第1話エピソード15の資料「中央アジアの情勢」

★中央アジア

 エカチェリーナの急な死亡のあと、アドリアンは色々考えるところがあった。

今アドリアンはいつどこにいて何をしようとしているのか?何をせねばならないのか?

何をしたいのか?考えてみた。元々気楽な遊牧民でみんなそんな事は考えることもない。

ただアドリアンだけは祖父から聞いた祖先の歴史を振り返り、

自分もチンギス・ハーンの末裔で祖先と同じ様に生きたいと願っていた。

時代はモンゴルの終わりの始まりを示唆している。


 本家の大元ウルスは政治の実権を軍閥が握り、大ハーンの首は軍閥により

刎ねられるかあるいは任意にすげ替えられるか何れかを選ばざるを得なかった。

要は軍閥の言うことを聞かなければ殺される時代になっていると云うことだ。

後宮も実権を皇太后が握り、夜伽の人選さえも大ハーンの思うに任せなかった。

他方軍閥も抑えられない反乱が地方では頻発していた。

朱元璋などの反乱軍が南方では実権を握りつつあった。


 ジョチ・ウルスにおいても、1359年のベルディベグ・ハンの死によりバトゥ系

が途絶え、大紛乱に陥った。今までに20人近くのハンが交代した。

キヤト部族のママイが黒海北岸を押えて大勢力となり、

ハン国の事実上の支配者となった。


  アドリアンの所属するアク・オルダにおいてはトカ・テムル系の

トグリ・テムルがハンの座を占めている。


 チャガタイ・ハン国は1340年代に東西に分裂した。

西チャガタイ・ハン国はマー・ワラー・アンナフルを支配しているがハンによる

中央集権化の目論見とチャガタイ・アミールによる地方勢力の割拠の目論見に決着が

付き、1364年にチャガタイ・アミールのフサイン・ティムールの連合軍が勝利した。


 フサイン・ティムールは傀儡のハンを擁立し、

マー・ワラー・アンナフルの実権を握った。


 一方モグリスタンと呼ばれた東チャガタイ・ハン国は同じく1364年に

フサイン・ティムールの連合軍に敗北し、シルダリア川以北に追いやられた。


イランに建国したイル・ハン国はこの頃にはすでに滅亡し、

群雄割拠の時代に入っていた。


 以上の事実が現状の時代認識である。


 地域はどうだろうか。アドリアンの住んでいる中央アジアは程度の差こそあれ

広く乾燥が優越する。


 自然の景観も、北から緯度にしたがって、順に、地衣類が覆うシベリアの

凍土ツンドラ地帯から、森林地帯、森林ステップ草原地帯、ステップ草原地帯、

沙漠地帯、乾燥農耕地帯と、ほぼ縞目しまめ状に「おび」をなして、

移りゆく。大地の形も、きわめておおまかで、ところどころに山脈や

山地・高原、そして盆地が起伏する。


 山があれば、山麓に河川やオアシス泉地となって、

水の恵みがもたらされる。人々の生きてゆくかたちも、自然のおおらかさに伴って、

狩猟・遊牧・牧畜・農耕と、やはりきわめて単純に移り変わる。

そして、ところどころに散らばる都市・集落には、商業、工業、

各種の生産業・サーヴィス業などが、集中して営まれる。


 以上のことを踏まえると豊穣な農耕・牧畜地帯で定住生活も営める

マー・ワラー・アンナフルにまず目を向け征服して貢納を迫りたくなるのが人情と

云うものだ。古来から遊牧民と農耕民との争いが繰り広げられてきたのもうなずける。

★アムダリア川流域の古代遺跡は旧石器時代のものからあるが、

 青銅器時代以後の代表的なものを示す。

青銅器時代の文化……バクトリア・マルギアナ融合時代①

バクトリアとマルギアナの地域名について説明する。

【バクトリア】……アムダリアを境にして、左岸はヒンドゥクシュ山脈の北側、

右岸はヒッサル山脈の南側の平原である。

 気候は全体として乾燥した大陸性で夏は熱く、冬は寒い。

降水量は年間150~250ミリほどの古来の農耕地帯であった。

【マルギアナ《マルグシュ》】は古代ギリシャ人による地名である。

 アケメネス朝ペルシャのダリウス王の

ビヒストゥン碑文では、マルギアナがマルグシュと呼ばれた。

 今のアフガニスタンに発し、トルクミニスタンのカラクム砂漠南東部の砂漠に

消えるムルガブ川河口部デルタ地帯のオアシスである。

中心都市メルブはモンゴルによって完膚なきまでに破壊され100万人の住民が

虐殺されて未だに無人の地域である。

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