第1話…エピソードⅣ…イマキヤ夏営地続き
★中央アジアの人々のことわざ
未だかって誰も知らない、刺のないバラも、労働のない成功も。
1363年8月上旬の金曜日朝5時…イマキヤの夏営地
何時もの時間に目が覚めた。
麻製の
ラドミラも目を覚ませたようだ。アドリアンの胸に顔をうずめて甘えてくる。
2人とも身支度を済ませて起き上がった。
イマキヤでは比較的蚊が少ないが、西シベリアでは皆蚊に悩まされた。
寝る時はユルタの中に
アドリアンの蚊に刺された赤い跡をラドミラが丁寧に舐めてくれる。
ミハイルがアドリアンの帰還を聞いて昨晩7時半頃訪れて来た。
「何のようだ」 と聞くと、
「ラドミラは出産が近い。その件でお前に金を貰いに来た。
事を荒立てたくなければ金を出せ」。
「幾ら欲しいんだ」。 「大金貨を1枚寄越せ」。
「それからここで出産させるな」 アドリアンは了解した。
ラドミラには言わなかったが、ラドミラの方から言い出してきた。
ラドミラ一家はアルタイ地方の親戚のところに身を寄せる。
ラドミラ28歳
弟4男クタイバ10歳…ラドミラの子、異母弟
弟5男スハイル9歳…ラドミラの子、異母弟
妹長女ミルドレッド12歳…ラドミラの子、異母妹
妹次女ケイト11歳…ラドミラの子、異母妹
を引き連れてアルタイ山脈一帯とイルティシュ河上流域を遊牧地としている
テレングト部族のところに行くのだ。
ラドミラの両親の出身部族でラドミラの故郷だ。
俺は反対したがラドミラの決意は固かった。
やむを得ず認めたが、金のインゴット10枚と大金貨100枚及び中金貨100枚、
小金貨1,000枚を渡した。こんなに必要ないと言ったが無理やり持たせた。
ラドミラは出産後帰ってくる。
子供達は祖父母たちに騎馬イヌワシ狩猟を教わるつもりらしい。
テムジンたちもぜひ同行したいと云うので許可した。
俺も行きたいがそうは行かない。
ラドミラたちは朝食を食べたあとすぐに出発した。
ラドミラたちと入れ替わりにラドミラの姉妹たち4家族が来る予定だ。
イヌワシ猟を別の場所で試してみたいそうだ。
アドリアンは大歓迎して迎えると返答した。
8月中旬の金曜日午前7時…イマキヤの夏営地
部下たちと兄弟姉妹及び従兄弟・従姉妹たちを引き連れて
奴隷たちも合わせると総勢1万名と馬3万頭及び1万台の馬車で
カラガンダに向かった。
8月下旬の水曜日午前7時…カラガンダ
3日掛けて3,000トンの瀝青炭を掘り出した。
小金貨300万枚で売れる。金のインゴットなら3万枚だ。
ラドミラの姉妹たち4家族も途中から来て手伝ってくれた。
2,000トン分をジェンドに送った。
9月上旬の木曜日午前7時…ヒヴァの市場
1,000トンの瀝青炭を売却した。金のインゴット1万枚を得た。
食料をあるだけ買い込んだ。大金貨1,000枚支払った。
部下たちと兄弟姉妹及び従兄弟・従姉妹たち・ラドミラの姉妹たち
4家族全員に金のインゴットを1枚ずつ支給した。
1年分の給料相当なので全員の士気が高まった。
部下たちと午後5時にここで会おうと約束した。
エカチェリーナに会いに行った。
8月上旬の木曜日昼12時…ヒヴァの宿屋
エカチェリーナは約束通りに来てくれた。
薬酒と滋養強壮エキス入りの蜂蜜酒を口移しでエカチェリーナに優しく呑ませた。
持ち込んだ豪華な料理を良く噛んでエカチェリーナにじっくりと口移しで食べさせ
アドリアン自身もよく食べた。
ドアに鍵をかけて、エカチェリーナを強く抱きしめた。
楽しい時間を過ごして2人は満足し幸せを感じた。次の約束をして別れた。
9月上旬の木曜日午後5時…ヒヴァの市場
部下たちに100年以上使用されなくなっている町
を使えるように整備しようと提案した。皆賛成した。
早速アラル海の沿岸都市
今の冬営地キジルクム砂漠には固定した基地を置いていない。
元々遊牧民は固定住居を持たない。ユルタで十分なのだ。
ただ今のアドリアンのように財産を持つと保管する場所が必要になる。
ラドミラの姉妹たちの4家族と思っていたが正確にはラドミラのお母さん
ラガド43歳の姉妹達の4家族だった。人数も32名の大集団である。
アドリアンは32個のユルタを製作し、一人一人に騎馬と武具一式を
渡した。大喜びしていた。アドリアンは冬の時期だけジェンドに定住して
もらおうと思っていた。赤子の居る妻たちは赤子が育つまで定住して貰う。
そのためにジェンドに固定住居を建設する必要がある。
9月中旬の月曜日朝10時…
1万人の奴隷たちに命じてまず地下40mまで掘り下げて井戸を掘り、
そこから10ヶ所の横穴を100m掘り進めた。
固定住居を1万戸建設し、生活できるように設備を整えた。
倉庫も1万個作り、金のインゴットも冬用の食料も保管した。
井戸の
俺達は秋営地のオルダバザールに向かった。
★豆知識
モンゴルの遊牧民の生活は、五畜と呼ばれる
ヒツジ・ヤギ・ウマ・ウシ・ラクダからの生産物で成り立っています。
家畜は彼らの財産であり、食料であり、毛から作られたフェルトや糸は、
衣類やテントの材料となります。そしてその
防寒のためのかまどの燃料、厩舎内の床材、固定家屋のブロック
や壁吹き材として利用されます。
なかでもユニークな戦略は、冬季におけるウシ、ヒツジ・ヤギの
餌として与えることも行われます。
ウマは栄養豊富な牧草の先端部だけを選んで好んで食べることから、
馬糞には未消化の栄養分がまだ豊富に残っているとされています。
彼らの食生活を支えるもう一つの柱が乳製品です。
生乳からクリーム、スキムミルク、バター、ヨーグルト、ホエイ、
酸乳(酒)、チーズなどさまざまな食品が生み出されています。
それは生産物が次の製品の材料や添加物になるといった複雑な乳利用加工の体系
が完成されており、まさに「利用しつくす」という形容にふさわしい無駄のない
ものなのです。
実りを出し惜しむ土地でのくらしでは、家畜以外にも野生動物のシベリアマーモット、オオカミ、ライチョウ、コオロギなどを食資源として利用します。
これらは滋養強壮や病気予防の効能が広く信じられている食材でもあります。
例えば、オオカミの脳みそをお湯に溶いて飲むと偏頭痛にならないとされますし、
コオロギの内臓を吸い取って食べるとアトピー性皮膚炎に効果があるともされて
います。
さらユキヒョウの肉ですらかつては食され、72種類の病気に効用があり、
子どもに食べさせると麻疹にならないと信じられていました。
食肉へのあくなき探究と、迷信にも近い信条が遊牧民には根強く残っていると
言えるでしょう。
★終わり
*****
注①……アラル海の東に位置する都市の名前のジェンドは、ロシア語のローマ字表記で、yend…jend…djendの3表記があり、ここではジェンドjendを採用しました。
*****
★アドリアン13歳
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