第1話…エピソードⅠ…バイを継ぐ前(並みいる兄弟達をはねのけて)

★前書き

大航海時代が始まる大体100年位前、大モンゴル時代が緩やかに黄昏を

迎えつつある時代に生まれたジョチ・ウルス末裔の一人の男の物語です。

第1話エピソード1では、交易で儲けるために偶然見つけた炭田に行き鍬

やスコップ程度の物で露天掘りに挑戦します。

主人公は綺麗な年上の人に一目惚れします。

★中央アジア住民のことわざ

幸せな人では十五歳の息子が指導者、

不幸せな人では四十歳の息子が馬鹿者

1363年1月1日(日)現在

★流通貨幣……基本は金貨

金のインゴット1枚…金100g、日本円で60万円

大金貨1枚…金10g、日本円で6万円

中金貨1枚…金5g、日本円で3万円

小金貨1枚…金1g、日本円で6000円

銀のインゴット1枚…銀100g、日本円で6万円

大銀貨1枚…銀10g、日本円で6000円

中銀貨1枚…銀5g、日本円で3000円

小銀貨1枚…銀1g、日本円で600円

大銅貨1枚…銅20g、日本円で100円

中銅貨1枚…銅2g、日本円で10円

小銅貨1枚…銅1g、日本円で5円


1363年アドリアン13歳

 アドリアンの父率いるバイ……注①では羊2万頭、ラクダ5000頭、

馬2万頭飼育・遊牧している裕福な一族である。

これらを飼育・遊牧するのは一族の仕事だが専門の牧夫も200名雇っていた。


冬場はキジルクム、春・秋場はオルダバザール、夏場はイルティシュ川

中流域のイマキヤ周辺で過ごしていた。


 キジルクムはシルダリア川の中流域からアムダリア川の中流域の間

にある砂漠である。キジルクム砂漠は80~90%植物に覆われている。

また小高い丘陵が何列にも渡っていて、その間の低地では吹雪が少なかった。


 冬季にキジルクム砂漠を利用する遊牧民には、冬地も固定的な建物も無かった。

また草刈りも農耕もしなかった彼らは典型的な遊牧民だった。

キジルクムは、夏季の砂の温度は70~80℃に達し、地下水位は70~80m

しかも塩分が多かった。また春には動物の体に食いつくダニが現れた。

夏は乾燥して草が枯れ、ヤギやヒツジは殆ど太らなかった。


 その代わり冬のキジルクムは雪も少なく、寒さもおだやかで、

しかも春、夏、秋の間遊牧民の家畜が入っていないので、牧地として好まれた。

彼らはこの砂漠に冬の間最高2~2.5ヶ月放牧した。


 3月の初め、北方への移動準備をはじめた。

つまり地面に雪が残っている間は、砂漠に止まることができたのである。


 当時もキジルクムに井戸があったが、全体としては少なかった。

砂漠土に井戸を掘ることはほとんど命がけの仕事であった。

井戸掘りの専門職人は井戸1つについて300~400頭のヒツジを要求した。


 キジルクムの遊牧民たちはカラクル羊、ひとこぶラクダ、少数のヤギを

飼育した。このほか乗用として数頭の馬を所有した。


 彼らはヒヴァとブハラに家畜や畜産物を売りに出し、

また貧しい人々はサクサウルで作った木炭を焼いて都市へ売却した。


 牧地の利用については何の制限もなかった。

ただ井戸を掘った人はその持主とされ、他の牧民は持主の家畜の後に

水飼することが出来た。

アドリアンと兄弟姉妹達8人や従兄弟・従姉妹達10人は

狩猟と井戸掘りが得意だった。

 砂漠では可能蒸発量が降水量をはるかに上回る。

たとえば、中央アジアの敦煌では、年間降水量30ミリメートルに対して、

可能蒸発量は2600ミリメートルというデータもあるほどだ。

 砂漠の近くに積雪量の多い山があると、雪どけ水は、土壌深くに浸透し、

