第十一話
鏡台の前に座りメイクをしてもらっていると
携帯に通知が届いた
「ごめんなさい、少し遅れてしまいます」
「大丈夫、いつまででも舞台の上で待ってるから、気を付けておいで」
高校生のときはずっと咲の事を待ち続けた、劇団に入ってからは秋人がずっと待たせ続けた、それにくらべれば少しの遅刻はそれほど気にならなかった
(ほんとは時間通りに来て欲しかったけど)
お互いに待たせ合い、すれ違っていた
時間やっとこれからは同じ時間を過ごして
いけるだろう
「緊張してるんですか?春永野さん」
メイク担当が鏡に映る秋人に向かって声をかけた
「え、そう見える?まぁ念願の主演だし緊張してないと言えば嘘になるかな」
「顔が強張ってますよ~リラックスリラックス」
「そうだね、ありがとう」
秋人は笑顔を作るように頬を押し上げた
(そういえば最後に心から笑ったのはいつだっただろう)
・・・・・・
ばたばたと慌てたような足音に秋人は目を覚ました
(いつの間にか寝てたのか、それにしてもなんの騒ぎだ?)
控室のドアを開け廊下に出ると走り回っている
スタッフに秋人は声をかけた
「どうしたの?」
「あぁ、春永野さん。それが舞台装置に不備が見つかったらしく開演が遅れてしまうかもしれないと・・・」
「修理は出来そうなの?」
「申し訳ございません、演出の一部が変更になるかもしれないと、監督と演出の先生が話し合っています」
「分かった」
スタッフは不思議そうな表情を浮かべた
「春永野さん冷静ですね、初主演の舞台なのに」
「休演にさえならなければいいさ、それに開演時間が遅くなるのは僕としてはありがたくもある。
どうしても観てほしい人から遅れるって連絡
があったから」
「恋人ですか?」
「そうなりたいと思ってる」
秋人が答えると同時にスタッフを呼ぶ怒鳴り声が聞こえてきた
「すみません~すぐ行きます」
さっと秋人に頭を下げるとスタッフは怒鳴り声
がした方へばたばたと走り去って行った
控え室に戻ると、手の平いっぱいに乗せた薬を口に含んでから鏡台に置いてある時計に目をやると時間は開演時間の十五分前だった
(こんなぎりぎりまで全く連絡がなかったってことは三十分以上は遅れそうだな。咲が間に合うといいんだけど)
「とりあえず台本でも読んでおくか」
椅子に腰かけ何百回も目を通した台本を開く
「あれ」
秋人は思わず目をこすった、目が霞んでしまい文字を見えなかった
認識出来ない文字らしきものが上下左右に散り平衡感覚を失っていく
沢山の光を浴びて舞台の中央に立ちマイクを握りしめる
テステス
耳鳴りがやまない 問題なし
テステス
目が開かなくなってきた 問題なし
テステス
僕は心の何処かで間違いに気付いている
問題あり
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