一目ぼれした俺は砂糖菓子
御厨カイト
一目ぼれした俺は砂糖菓子
「ああ、今日も失敗だー。」
「もーまたですか、店長。」
そんなやり取りがここ「アルキュミア」で連日繰り広げられている。
「くっそ、なんでうまくいかねえんだよ。頭の中ではしっかりと出来ているはずなのに。」
「頭の中だからじゃないですか。」
「うるさいな、上げ足をとるんじゃないよ。」
「はい、すみません。そういえば店長、今日から新しいバイトの子が来ますからね。」
「え、そうなの。聞いてないんだけど。てかいつの間に面接したの。」
「面接はあなたが別の店に出張に行っていた時に僕がしましたし、連絡もちゃんとその日にしましたよ。」
「覚えてないわ。それでその新しいバイトの子は使えそうなんか?この前のやつは全く仕事覚えねえし、失敗だらけだったからな。すぐにやめたし。」
「まあ、今度の子は多分大丈夫だと思うんですけどね。」
「お前の大丈夫はあてになんないんだよな。」
「そ、それはお互い様でしょ。店長だって再来週に出す新しいケーキまだ出来てないじゃないですか。1か月前はあんなに大丈夫大丈夫って言ってたのに。」
「新しいバイトの子早く来ないかな~。」
「話をそらさないでください!」
「多分あと2,3日あれば大丈夫だから。心配すんなって。」
「ホントですか~。」
「バイトの子来ないかな~。」
「ちょっと店長!」
そんなやり取りをしているとカロンコロンと店の扉が開く。
すると1人のめちゃくちゃ美人な女子学生が入ってくる。
「すいません。まだ開店していないんですが。」
「あ、店長その子ですよ。新しいバイトの子。」
「お、まじ?メッチャかわいい子やん。俺ちょっと一目ぼれしたわ。」
「店長、ちょっとおっさん臭さが出てますし、きもいですよ。」
「誰がおっさんや。俺はまだまだピチピチの24歳やぞ。それにきもいってなんや。」
「僕よりは年上じゃないですか。十分おっさんですよ。それにいきなりあった子に一目ぼれするってきもいでしょ。」
「そりゃあ二十歳のやつから見たらそうなるやろ!それに一目ぼれってそういうもんだろ。だってめちゃくちゃかわいいじゃん。」
俺たちのそんな会話が聞こえたのかおずおずとした様子でそのめちゃくちゃ美人な女子学生はこちらに話しかけてきた。
「あのー、すいません。私、今日からアルバイトとして入らせていただく正岡楓です。今日からよろしくお願いします。」
「ああ、俺はこの店の店長の坂井政伸だ。どうもよろしく。そして隣のさっきから騒がしいこいつは雑用兼雑用の佐伯隼だ。」
「ああ、知っています。私の面接をしてくれた方ですよね。」
「よく覚えているね。確かにそうだよ。僕が君の面接を担当した。名前も知っていると思うけど改めて佐伯隼だ。よろしく。」
「よろしくお願いします。」
「てか店長、雑用兼雑用って何ですか。ちゃんと雑用以外の仕事もしているでしょうが。ホント何なんですかあなた。」
「お、なんだお前、店長の俺に逆らうのか。そんなことを言うとクビにするぞ。」
「そんなの不当解雇だ。訴えてやる。」
「なんだお前、やんのか。」
「やってやりますよ。」
俺たちが相変わらずそんなこと言い合っていると「ふふふ」と笑う声が聞こえる。
俺たちが笑い声の方に顔を向けると正岡さんが口を押えて笑っていた。
「あ、すいません。とても仲がいいんだなと思いまして。」
「まあ、仲が良いっていうか、なあ。4年も一緒にいればこうもなるさ。」
「4年も!」
「もうそんなになりますか。僕がここに来てから。」
「俺がちょうどここに店を建てた時ぐらいにお前が来たからそれぐらいだな。」
「あれ?坂井店長って今おいくつですか?」
「24だけど。」
「ということは20歳でお店を持たれたということですか。す、すごいですね。」
「そうなんだよ。この人凄いんだよ。こんな見た目だけど。」
「お前、それどういう意味だよ。てかなんでお前がそんなに誇らしそうにするんだよ。」
「いや、嬉しいじゃないですか。自分の師匠が褒められたら。」
「俺は別にお前の師匠じゃあねえよ。」
「まあ、いいじゃないですか。」
「いや、よくねえだろ。」
「正岡さんはうちのホームページ見た?」
「おい!」
「はい、見ました。」
