15.
とりあえず接近して顎を狙って蹴り上げる。が、怪人はひらりと
これなら、と足払いを仕掛けたがこれもひらりと躱される。これじゃあ埒が明かない。
「ドウシタ。アタッテイナイゾ」
「うるさい。喋るな」
もう一度怪人との距離を詰める。怪人の腕が伸びるが無駄だ、さっきのお返しと言わんばかりに私もひらりと躱す。
これはどうだ、と怪人の足が私の顔に伸びてくる。
「無駄だ」
右に顔を傾け、すれすれで避ける。そのまま怪人の足を掴み力任せにぶん投げる。
「グウ……」
怪人は
ちゃんとダメージも入っている。これなら——!
一気に駆ける。次の一撃をくらわすために。
右手に力を籠め、肩を引く。狙うは顔面。もう二度と喋れなくなるくらいに
「終わりだ!」
「……ヒヒ」
既視感がある。こうやって追い詰めたと思ったら反撃される。このまま突っ込むのはまずい。今日は私とピンクしかいないのだからここで私が倒れるわけにはいかない。
怪人に殴りかかる直前で踏みとどまり、大きく後ろに跳躍した。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
嫌な予感は的中した。さっきまで私がいた場所、地面にヒビが入っている。怪人が直接触れたわけでもないのに。大きな声を出しただけ。それなのに確かにヒビが入っていた。
「ヨケタ。ヨケタナオレノコウゲキヲ。オマエハサッキノヤツトハチガウ。タノシイ。タノシイゾ!」
「ぐ……」
叫び、勢いよく怪人は立ち上がる。
あまりの大声に頭が痛くなる。一瞬目を閉じてしまった。
「かはっ!」
「ドウシタ。サッキミタイニチャントヨケロヨ」
目の前には既に怪人の拳が。避けることもできず
一瞬息が出来なかった。胃が揺れて今日のお昼ご飯を吐き出しそうだ。
ぐらりと倒れかけたが何とか踏みとどまる。このままじゃまずい。次の攻撃を避けないと次こそ膝をついてしまう。
「……こっの!」
「……ホウ」
身体を前傾にし、次の一撃をなんとか避ける。
そのまま怪人の懐へ。左ひじを首筋にぶつける。怪人は避けることもせずそのまま後ろに倒れる。
「はぁ……はぁ……」
「コンナモノカ?」
呼吸を整える暇もなく怪人が立ち上がる。
焦る気持ちを押さえて冷静に考えよう。
こいつの攻撃パターンは大きく二つ。身体を使った肉弾戦と声を使った攻撃。つまり近距離、遠距離どちらでも攻撃できる。
長距離は不利だ。どこまでが攻撃範囲なのか分からない。間合いがはかれない以上、近距離で戦うべきだ。
もう一度だ。拳を構え、重心を低くする。
頭、首、足。いくらでも隙があるはずだ。
「そこだ!」
「アサハカナ……」
顎を狙って拳を突き上げる。瞬時に一歩下がり難なく避けられた。
すぅっと大きく息を吸う音が聞こえる。もちろん私のじゃない。
これは、まずいな。この距離じゃ避けられないし、逃げられない。気づくのが遅かった。
次に受けるだろうダメージに備えてぐっと歯を食いしばる。
「……え?」
想定したダメージは受けなかった。誰かに左手を引かれ、すんでのところで遠くに投げ飛ばされたから。
「ごめん! 勢い良すぎちゃった!」
「ピンク……戦えるか?」
「……うん、もちろん」
私を勢いよく投げ飛ばした張本人、ピンクは大きなハンマーを構える。
ピンクがハンマーで戦うなんて、と思っていたが今は違う。普段から使い慣れているからこそのハンマーなんだ。
今なら二人で戦える。私とピンク、二人で力を合わせればあいつに勝てる。
「ちょっとお願いがあるんだけど」
「なーに?」
「あいつ、声で攻撃するだろう? だからきっと背後は死角なんだ。だから——」
「ああ、そういうこと。いいよ、正面は任された」
言い切る前に察してくれる。短い作戦会議は終わり、再び怪人と向き合う。
「オワリカ?」
「ああ。悪いけど、ここからは二人で戦うから」
「ナニ、ヒトリモフタリモカワラナイサ。ゾンブンニタタカオウ」
「存分になんて、こっちはそんな暇、ないっ!」
駆ける。ピンクを信じて背後を目指して駆ける。私は背後を取ることだけ考えれば良い。
「ヒヒヒヒヒ」
「こんの!」
ハンマーと怪人の腕がぶつかる音、コンクリートが壊れる音が聞こえる。でも見ない、今はピンクが引き付けてくれているから。
「……」
密やかに背後に立つ。いつもならここで大声を張り上げながら殴りかかっていただろう。
今日は、しない。獲物を狙う捕食者のようにじっと息をひそめてその瞬間を待つ。
「ぐっ」
「ヤッパリオマエヨワイ。アノアカイヤツノホウガ……シマッタ」
「今!」
怪人に押さえつけられながらピンクが叫ぶ。
「今度こそ終わりだ。そろそろ静かにしたらどうだ!」
怪人が振り向くよりも早く、殴る。後頭部、首、背中。容赦なく殴る。
「グウ。ヒキョウナ……」
「卑怯? 戦いに卑怯も何もあるか。あるのはただ、勝ち負けだけだ」
殴られながらも止まらない口を塞ぐ。顎が砕けたからもう喋れないだろう。
「……ひゅ……ひゅー……」
「まだ生きてるのか」
息をする音が聞こえる。か細く、今にも消えそうなほど弱い音。
「レッド。その、そいつから何か聞き出せないかな? ほら、いつも怪人倒すと消えちゃうじゃん。今ならまだ……」
「確かに。でもこいつもう喋れないよ。お前はもう、いらない」
ぐしゃり。横たわる怪人の頭を踏み潰した。
黒い煙が頭のなくなった怪人を包み込んでいく。煙が消えた頃には跡形もなく消え去っているはずだ。
「ピンク、お疲れ。怪我は?」
「……大丈夫、だよ。レッドは?」
「問題ない」
このまま解散といきたいところだが
「……レッド、何があなたをそうさせるの?」
「え?」
「いつも思ってた。なんでそんなに怪人を憎んでいるの?」
答えるまで動かない、逃がさない。そんな強い目だ。
私、私は————
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます