第1話…エピソードⅫ…冬営地キジルクム砂漠

★中央アジアの人々のことわざ

災いに見舞われ困ったときに、賢者は自らを責めるが、愚者は他人を責める。

15歳の冬1月1日朝5時……キジルクムの遊牧地

 アドリアンはキジルクムの冬営地に帰還した。

ボオルチュをベルケサライに送り、テムジンを帰還させた。


 17名のイヌワシ狩人は3月いっぱいで任務を終え、故郷に帰還した。

全員ベルケサライにて妻を娶り、族長は大喜びしていた。

代わりにラドミラの姉妹夫婦4組を新たに送ってきた。

ラガドの姉妹夫婦4組とはまた別である。


 アドリアンはバイを継いでから独立したアウルを持ち、

両親や兄弟達とは別のユルタ天幕を作り、そこで自分の家族

「正妻エカチェリーナ、側女ラドミラ、側女ラガド、側女イヴァンナ、

赤子4人、乳母2人」と生活するようになった。ユルタは7戸ある。


 ただアドリアンの家族はこの時期はジェンドの固定住宅に住まわせている。

赤子のためにスチーム付きの固定住居に住まわせたほうが良いと

考えたのである。だから冬の間は独身なのだ。


 スネジャーナ伯母さんのユルタに入ると誰もいない。

様子を伺っているとキッチンで音がした。誰かが料理を作っている。

カウンターに行き、挨拶した。

スネジャーナが吃驚したように挨拶を返した。

「皆何処に行ったの?」 「まだ寝ているわ」

「7時にならないと起きてこないわ」 「そうなの?じゃ待たせてもらうよ」

キッチンに入って調理姿を見物して、伯母さんのそばで野菜を洗ったり、

肉を切ったりした。


 伯母さんの耳元で

「伯母さんは肌が綺麗だね。おしゃれだし素敵だよ」

熱心に口説くと「上手いこと云うね。でも私も年だし。嬉しいけど照れるよ」

満更でも無さそうな感じだった。好機と見て唇を奪い暫く抱きしめた。

みんなが起きてきたのでそれ以上は諦めて一緒に食事をした。


 当時アウルの主人は何人も妻を持っていた。

一番若い妻のアウルで生活するのが習わしだったのである。


 だから伯母、叔母さん達のアウル家族の単位では亭主は既に

生活していなかった。実際アドリアンのバイ(多数のアウルの集合・統合集団)