「それならこの人のプロフィールとかも書いてあったと思うんだけど、一応紹介するね。この人は16歳の時にあの有名スイーツ店『ルルーシュ・カレーネ』でいきなりパティシエの道への修行を始めるんだ。そこで2年間かけてパティシエの基本的なスキルを見につける。そして、その1年後、若手パティシエの登竜門と呼ばれる『全日本洋菓子コンテスト』で金賞を受賞。そしてそのまた1年後に自身のお店であるこの『アルキュミア』を出すんだ。ちなみにアルキュミアって言うのはラテン語で錬金術という意味でどんな食材でも錬金術のように最高のものを作り上げるという意味で付けたんだよ、ですよね店長!」
「うん、まあそうなんだけど、何、お前それ覚えてんの?」
「はい!」
「・・・元気のよい返事だな。正直言って引くぞ。」
「そんなこと言わないでくださいよ店長。」
「正岡店長ってすごい人なんですね。」
「すごいというか運が良いだけなんだけどな。」
「え?」
「俺が最初に『ルルージュ・カレーネ』に弟子入りに行った時も最初は断られたんだ。だけど1週間ぐらい何度もお願いしに行ったら、たまたまそこのオーナーが見ていたらしくて俺の気迫がまあすごいもんだからこりゃ面白そうだだと思ってくれて弟子入りを許してくれたし、全日本洋菓子コンクールで金賞をとった時も、たまたま相手の冷蔵庫の扉が開いていてアイスクリームが溶けていてそれで相手の評価が下がったからだしさ。なんというか、俺はただ単に運でここまで上がってきたようなもんなんだよな。」
「それでもすごいですよ。これは立派なお店を建てることが出来たんですから。それに『運も実力のうち』っていうでしょう。」
そう正岡さんはとびっきりの笑顔でそう言う。
俺はあまり異性に褒められ慣れてないのとめちゃくちゃ美人の人に笑顔でそう言われたので「お、おう、ありがとな。」と少し狼狽えてしまった。
「あれ店長、もしかして照れてます?」
「う、うるせえな。いいから仕事始めるぞ。正岡さんは今日が初めてだからまずは事前に渡した服に着替えてもらっていいかな?」
「分かりました。」
そうして、俺たちはいつも通り仕事の準備を始める。
「着替えました。」
「うん、じゃあさっそく仕事をしてもらおうか。といっても正岡さんにやってもらう仕事は。」
「楓でいいですよ。」
「じゃあ楓さんにはこの厨房や店頭の方の掃除とか洗い物をしてもらいたいと思います。掃除道具はそこのロッカーに入っているからそれを使ってもらって、洗い物はそこにスポンジと洗剤を置いてあるからそれを使って。まあ分からないことがあったら気軽に聞いて。別に俺らが何か作業してたとしても聞いてくれていいからね。」
「分かりました。頑張ります!」
「うん、よろしく。よし、じゃあ隼今日も始めるぞ。」
「はーい。」
それから俺たちはしばらく自分の作業を進める。
すると不意に楓さんから話しかけられた。
「そういえば、この店に働いている方って私を含めて3人しかいないんですか?」
「いや、接客を担当してくれるパートさんがいるから4人だね。もうそろそろ来ると思うんだけどな。」
俺がそう言うのと同時にスタッフ用の扉が「こんにちわー」という声とともに開く。
「こんにちわ真理恵さん、今日もよろしくお願いします。」
「はいはい。あれ、新しいバイトの子?」
「あ、正岡楓って言います。今日からよろしくお願いします。」
「私は小泉真理恵だよ。よろしくね。それにしてはすごい美人な子だね。私もあと20年若ければこんなに美人だったんだけどね。」
「はいはい、真理恵さんそれもう聞き飽きたから。」
「あ、伸ちゃん信じてないね。本当なんだからね。」
「じゃあ写真かなんかないの。その20年前の美人だった時の。」
「いやー、残念なことに全部燃えちゃったんだよね。見せたかったんだけどね。」
「毎回、そんなやり取りをやってよく飽きませんね。」
「なに、隼ちゃん。焼いてんの?かわいい子だね。」
「そんなわけないでしょ。」
「・・・皆さんとても仲が良いですね。」
「ああ、ごめんごめん。置いてきぼりにしちゃって。そもそも俺と真理恵さんは俺が『ルルージュ・カレーネ』で修業している時からの仲なんだよね。」
「そうなのよね。伸ちゃんが修行していた時は私は『ルルージュ・カレーネ』でパートをしていたのよ。その時から可愛がっていたんだけど店を出すって聞いてちょっと心配だったからついてきたのよ。」
「僕はもう4年くらい一緒に働いているんで仲良くなりましたね。」
「なるほどそう言うことなんですね。」
「そうそう、じゃあ私、着替えていつも通りレジに入りますね。」
「お願いしまーす。」
「じゃあ俺たちも作業を続けようか。あと30分ぐらいで開店するからね。」
「はい!」
そうして俺と隼はケーキ作りを再開する。