砂漠土壌の下にある水を通しにくい粘土層に達して、砂漠の地下に溜まる。

この水が蒸発したあとの砂は、塩が残るため白くなるが、これが一つの

「砂漠で水の出る場所」の目印である。

深層に蓄えられた水量豊かな地下水が湧き出すところ、これがオアシスとなる。

 アドリアンと兄弟姉妹達8人や従兄弟・従姉妹達10人はこの塩があるところを

深く掘るのだ。ときには何十メートルも掘り下げることもある。


アドリアンは祖父から一族の歴史を良く聞かされた。

モンゴル・ウルスの開祖チンギス・カンは1218年イルティシュ川沿いに

カザフ草原東部に侵入し、3翼に分かれた。

カザフ草原の北西部はジョチに託されたが彼は父より半年早く亡くなり、

ジョチの次子バトゥが遺領を受け取った。

カザフ草原の南部と南東部はチャガタイが継いだ。

北東部はオゴディが受け継いだが、チャガタイの領地との境界は

明確にされていなかった。

末子のトルイは故郷「モンゴルの故地と軍」を受け取った。


 2代目大ハーンオゴディの命により、バトゥはヨーロッパ遠征を行った。

バトゥはヴォルガ中流域のブルガール、草原地帯のキプチャクなどの

テュルク系、フィン・ウゴル系の諸民族、北カフカスまで征服して

支配下に置き、ルーシ(キエフ大公国)、ポーランド、ハンガリーまで

進撃した。


 1242年、バトゥはオゴディの訃報を受けて引き返し、

オゴディの後継が決まらず紛糾するのを見て、ヴォルガ川下流に

留まることを決め、サライを都とするとともに、周辺の草原地帯を

諸兄弟に分封して自立政権を築いた。

 父ジョチの生前分与として、ウルス国家の西半分…右翼ウルスを

ヴォルガ川流域に遊牧する次子バトゥの王統が統括し、ゾロタヤ・オルダ

……注②と呼ばれた。「金帳オルダ」 「黄金のオルダ」 とも云う。

長子オルダはダシュティ・キプチャク東部、セミルチェ北東部、イルティシュ

川上流部からアラ・コル湖に掛けての地域及びアラル海北東部からシルダリア

川下流域に掛けてのステップをアク・オルダの名の元に受け取った。

 ヤイク川、ウルグズ川、トボル川、サルス川近隣の地域及びアラル海

北西部のステップはキョク・オルダとして5男シバンの物になった。

ゾロタヤ・オルダ、アク・オルダ、キョク・オルダを併せてジョチ・ウルス

と云う。バトゥがジョチ・ウルスの宗主権を持った。チンギスの命であった。

 バトゥの他の兄弟達就中なかんずく長子のオルダはバトゥの宗主権を認めていた。

アドリアンやトクタミシュの先祖トカ・テムルはジョチの第13子で

長子オルダの麾下に属していた。


 モンゴル・ウルスの宗主権の元に中央ユーラシアを支配した大帝国は

14世紀に入り少しずつ綻びを見せつつあった。

大都を首都とするモンゴル・ウルスは大帝クビライが崩御した後

モンゴル中央政局は、女性が掌握した。

後世のオスマン・トルコ帝国が滅びる遠因となった「女の時代」であった。

軍閥執政の出現を契機にモンゴル中央権力が落ち込み

遂には大統合が失われることとなった。


 ジョチ・ウルスにおいても、14世紀の初めウズベグ・ハンが中興の祖となり、

バトゥ家のウルスは最盛期を迎え、首都サライは国際交易と

商工業の中心として栄えた。

1359年に孫のベルディベク・ハンが亡くなり、バトゥの系統が断絶し、

大混乱に陥った。

 シバン系以外のチンギス裔はウズベグ・ハンによってキャト族の

イサタイの麾下にされていた。

 ベルディベク・ハンが亡くなった知らせを受けてトカ・テムル系の