においては見掛けよりも遥かに多いアウルが存在した。

雇われ牧夫達も自分のアウルを持っていた。


 伯母・叔母さん達にサクサウルの木を切った薪を渡した。


ある冬の日午前8時……キジルクムの遊牧地

 アラル海沿岸のジェンドjendまでサクサウルを伐採に出掛けた。

スーフィー朝の兵隊達も一緒に伐採していた。


 アドリアン達は伐採した跡に黒サクサウルと白サクサウルの苗木を植えた。

兵隊達が大量に伐採した跡にもきちんと植えた。

大体伐採した木の3倍苗木を植える事にしている。

そうしないと何時か無くなってしまうからだ。


 司令官に呼び止められた。

氏名、年齢、職業、所属を聞かれた。

「アドリアン・バザロフ、15歳、遊牧・畜産・交易業を営んでいる。

父方はトカ・テムル系の末裔、母方はコンギラト部族だ」 と答えた。


 司令官は父方の祖父母と母親の事を知っていた。父方の遠縁の親戚のようだ。

「スーフィー朝の君主のフセイン」 と名乗った。アドリアンは慌てて拝礼した。


 フセインは「伐採後何時も植林しているのか」 と聞いた。

アドリアン「何時も3倍の植林を実行しています。狩猟は狼だけを殺しています」

フセイン「お前の事は覚えておく。一度ウルゲンチまで訪ねて来い。

戦闘の技術を教えてやろう」 

アドリアンは「近々訊ねていく」 と約束した。


 自分のユルタに帰るともう5時だった。伯母・叔母さん達に薪を配って歩いた。

夕食をスネジャーナ伯母さんと食べようとユルタに入り声を掛けてみた。

「伯母さんは居ますか?」 「はい。此処ですよ」

台所で野菜を刻んだり、肉を切り分けたりしているライサさんがいた。

しまった。母屋を間違えた。こうなれば仕方ない。ライサさんと一緒に食べよう。

「他の家族は何処ですか?」 「はい、今頃は外仕事の時間で出払っています。

食事時の7時にならないと帰って来ません」 「そうですか。お手伝いしますよ」


  料理の下準備を手伝いながら、ライサに話しかけた。

ライサは「ここ数年亭主が訪れず、何時もさみしい思いをしている」 と云う。

アドリアンは一生懸命にライサに話しかけて慰め、熱心に口説いた。

夕食をライサ伯母さんに持って来て貰って食べた。


 タマーラが「相談がある」 と訪れた。


15歳のある冬の日午後10時……キジルクムの遊牧地

 用件を聞くと、「ザイードが若い妻を娶りたいと言い出した。

お金も無いのにどうしたら良いか困っている」

ザイードを呼んだ。事情を聞くと「スグナクに気に入った女が出来た。

向こうも俺の事を気に入っている。2人目の妻にしたい」 と云う。

婚資はあるのか?アドリアンに借りようと思っていた。

それじゃ話にならん。止めておけ。自分で稼いでから、俺の所に来い。

タマーラには云うな。


 ザイードを帰してタマーラを呼んだ。彼奴には婚資を稼ぐ才覚が無い。

心配するな。金は俺がやる。タマーラに金のインゴット10枚やった。

アウルが10年食べて行けるだけの金だ。

タマーラは裁定結果を喜んでいたがお金は返して来た。

アドリアンの婚資に使うべきだと云う。


 アドリアンは「実はお前と結婚したい。そのための金だ。取っておけ」

と冗談めかして言った。タマーラはもじもじしながら顔を赤らめていた。

可愛過ぎて、アドリアンは思わず唇を奪い、芳しい舌をちゅうちゅうと

吸い舐めしゃぶった。タマーラは戸惑いながらも受け入れてしばらく

そのままで居たが、子供が呼びに来たのでやむを得ず帰った。


ある冬の日朝5時……キジルクムの遊牧地

 朝食はスネジャーナ、昼食はライサ、夕食はタマーラが作って

此処に持ってくる事になった。


 アドリアンは根本的な解決策は無いかと色々考えた。

男達は働かずに新しい女を何とか手に入れようとしているようだ。

金も無いのに虫の良い事ばかり考えている。

金を払えば譲ってくれる奴もいるかも知れない。


 スネジャーナが作ってくれた朝食を食べてからバイの構成員を全員呼んだ。

アドリアンは毎日の食事を調達するのに困っている話をした。

30歳以上のアウルを持っている主に声を掛けた。

妻を譲ってくれるなら1人に付き金のインゴットを1枚支払う。


 これには皆吃驚したようだ。女なら大金貨1枚で幾らでも買えるのに

10倍の金を出すとは驚くのも道理だ。アドリアンの気が変わらぬ内に

早く譲ろうと全員が考えた。父は妾のラドミラ30歳を譲った。

ラドミラの分はすでに支払い済みだがもう一度支払うことにした。

これで合法的にラドミラは俺のものだ。スネジャーナ43歳、ライサ45歳、

タマーラ33歳、ファイーナ32歳、フョークラ30歳、ルフィナ30歳、

ソフィア30歳を譲って貰った。金のインゴット8枚支払った。