楓さんも掃除を続ける。
少ししてから開店の時間になった。
俺は開店する前に少し楓さんに声をかける。
「楓さん、少し真理恵さんのお手伝いをしてもらっていい?」
「はい、いいですけど、何をすればよいですか。」
「ケーキをケーキ箱に入れてもらうだけなんだけど、まあ分からなかったら真理恵さんに聞いて。あの人ならちゃんと優しく教えてくれると思うから。」
「分かりました。」
「よろしくね。じゃあ開店します。いらっしゃいませ。」
『いらっしゃいませ!』
そうして、いつも通り大変な時間に突入する。
裏でケーキを作っている間、少し隼が話しかけてきた。
「店長、なんか楓さんに対して口調が優しいですね。やっぱり彼女のことが気になっているんですか?」
「ま、まあ確かにそれもあるが、彼女は今日が最初の仕事だ。不安なこともあると思うんだ。だからせめてここが良い職場だということを感じてもらってリラックスしてもらおうと思ってな。」
「・・・ちゃんと考えているんですね。下心もありだけど。」
「う、うるせえな。ほら、口じゃなくて手を動かす!」
「へーい。」
俺たちはまたケーキ作りを続ける。
チラッとレジの方を見てみると今日も客足は上々みたいだ。
昼時やおやつ時にピークを過ぎ、客の流れも少し落ち着いてきたころ、楓さんが戻ってきた。
「真理恵さんにこっちの手伝いはもう大丈夫だからあっちの方を手伝ってあげてと言われたので戻ってきました。何かすることはありますか?」
「そうだな、じゃあ結構洗い物がたまっているからそれ頼めるかな。」
「はい、分かりました。」
「よろしく。分からないことがあったら気軽に聞いて。」
「了解しました。」
楓さんはそう言うとカチャカチャと食器を洗い続ける。
俺たちはそれを横目にケーキ作りを続ける。
そんなこんなあり今日の営業は終了した。
真理恵さんは店の営業終了時間になるといつもお金の整理をした後すぐに帰ってしまうため、店には俺と隼、そして楓さんの3人が残った。
調理器具の片付けや明日のためのケーキの準備をしている間、少しおしゃべりをする。
「どうだった今日の仕事は?」
「そうですね。まあ最初ですから掃除や洗い物などしかしていませんがとても働きやすい職場だと思いました。」
「そう思ってくれて嬉しいよ。なあ隼。」
「ホントですよ。そう言ってくれてよかったですね。これで店長の努力も報われましたね。」
「ちょ、おま、余計なことを言うな。」
「何のことですか?」
「ああ、楓さんは気にしなくていいから。」
「いやぁね、この人ね、楓さんが初めての仕事で緊張してそうだったから少しでもそういう緊張がほぐれるように優しく接していたんだよね。」
「そうだったんですか!それはありがとうございます。」
「おまえ、余計なことを言うなよ。それは黙っておけばええやん。そこは黙っておいた方がかっこええし。」
「それも余計なことなのでは。」
「私のためにそんなに気を使っていただき本当にありがとうございます。これからも頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。」
楓さんは深々とお辞儀をする。
「ああ、そんなことしなくていいよ。そんなことしてほしくてしていたわけじゃないから。楓さんがここで気持ちよく働いてもらうためにやっていただけだから。まあいわゆるWinWinの関係になればいいなって思ってやったことだからさ。」
「おお、フォローも完璧ですね、店長。」
「本当にありがとうございます、店長。」
「おう、明日からもよろしくお願いしますね。」
「はい!今日はお疲れさまでした。」
そういうわけで楓さんはこの職場に結構良い印象を持ってくれたようだ。
良かった、良かった。
それから、楓さんはここで半年以上働いてくれた。
その時の模様をすべて言っていたらすごいことになってしまうため、特に俺の記憶に覚えている楓さんとのやり取りについて語らせてもらおう。
楓さんの初出勤の次の日
キッチンにて
「そういえば楓さんはどうしてここでバイトをしようと思ったの?」
「実は私、パティシエを目指していまして専門学校に行きたいと思っているのですが、お金が無くて。それなら、お金も稼げるし、パティシエとして必要な技術を身に着けられると思ったのでここで働こうと思いました。」
「お金がないって、親御さんに出してもらわないのかい?」