3兄弟がクーデターを起こし、キャト族のテンギス・ブガを殺害し、

3兄弟の1人カラ・ノガイをアク・オルダのハンに推戴した。

 トカ・テムル系が復活したのである。

今は3兄弟の1人トグリ・テムルの時代である。

オロスもアドリアンもトクタミシュも虎視眈々とハンの位を狙っている。


1363年13歳の春4月上旬の日曜日朝5時……オルダバザールの春営地

 何時もの時間に目が覚めた。

今日はカラガンダで見つけた黒い石を採掘に行く予定だ。

ヒヴァやブハラに持って行くとサクサウルの木の50倍の値がつく。

同母弟の2人を連れて3人で行く積もりだ。

 ラドミラお義母さんにプレゼントが出来る。

小さい頃からラドミラさんが大好きだった。

俺が生まれる2年前にお父さんの2番目の奥さんになった。

一番目は俺のお母さんのトクトゥだ。本当のお母さんより

ラドミラさんの方が好きだ。去年筆下ろしをしてくれたのが

ラドミラさんなんだ。それから俺はすっかり夢中になった。

毎日俺はラドミラさんのユルタテント……注③に忍び込んでいる。

お父さんはここ5年間別の若い奥さんと一緒に暮らしている。

だから見つかる心配はしていない。

 俺は生まれつき器用なたちで自分専用のユルタをサクサウルの木

やフェルトを使って作り上げた。しかも分解できて、組み立ても

出来る優れものだ。

そこに1人で住んでいる。でも夜はラドミラさんと一緒に過ごす。

一族のユルタは俺が全部作り直した。分解できるからラクダ1頭で運べる。

ブハラに持って行くと1台当たり大金貨1枚で売れた。10枚作ったので

金のインゴット1枚貰った。でも労力を考えるとカラガンダでむき出しに

なっている瀝青炭れきせいたん……注⑤を掘ったほうが率が良い。


 昨晩はラドミラさんのユルタに泊まり、可愛がって貰った。

俺もセックスをすっかり覚えて毎日が楽しくなった。ラドミラさんからは

あまり夢中になっちゃ駄目よと云われているが逆にラドミラさんの方が

夢中になっているように思う。ラドミラさんからは「アドリアンの

良い所は硬い、太くて長い、精力抜群、持久力が強いの4つだ。」

と云われている。褒めて貰って嬉しくなり、口移しで朝食を食べているうち

2人とも催してきた。2人でソファーに隣り合って座っている。

このソファーも俺が自作したものだ。

サクサウルの木と竹及び毛皮とフェルトがあれば

たいがいの物が作れる。これがないと何時でも絨毯じゅうたんの上に

座り続けることになってしまう。

ラドミラさんは全裸になり俺の上にまたがってきた。

ラドミラさんの好きな体位だ。

自分で自由に動く事ができるから好きだと云う。

俺は正常位でラドミラさんの両足を肩にかついで突くのが好きだ。

まあ俺の方から贅沢ぜいたくを云うのはおかしい。

拝み倒してさせてもらっているのだから。がんばってラドミラさんに満足して

もらおう。ラドミラさんはデカ尻を大きく前後左右上下と自由自在に動かす。

俺も唇を吸い、分厚い舌を舐めしゃぶり、デカ尻・美尻を掴んで愛撫する。

もちろんラドミラさんの動きに呼応して大腰を使い

どんどんピストンを繰り返す。

教えられたとおりに4浅1深の動きを繰り返し、

5分おきに不規則な動きを心がけた。

ラドミラさんは面白いように感じだした。

ひっきりなしに大声を張り上げて大絶頂する。みんなそろそろ起きる時刻に

なってきたので、アドリアンは慌ててラドミラさんの口をふさいで

ラストスパートにかかる。ラドミラさんが身体を大きく震わせながら

大絶頂して気絶した。アドリアンは不発だったが、そのまま外に出た。