8名の旦那達は新しい妻を娶って満足そうだ。上手く行った。


 アドリアンの周りに新たに7個のアウル家族を配置した。

アドリアンは前のユルタ天幕の5倍もあるユルタを来客用に作った。

アドリアンは発明の才能があり、ユルタを分解してラクダに乗せて運ぶ

方法を編み出した。新しい妻達にユルタの作成方法と分解方法を教えた。


 女達は羊毛やラクダの毛を利用してフェルトや敷布・天幕の部品等の作成

やサクサウルを加工して天幕の骨組を作った。

勿論乳製品の作成、獣肉の燻製も彼女達の役目である。

時には男達に混じって馬に乗り敵と戦い弓を射る事もあった。


 アドリアンは分解可能なユルタを大量に作り、フェルトや革製品と一緒に

サマルカンドで売った。サマルカンドでは絹織物・麝香・ルビー・

ダイヤモンド・真珠・大黄等の香辛料、ナツメグ・丁子香・シナモン・

生姜、剣、弓矢、食料品等を購入してスグナクで売却した。


 アドリアンは自分のアウルだけで結婚披露宴を行った。

エカチェリーナたちへのお披露目は次の機会にする。

自分の家族「両親や弟妹達」 や新しい妻達のアウルを呼び、

羊10匹を祝宴用に饗した。

薬酒、滋養強壮エキス入りの蜂蜜酒等を提供した。

女達は様々な料理を持ち寄り賑やかな祝宴が開かれた。


 アドリアンの右隣にはライサ、左隣にはスネジャーナが陣取り

タマーラが割り込み、アドリアンを女達が奪い合った。

やがて時間が経ち、両親達や弟妹達及び妻達の家族が自分達のアウルに

引き上げた。アドリアンと7名の妻達だけになると、スネジャーナが伽の

順番を決めることになり、初回はソフィアになった。ソフィア以外は

自分のユルタに帰った。アドリアンとソフィアは一つになりぐっすり眠った。


★サクサウル

 サクサウルという木は、植物分類学的には、アカザ科Chenopodiaceaeに属し、

Haloxylonaphyllum(Minkw.)Iljinという学名である。Halsは塩を意味し、

xylonは木材を意味しており、耐塩性の強い潅木である。


 種名のaphyliumとは、aが無いことを表し、phyliumが葉を表すから、

葉が無い植物(無葉植物)である。中央アジアなどの降水量の少ない沙漠に

自生しており、耐乾性が強く、塩類を多く含む土壌でも生育できる高い耐塩性

を有する植物である。


 中央アジアの沙漠地は夏は高温で50度になることも

珍しくないが、冬は極寒の地で氷点下40度にもなる。


 こんな環境に自生しているのだから、耐乾性、耐塩性、耐寒性を有している。

この木は燃料として利用され、とりわけ、羊や牛の焼肉シャシリク

として大量に利用され、不法伐採されることも多い。


 地上部は最大10mにもなることもあるが、総じて2~3mほどのものが多く、

林を形成していることもある。


 地中に向けて深く伸びる根は平均的に5~8mで、時には15mにも達するという。

このような木本類であるサクサウルは、飛砂防止、防風林形成、移動砂丘の固定

などの機能を有していると注目されてきた植物である。


 中央アジアの砂漠などの砂地や粘土質の土壌で生息する。

サクサウルは、樹高1~8mまで育ち多く枝分かれする。


 年間降水量100mm程度の土地が最も適した生育環境と言われ、

植林する場合は初年度に3回程度灌水すれば、その後は管理が不要で

乾燥や塩害に強い。


 サクサウルには、コウバクニクジュヨウCistanchedeserticola

と呼ばれる植物が寄生する。コウバクニクジュヨウは漢方薬の原料であり、

滋養強壮や不妊治療などに効能があると言われ、中国における需要が非常に高い。


 このコウバクニクジュヨウを寄生させたサクサウルを砂漠地域にて

栽培することにより、農牧民の植林インセンティブを喚起し、

積極的な植林が進むことが期待される。


 農牧民の平均年収が5万円ほどと貧しく、そのために経済的な余裕がなく

自発的な参加が見込めなかった。しかし、コウバクニクジュヨウの栽培

と販売を開始した結果、2,300円~3,000円/kgの収入となり、

多い場合には300万円を稼ぐ農牧民も出てきた。


 こうしてサクサウル植林とコウバクニクジュヨウ栽培が収入になると

農牧民が分かると、積極的な参加が増え植林の需要が増えた。


★アドリアン15歳、女たちの出産予定

スネジャーナ43歳、ライサ45歳、

タマーラ33歳、ファイーナ32歳、フョークラ30歳、ルフィナ30歳、

ソフィア30歳以上の7名は1365年11月上旬

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