「・・・とてもいいにくい事なんですが実は親はもういないんです。3年前に事故で死んでしまって。今は祖父母の元で暮らしています。高校は両親の貯金があったのでそれを使っていたのですがそこで貯金が尽きてしまって、それで専門学校に行くための学費は自分で稼いでいるんですよ。」
「・・・ごめんね、そんな辛いことを話させちゃって。」
「大丈夫です。もう慣れましたから。まあそういう理由でここで働こうと思ったんです。」
「・・・少し俺から提案があるんだが、聞いてくれるか?」
「はい、何でしょうか?」
「実はパティシエになる方法というのは2つあるんだ。専門学校で必要な技術を学ぶという方法とこういうスイーツ店で働いて必要な技術を学ぶという方法、この2つがね。」
「なるほど。そうなんですね。・・・ん?そう考えるとなぜ専門学校があるのでしょうか?実際にお店で働いてみた方が必要な技術というのはすぐに得られると思うのですが。」
「確かにそれはそうなんだけど。そもそもパティシエになるには実は取らないといけないという資格は無いんだ。だけど、パティシエなった時に会った方がよいという資格はある。その名も「製菓衛生士」。これはほとんどのパティシエが持っている資格なんだけど専門学校に通っていたら1年で受験資格を持つことが出来るんだ。逆にここみたいなスイーツ店で修業するんだったら2年以上働かないと受験資格を得られないんだ。」
「だから、専門学校に通う方がいいですね。」
「まあ学校によっては受験の対策もしている学校もあるから専門学校に通っていた方が合格しやすいのは確かだよ。それでここで本題に入ろう。俺の提案というものは専門学校に通わず、ここで2年以上働いて必要な技術を学ばないかというものなんだ。」
「・・・え?ど、どういうことですか?」
「えっとね、専門学校に通って技術を学ぶというもいいとは思うんだがさっき楓さんも言っていた通り、こういう現場で働いた方が必要な技術はすぐに学べるし、学費もかからない。なんだったらお金をもらいながら学ぶことが出来る。」
「確かにそう考えるとそう言うのも良いですね。」
「でもね、こういう現場で働いたら資格を取るための勉強も自分でしないといけないし、そもそも資格を取れるようになるまで2年以上かかる。」
「・・・なるほど。」
「だから楓さんがどっちを選んでもいい。自分に合う方を選んだ方がいい。だけど、楓さんがここで働いて学ぶと言うのなら俺は全力で君をサポートする。ワンツーマンで技術を教えてあげる。最初の1か月は雑用がメインになってしまうけど。」
「よろしくお願いします。」
「本当に楓さんの合う方に選んだ方が・・・え?」
「ここで学びたいと思いますのでよろしくお願いします。」
「ほ、本当にいいの?」
「はい、せっかくプロのパティシエの方に教えてもらえるんです。この機会を逃すわけにはいきませんから。」
「そうか、ありがとう。俺の提案を呑んでくれて。これからよろしくね。」
「はい、よろしくお願いします。」
こうして、楓さんはここで働いてパティシエを目指すことになった。
彼女がちゃんとパティシエになれるようにしっかりとサポートしていこうと俺は胸に決意した。
楓さんがここでしっかりとパティシエを目指すと心がけてから1か月が経ち、とうとう雑用に加えて、パティシエとしての技術を教えることとなった。
店の営業時間終了後
キッチンにて
「それでは今日から早速教えていきたいと思います。」
「よろしくお願いします。」
「といっても最初にやってもらうのは果物とかの仕込みとかからだね。果物というものは物によって仕込み方が違うからしっかりと覚えてもらいます。」
「なるほど、分かりました。」
「それではよくお店で使うこのリンゴからリンゴの場合はこうやって・・・・・・・」
こうして楓さんのパティシエとしての道が始まった。
そこから数か月色々なパティシエとしての技術を仕込んだ。
楓さんは結構才能があり、俺が驚くほどのスピードで技術を吸収していく。
俺は最初は下心もありつつ教えていたのだが彼女はとても真剣で俺の話を聞くため、そんな感情を抱きながら教えていくのがとても情けなくなった。
その反対に楓さんが俺の好意を持ってくれるようになった。
よく顔を合わせると顔をポッと赤らめたり、よく上目遣いで話しかけてきたりといった多分脈ありなんだろうなと思うことをしてくる。
まあこれが俺の勘違いだとしたら恥ずかしいからこれぐらいにしておこう。
楓さんがこの店に来て半年が過ぎた頃、毎年来る大きな山が待ち受けていた。
営業時間終了後
