2-94.無敵の弱点

 のぞみはまた敵を倒してから、神殿の真ん中にいるランたち四人の元へと動き出す。


 ティムやジェニファーのようなA組の上位10位に入る心苗コディセミットたちは、まだ体力や技量に余裕があるが、藍や悠之助はそろそろ辛くなってきているように見える。

 藍は『易経天風剣えききょうてんぷうけん』を繰り出して、連続の刺撃と合わせて技を展開する。数本の鋭い気流に狙い撃ちされた敵は、体に穴を空けて倒れる。何とか負けてはいないが、弱音を吐き始めていた。


「戦況が変わらないと、スタミナが一方的に消耗されるだけですね……」


 案の定、石像は元通りになって、また藍に向かってくる。そして、藍の『易経天風剣』を学習し、軽やかにその技を回避した。


「そんな……。『易経天風剣』が当たらないなんて……」


 戦えば戦うほど、体力も、効果のある技の範囲も狭まってくる。心が折れそうになった藍に、石像はいしゆみの照準を合わせ、狙い撃とうとした。次の一瞬、敵の背後から、『日空陣ひくうじん日月万暈ひつきばんがさ』で、のぞみが相手を斬り落とす。弩ごと石像が崩れ落ち、のぞみが藍のそばに着地した。


「のぞみさん!」


可児コールちゃん、大丈夫ですか?」


「うん……まだ保ちます」


 藍のようなブースター系闘士ウォーリアにとって、耐久戦は大きな弱点だ。


「可児ちゃん、諦めちゃダメです。きっと乗り越えられます」


 のぞみの根性論を信じたい藍だが、何度でも立ち上がる石像を見ている現実に、及び腰になっている。


「……のぞみさん、この石像、本当に倒せるでしょうか?」


「倒せないなんて、ありえないぜ!」


 さすがはあちこちで武者修行を重ねてきた修二だ。ピンピンした様子で飛び回り、石像が攻撃を繰り出す前に先手を打っている。


剣先が見えないほどの剣捌きを繰り広げているティムが、崩れた石像の向こうから声を上げた。


「きっとどこかに弱点があるはずです」


 ラーマは体幹を使って回転しながら、ジャマダハルの竜巻ごと衝突し、一旦停止すると、追加の刺撃を加えた。気高さと美しさを忘れぬ所作で石像を倒しながら、ティムの話を引き取る。


「任務を共にした仲間から聞いたことがあります。柱を守る者を動かすのは、地脈を流れる源気グラムグラカだそうです」


「おいおい、エネルギーが無限に供給されるってことかよ!?」


 クラークの驚愕の声が、神殿に響き、天井へと吸い上がっていった。防御の構えを取り、しっかりと光弾を受け止める。


 振り下ろされる斧を金属竹刀で受け止めた楓は、連続強ハイキックで石像を蹴散らしていく。反撃技は、元レーサーらしい冷静な判断と知性を感じさせた。楓も知恵を持ち寄り、対石像戦の終結を模索する。


「いや、これは普通の戦闘機元ピュラトファイターだべ。エネルギーを集めてるコアを破壊すれば、機能停止するはずだべ」


 それを聞いてティムは、発光する石柱に目をやった。


「もしかすると、石柱こそが本体であり、コアなのかもしれません」

「んだども、これだけ攻められて、柱を破壊する隙なんてねぇべ?」


 ティムは全体の戦況をよく見ながら指示を出した。


「ハヤガタさん、ミンスコーナさん、後方をお願いします。私はランさんたちの支援に回ります」


「分かりました」と、ラーマが素早く頷いた。


 石柱の後ろで、マントを着た女性がのぞみたちの戦闘の様子をのぞいている。


 その時、ヒュン、と何かが飛んできて、一本の石柱に当たった。


 直撃した石柱には割れ目が生じる。飛び道具は持ち主の手に戻ったかと思うと、さらに数を増やして石柱に注がれる。割れ目は大きくなり、最後には直接攻撃で石柱を崩した。


 その直後、ラーマが倒した石像は粉々の破片となって散り、その後、回復することはなかった。ティムの推測は正しかったのだ。


戦況の変わり目が見え、ラーマの顔に笑みが戻った。


「これなら、勝てますね!」


 楓は石像の斧を躱すと、金属竹刀を大きく振った。石像は、グラムの混じった突風に吹き飛ばされ、左の石柱にぶち当たる。楓はさらに火のように赤い源を纏って飛び上がると、凄まじいパワーを込めて、一点集中で蹴り貫いた。高さ10メートルもある柱は倒壊し、瓦礫の一部は橋から落下した。同時に粉砕された石像は、もう修復されることはなかった。


 そして楓は、最初の石柱を壊した応援者に声をかける。


「来たんだべ、ほたるちゃん」


 蛍は楓に背を向けたまま、次のターゲットに向かって動き出す。


「……私にも関わることだから。どんなことがあっても、逃げるわけにはいかないわ」


「蛍ちゃん、来てくれて嬉しいべ」


 楓は蛍のそばに跳び寄った。ティフニーからは、もしも蛍が来たら、彼女を守ってほしいと頼まれている。


石像たちの動きにも変化が見られた。彼らは弱点がバレたことを敏感に嗅ぎ取り、石柱の防衛を優先した、より好戦的な戦い方に変化した。近距離戦が得意な者たちは激しく武器を振り、次々に攻撃を繰り出す。のぞみたちがその攻撃に押されていると、遠距離光弾での狙撃に攻撃を変えた弩の石像たちが撃ち込んできた。


 マシンガンのような光弾の攻撃により、接近戦は難しくなった。この状況で石柱を狙うには、まずこの光弾攻撃を耐えるか避けるかしなければならない。


 メリルは射撃を避け、剣に集めた源気を払い出す。その技はすでに学習されており、石像は回避行動を取ったのちに次の攻撃を開始した。


「作戦が変わったんだヨン!」


 クラークが光弾を避けると、その奥にいた石像が爆発に飲まれた。


「ハハ、味方の技を食らったな!」


 そう叫んだ次の瞬間、爆発に巻き込まれたはずの石像が剣を手に飛び寄ってきた。

クラークは間一髪、敵の斬撃を刀で受け止める。


「くっそ、味方の技を食らっても無傷なのかよ?!」


 格闘術しか持ち合わせていない悠之助は、光弾を避けるので精一杯だ。


「それだけじゃないッス、それぞれの個体が得た戦闘情報が共有されてるみたいッスね」


 のぞみと藍は連携して戦い、石像一体と石柱一本を戦闘不能にさせた。それから二人は、逃げ戦を強いられている悠之助の元へやってきた。おかげで悠之助は少し休息を取ることができた。

 とはいえ、不利な戦況に変わりはない。


「フェラーさん、どうしましょう?弱点がわかっても、これでは石柱を倒せません!」


 藍が声を上げると、ティムは瞬時に判断を下した。


「ドイルさん、ツィキーさん、そしてヌティオス君とデュク君、あなたたちには後方を頼みます。五体の弩軍団を食い止めてください。戦力不足の穴は、私たちが埋めます」


「分かったぞ!」


 ティムの指示に応じ、ヌティオスたち四人は後方へ跳んだ。ヌティオスとデュクの巨人二人組が光弾を防ぎ、その間にルルとジェニファーが弩陣の懐へ入り、接近戦で石像を砕いていく。


 彼らが動いたおかげで最後尾のラーマ、楓たちはより広い空間を得た。攻撃が味方を巻き込む心配もなくなり、何度も必殺技を繰り出し始める。

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