第13話
迎えた休日。
その日は少し肌寒さがあり、いつもより多少厚着をして、僕は待ち合わせ場所へと向かっていた。
「ふぅ…」
吐く息も少し白い。
このぶんだと、初雪も案外近いのかもしれないな。
そんな益体もないことを考えながら目指す先は、家からほど近い、近所にある公園だ。
この場所を待ち合わせ場所に指定したのは美織であり、ふたりで公園で待ち合わせて、静かな場所でデートしようと提案されて、僕が応えた形となっている。
本来なら駅前あたりにしたほうがデートらしくはあるのかもしれないけど、人が多いところを僕らは互いに好まない。
静かな場所のほうが、ずっと心地よさを感じるのは、きっと性分というやつなんだろう。
最近はずっと放課後一緒に帰ることすらできなかったため、それならと頷いたわけだが、楽しみにしていなかったといえば嘘になる。
ふたりきりで会うことや出かけること自体がそもそも久しぶりだったし、なによりこの場所を選んでくれたのが嬉しかった。
アイドルだのなんだと持て囃されるようになっても、根っこの部分は以前と変わっていないのだと、そう思わせてくれたから。
(今日は今まで避けてしまっていたぶん、優しくしよう)
なんの罪滅ぼしにもならないだろうけど、そうすることを密かに決めた。
「さて、と。美織はもういるかな」
密かな決意を胸に秘めて歩いていたら、気付けば目的の場所へと着いていたらしい。
軽く辺りを見回しながら、敷地内へと足を踏み入れるが、午前中ということもあり人気がだいぶ少ないようだ。
まぁこの寒さだ。外で立っているだけでも、体力が徐々に削られていきそうで、僕としてもあまり長居はしたいと思わない。
ポツポツとまばらに人影こそ見えるものの、これなら探すのに苦労はしないだろう。
「あ、いた」
案の定この考えは正しかったようで、すぐに見つけることができた。
ベンチに座り、寒そうに手をこすり合わせる女の子の姿が、僕の視界に飛び込んでくる。
それを見てこれ以上待たせるのは申し訳なくなったため、早足で僕は彼女のもとへと向かった。
「おはよう、美織」
そしてベンチの前で立ち止まるも、美織は僕に気付いていないらしく、俯いていた。
だから顔は見ることができない。だけど、纏う雰囲気から美織に違いないと判断し、声をかけると、彼女は顔をあげて僕を見上げる。
「あ、おはよう。コウくん」
僕の声に気付いた美織がにっこり優しく微笑んでくれたけど、僕はその姿に息を呑む。
「あ、おは、よう…」
今日の美織は、学校で見かける学園のアイドルの姿そのままだった。
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