キッチンにて
「そろそろ、この時期がやってきた!」
「とうとう来ましたね、この時期が!」
「・・・えっと、いったい何なんでしょうか?」
「ああ、ごめんごめん。実は今日から2か月後、ある大会が開催されるんだ。」
「ある大会とは?」
「日本で一番権威のあるパティシエの大会。その名も『全国洋菓子技術コンクール大会』!今年もこの大会のために頑張っていきますよ。」
「私もお手伝いします。」
「じゃあお願いしようかな。」
「あれ、僕の仕事は?」
「あ、隼はうん。帰っていいよ。」
「僕の扱いひどくないですか!」
「あ、お疲れ様でした。」
「あ、お疲れさまでした、じゃなくて!まあじゃあ2人で頑張ってください。僕はお邪魔虫なので帰ります、お疲れさまでした。」
「お疲れー。」
「お疲れさまでした。」
ガチャ(ドアがしまう音)
「じゃあ俺作業始めるから。」
「何か手伝うことはありますか?」
「手伝ってほしい時は声かけるからそれまで洗い物とかしておいてもらえる?」
「分かりました。」
こうして、毎年のように俺が燃え尽きることとなる季節がやってきた。
楓さんは結構俺の手伝いをしてくれたから結構ペース良く課題のケーキを仕上げることが出来た。
そして俺はそのケーキを完成させた時にある決心をした。
ケーキ作りを始めてから1か月半後(大会まであと2週間)
営業時間終了後
キッチンにて
「はー、やっと完成した。」
「お疲れ様です。」
「楓さんも手伝ってくれてありがとね。」
「そんな、私は何も。」
「そんなこと言わないでよ。こっちは結構助かってるんだから。」
「・・・そう言ってもらえてよかったです。」
「そうだ、話変わるんだけど一緒に『全国洋菓子技術コンクール大会』の会場に行って俺の隣にいてくれないかな?」
「え、いいんですか!」
「うん、良い機会だし、勉強にもなると思うから。」
「やったー!とても楽しみです。」
「というかこの大会だけじゃなくてこれから先も俺の隣にいてくれないかな?」
ちょっと勇気を出して告白をしてみる。
・・・伝わるかな。
すると楓さんはあっけらかんとした顔をでこう答える。
「え、いいですよ。というか今までも一緒にいたじゃないですか。」
「あ、うん。」
あ、これ伝わってないわ。
ま、まじか。
慣れないことはするもんじゃないな。
これはもうストレートに言うしかないな。
俺は深呼吸してから楓さんの方を向いて言う。
「えっと、さっきのは伝わってなかったみたいなのでもうストレートに言います。」
「?」
「俺は楓さん、あなたのことが好きです!俺と付き合ってもらえませんか!」
「・・・え?」
楓さんは最初は何を言われたか分からないような感じだったが、理解したのか少ししてからポーと顔が赤くなっていた。
「え、え、え?ほんっ、え、え!あ、あ、そういうことですか。す、すみません気づかなくて。」
「いや、謝らないで!なんか居たたまれなくなるから。てかその前に返事を。」
「あ、そうですね。えっとこちらこそよろしくお願いします。」
「え、いいの?そ、そんなあっさり。」
「はい、実は私も店長の事が好きですから。」
「ほ、ほんと?」
「はい、大好きですよ、店長。」
「や、やったー。ありがとう。本当にありがとう。」
「こちらこそありがとうございます。」
「じゃあこれからよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
「ハハハ」
「フフフ」
なんか面白くなってお互いに笑いあった。
「じゃあ片づけをしようか。」
「はい、そうしましょう。」
これでなんとか俺は楓さんと付き合えるようになった。
ちょっと認識の違いがあったがなんとかなった。
そしてその時から2週間後
大会本番
「はぁー、緊張するな。」
「今から緊張していたら体が持ちませんよ。頑張ってください。」
「はい、頑張ります。」
「うん、その意気ですよ。ではそろそろ行きましょうか。」
「そうしよう。」
そうして俺たちは大会会場の扉をくぐる。
1週間後
「アルキュミア」の入り口の扉にはあるポスターが張られることなる。
その内容は
「『全国洋菓子技術コンクール大会』にて金賞をとったパティシエ『坂井政伸』のケーキが食べれるのはこの店だけ!是非ご賞味を」というものだった。
一目ぼれした俺は砂糖菓子 御厨カイト @mikuriya777
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