6.

「いってぇ!」

「はい、じっとしててー」


 サゼンソ―を直接触ったイエローの手の火傷がひどい。

 緊急用の救急セットを持ってはいたがこれはどうにも出来ない。すぐにその判断を下して、透子とうこを呼んだ。

 すぐに駆けつけた透子は出来る限りの応急処置を施しながら支部の救護チームを呼んだ。


「透子さん? でしたっけ。レッドの教育係なんていたんスね」

「最近は書類のチェックと戦闘データの分析くらいしかしてないんだけどね」


 処置をされながらもイエローは明るく透子に話しかける。そう言えば教育係がいるって話は誰にもしたことなかったな。

 他のメンバーも教育係がいるんだろうか。


「へえ! しかも一緒に住んでるんスか! 実質同棲じゃん。レッド良いなあ、こんなきれいな人と一緒に住んでるなんて。それに何かを教えてくれる人が近くにいるのは心強いぜ、まじで」

「ど、同棲って……」

「イエローくんだって……ああ、そうか」


 透子が何か言いかけて口を閉じた。イエローだって教育係がいる、同棲相手がいる、どちらを言おうとしたのか知らないが閉じてしまっては続きが分からない。


「なんだよ、透子。言いかけて止めるなんて」

「はい、応急処置はこれで終わり。元気に見えるけど火傷、結構ひどいから。ちゃんと救護チームの言う事を聞いて療養するように」


 続きが気になるだろ、と言おうとしたが透子が制した。これ以上深堀するなということだろう。珍しく焦った顔をしているからすぐ分かった。


「はは、別に気を使ってもらわなくたって大丈夫っスよ」

「え?」

「透子さんは俺がなんでイエローになったか知ってるんでしょ? 別に隠してるわけじゃないのでレッドの前で話したって大丈夫っスよ」

「……プライベートなことを私が言うのは違うと思って。その話は二人でしなよ。私は席を外すから」

「救護チームが着くまで時間ありそうだし、聞いてくれるか? 俺の話」

「あ、ああ」





 俺の親父は警察官だった。

 お父さんは街の平和を守るお巡りさんなんだぞ。それが親父の口癖だったっけ。

 ガキの頃からそんな親父の背中を見て憧れてたんだ。いつか俺も警察官になって、街の平和を守るんだってな。

 俺が十歳になった頃、親父と喧嘩してな。一緒に遊園地に行く約束をしてたんだが急に仕事が入って行けなくてさ。それで子供だった俺はへそを曲げちまって親父に八つ当たりしたんだ。

 ごめんなって言いながら現場に向かう親父の背中はまだ覚えてる。それが最後に見た親父の姿だったからよ。

 街で大量殺人があった、すぐに出動してくれ。そう言われて親父は現場に向かった。

 向かった先は誰も生き残れない地獄だった。

 警察が捕まえるのは人間だろ? 人間じゃない奴らに襲われたら警察官は敵わないんだよ。

 その地獄には結社の怪人が三体。死体は数えきれないほど。紛れもない地獄だよ、あの現場は。

 俺の親父も市民を守ろうとして怪人と戦った。でもやっぱり敵わなくて。殺されたんだ。身体を燃やされて消し炭にされたんだぜ? 葬式も出来ねえ、棺に入れるもんもねえ。

 空っぽの墓、日に日に弱っていくお袋。俺にとっては親父が死んだあとが地獄だった。

 警察官になりたいと思っていた。街の平和を守る、市民を守る、そんな警察官になりたかった。

 でも警察官じゃ怪人を倒せない。

 そう思ったら夢も希望もなくなって腐っていったよ。

 高校も途中で辞めて、ぶらぶらとバイトだけして。死んだように毎日を生きてた。

 そんな時にまた街に怪人が現れて。ただの一般人の俺にはどうしようもなくて。

 目の前で子供が殺されそうになったんだ。俺は見ることしか出来なかった。助けることが出来なかった。

 でもそこに青いバトルスーツを着た奴が現れて、颯爽と子供を助けたんだ。怪人をあっさり倒しちまった。

 それを見て初めて知った。怪人を倒せる奴がいるって。

 俺もなりたい。俺も怪人からみんなを守りたい。そう思って青い奴に話しかけたんだ、その時。

「イエローの席が空いている」

 一言そう言って、腕時計を手渡してそいつは去った。

 その後はまあ、アレだ。

 青い奴、ブルーが俺の教育係になって色々と教えてくれたよ。


 そうして俺は街の平和を守る、イエローになったんだ。

 

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