4.

「ただいまぁ」


 ちょうどカレーが出来上がり一息ついていたところに透子とうこが帰ってきた。今日はいつもより遅かったから残業だったんだろう。


「おかえり。カレー出来てるけど、すぐ食べる?」

「食べるぅ。やっぱ家に人がいるって良いなぁ。もうはるが私の嫁で良いよ結婚しよ……」

「絶対やだ」


 疲れているからなのか軽口を叩きつつ透子はソファーの前に寝転がった。

 すぐ食べたいという透子の要望に応えるためにソファーから立ち上がり、カレー皿を出す。

 透子はニンジンが嫌いだから入れないようにしないといけない。大人のくせに好き嫌いが激しい。

 いつも通り私のお皿にはニンジンを多めに入れた。




「イエローが大のカレー好きじゃん? 今度会ったら特製レシピ教わってきてよ。そしてそれを私に食べさせてくれい」

「仕事の話以外しないし。透子が聞いてこれば」

「えー、同僚になってもう半年になるのにプライベートの話しないの?」

「しない。必要ない」


 コウセイジャーとしての話はする。戦い方とか最近の結社の動向についてとか。でもそれ以外の会話はしたことがない。何を話して良いか分からないし、必要もないと思っているから。

 私はあの四人の素性を知らない。何歳なのか、普段は何をしている人なのか、なんでコウセイジャーになったのか。何一つ知らない。

 もちろん四人は私のことを知らない。普段はボイスチェンジャーで男の声で話しているし、口調も変えている。レッドの中身は男だと思い込んでいるはずだ。

 女子高生がレッドだと知られたら味方の士気に関わる、初めてレッドとして出動する時、透子にそう言われた。それ以来ずっと隠し続けている。


「はぁ、美味しかった。ごちそうさま」

「ん。あ、お風呂湧いてるから。すぐ入れるよ」


 二人分の食器を流し台へ持っていく。基本的に透子は家事をしない。私がこの部屋に転がり込む前までは自炊せず外食ばかりしていたらしい。

 住まわせてもらっている以上、掃除、洗濯、料理は私がやる。足の踏み場も無いくらい散らかっていた頃にそういう取り決めをした。

 一応学校の先生でもあるから毎日帰るのは遅い。今日みたいに九時を過ぎるのもざらだ。そのあと私の教育係として報告書を確認したり、戦闘データをまとめているのだから如何せん忙しい。

 私が家事を引き受けて少しでも楽になれば。そう思っていても透子には言わない。言ったらきっと調子に乗るから。


「洗い物終わったー? たまには一緒にお風呂入る?」

「嫌」


 そう、こんなふうに。お風呂だけは絶対一緒に入りたくない。


「良いじゃんたまには。もしかして春、おっぱい小さいの気にしてるの? 大丈夫だよ、それはそれで需要あるし。あ、私が揉んで大きくしてあげよっか?」

「うるさい。早くお風呂入ってきて!」


 透子がからかってくるから絶対一緒には入りたくない。





 今のうちに報告書をまとめてしまおう。透子が脱衣所に入って行ったのを見届けてからパソコンの電源を入れた。

 今日戦ったのはトリガブド、と。特性は毒、片言なら言葉が話せる。周りに戦闘員はなし。事実をひたすら落とし込んでいく。

 この報告書は基本的にはレッドである私が担当している仕事だ。

 怪人が街に現れるのは不定期だから対策がしづらい。少しでも怪人が現れるポイントが予測できるように、そのために報告書を書いている。

 出現するポイントを絞り込めればおのずと結社のアジトも分かる。そこにはきっと結月ゆづきがいる。そう信じて今まで戦ってきた。

 レッドになって半年。まだ結社のアジトは掴めていない。透子に聞いても五里霧中ごりむちゅうだとしか言わない。

 諦めない。結月を取り戻すまで絶対に。

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