 みんなそろそろ起きる時刻になってきた。そのまま外に出た。

ケイマンとアルファードを連れて、オルダバザールからカラガンダに

向かった。カラガンダはオルダバザールからイマキヤへ移動するときの

中間地点にある。騎馬に乗ると往復2日で行ける。


1363年13歳の春4月上旬の火曜日昼12時……カラガンダ

 携帯食料を食べてから、くわで露天掘りを始めた。

まる3日階段状に掘り進めて1トン掘り出した。馬3頭で運べるのは此れぐらいが

限度だ。頑張ってそこからヒヴァまで売りに行った。

ヒヴァまでは片道6日かかる。


1363年13歳の春4月中旬の木曜日昼12時……ヒヴァの商店

 1kgで小金貨1枚くれた。合計小金貨1000枚だ。

俺が600枚取り、2人には200枚づつ渡した。

採掘道具を小金貨10枚で購入した。

ラドミラさんへのお土産の化粧品・装飾品を小金貨10枚で購入した。


 ものすごい美人がいた。ラドミラさんの10倍くらいきれいな女の人だ。

年の頃は24,5歳かな。もちろん誰かの奥さんなんだろうな。店主に聞いてみた。

「あのきれいな人は誰なんだ。ここに良く来るのかな」

「あああの人はすごい人だぞ」

「トグリ・テムル様の正妻でエカチェリーナさん23歳と云うんだ。

ここには良く来るよ」


 そうか。雲の上の人だな。

諦めたふりをしながらアドリアンは諦めていなかった。

エカチェリーナに声を掛けた。

「こんにちは。俺はアドリアン13歳といいます。

貴女があまりにもきれいなので思わず声を掛けてしまいました。

これを差し上げます」

ラドミラにやるつもりだった品物をエカチェリーナに渡した。エカチェリーナは

驚いていたが悪い気はしていないようだった。

「あらありがとう。うれしいわ。貴方はどういう子供なの」

子供扱いされて悔しかったが、両親の名前を云うと

良く知っているようだった。「あらそれじゃあ遠い親戚にあたるわね。

また会うかも知れないわ。それまで元気にしていてね。また声を掛けてね」

アドリアンはすっかり惚れ込んでしまった。ラドミラ用に同じものを買った。

カラガンダに皆でまた出掛けた。

******

注①……バイ……富裕な遊牧民一族、多数のアウル家族……注④から形成されている。

注②……オルド/オルダ

「古テュルク語: 𐰇𐱃𐰀 転写: uta、ᠥᠷᠳᠥ、転写: ordo、中:斡魯朶/兀魯朶」とは、

契丹・蒙古などのモンゴル・テュルク系民族におけるカンや后妃の宿|のこと。

日本語訳では、行宮・宮帳・幕営と表記する。

注③……ユルタ…天幕てんまく、テントのこと、ゲルとも言う。

注④……アウル……家族、両親と子供達で形成される事が多い。

妻と子供達だけの場合もある。

注⑤……瀝青炭れきせいたん……光沢のある黒色をし、

煙の多い炎を上げて燃える石炭。炭化度は褐炭と無煙炭との中間。一般燃料用。

******

★アドリアン13歳、ラドミラ出産時期不明

★後書き

アドリアンたちは自らの生活を守るために沙漠に井戸を掘るが、

近年アフガンで凶弾に倒れた中村哲医師は

「100の診療所より一本の用水路」を合言葉に、1600本の井戸を掘り、

1万6500㌶に及ぶ砂漠を緑に変えてきました。

アフガンの人々に生きる希望を与え続けてきた生涯は、

一人の人間の意志の力の大きさ、たゆまぬ歩みの大きさを教えてくれます。

ご冥福をお祈りする共に故人の遺志を継いでいかねばならぬと思っています。

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