仕上げるからニコチンが必要なのー。ビールも冷蔵庫に一缶しかなかったから買わないと」
「一日一缶しか飲んじゃだめだよ。また健康診断で肝臓引っ掛かるから」
「あー、来月だな。そう言えば」
他愛のない話をしながらスーパーに向かって歩く。
今日の夜ご飯は何を作ろう。
今朝、家事が出来なかったからちょっと豪華なご飯にしたいな。
「あ。手巻き寿司」
「え?」
「今日の夜ご飯手巻き寿司にする」
「イクラもある?」
「ある。今日は
「やったー! ツナマヨとコーンマヨもお願いね!」
「はいはい」
透子は子供みたいに無邪気に喜んでいる。
ご飯一つで昨日からのギスギスが解消されるなら安いもんだ。
透子とは一度しっかり話さないといけないと思っていた。何を私に期待しているのか、コウセイジャーにどうあってほしいのか。そして透子自身が何者なのか。
凛華さんは元同僚と言っていた。でもそんな話は透子から一度も聞いたことがない。
透子は私に何かを隠している。
それが何なのか見当もつかないけどいつか話してほしい。透子の口からちゃんと話してほしい。
「春! デザートにシュークリーム買っていい⁉」
「いいよ。一人一個ね」
でもそれは今日じゃない。今日は美味しいご飯を食べて、いつも通り透子と他愛ない話をして。そんな日でありたい。
「透子、私はチョコのシュークリームが良い。そっちと交換」
「えー、珍しい。じゃあたまには私もイチゴにしてみるか……」
うん、こんな感じ。
手巻き寿司だから海苔と刺身と。ああ、
透子が言ってたツナマヨとコーンマヨも用意しないと。コーン缶はあったけど、ツナ缶って家にあったっけ?
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