2ー88.レッドドラゴンの終焉 ②
義毅の後ろには、『インペリアルラース』の二人が大人しく付いてきており、あろうことか、マシンに攻撃をしたのはハイアットだった。
彼女の手前の宙空に、『
「お、おい、どういうことだ!お前ら、気でも狂ったのか?!」
「いえ、正気ですよ?あなたこそ、ローデントロプス・ネオヨーク支部の局長に娘がいるということ、お忘れになったわけじゃないでしょう?」
「ば、馬鹿な……。ハイアット、お前まさか、ローデントロプスのスパイなのか……?」
「本名はレイミー・バーニーと言います」
ハイアット改めレイミーは、変わらず愛嬌のある口調で言った。
信頼していた『インペリアルラース』の正体を知り、ネイトは一瞬、ショック状態になった。そして、ハッとしたようにキルステンを振り向く。
「キ、キキキルステン、お前は……?」
「申し訳ありませんが、私はこちらの先生の元教え子でしてね。ネズミボウズ先生には到底敵いません」
「ハハ、懐かしいなぁ、ダリル・キルステン。お前ずいぶん老けたな」
「先生はお変わりありませんね。まさかセントフェラストを卒業して、地球界の仕事場で再会できるなんて思っていませんでした」
「お前!あの、異世界の学校で教えているのか?!」
「あぁ、そうだ。残念だったなコクソン。金で人を操るには限界があるんだぜ」
「ふざけるなよ、この裏切り者め!養ってやった恩義を忘れたというのか?!」
キルステンは顔色を悪くしながらも、意志は変わらないことを告げた。
「これまでお世話になりました。任務完了までが契約なのは理解していますが、さすがにあなたたちのやり口は認められません。ずっと我慢していましたが、これを機に縁を切りたいと思いました」
レイミーが悪びれずに続ける。
「もちろん、私はマスターの不正について、一つ残らず機関に報告しますね?」
『インペリアルラース』の二人に裏切られたネイトは、往生際悪く、義毅に縋りつき、服の裾を握った。
「そうだ。なぁ、お前、トヨトミと言ったか?お前、教師なんて貧乏くさい仕事辞めて、私のために働かないか?お前になら、億でも出す」
義毅は服についた虫でも払うようにネイトを振り払い、怒鳴りつけた。
あしらわれたネイトは、そのまま顔から床に衝突した。
「くわぁ!!」
「舐めんじゃねえ、金の亡者が。牢獄で自分の業を反省しろ」
レイミーは肩をそびやかし、呆れたように言う。
「この場で敵を買収しようとするなんて、さすがにナンセンスですね……」
「もう少し骨のある雇い主だと思っていましたが、見損ないました」
キルステンは見るのも恥ずかしいというように目を閉じている。
「クソ!お前、たった一人の教え子のために『レッドドラゴン』を潰して、本当にそれで良いと思っているのか?我々の組織がなければ、裏社会はどうなる?誰が牽制する?」
「ハハ、石頭ジジイも同じようなこと言ってたな。お前たちは
レイミーも義毅の意見に頷いた。
「若い傭兵や殺し屋を商品として売買し、親族を人質に取って暗殺命令を強要。こんなやり口、認められるはずがありませんよね?政府なら、非適正な組織を切り、変わりの組織を作るくらい、簡単にできるんですよ?」
「……まさか、『インペリアルラース』のメンバーのほとんどは、ローデントロプスのスパイで構成されていたというのか?……くっ」
衝撃の事実を受け、ネイトはそれ以上反論する精神力を失った。ガクリとうなだれる。敗北を認めたようだった。
レイミーが、任務完了をローデントロプス機関に知らせると、すぐに機関所有の機動マシンが、別荘の外苑に降りてきた。エージェントたちは戦闘員たちからネイトまで全員を拘束し、大型のマシンに乗せた。
レイミーは、仕事が終わった安堵からか、両手の指を絡ませて頭上に伸ばして、ゆっくりと伸びをしている。
「これでようやく一件落着ですね」
「おぅ。長い間ご苦労だったな」
「さすがは『羅漢王』と呼ばれた英雄トヨトミですね。あの『レッドドラゴン』を相手に、わずか一週間で完全解体までさせるなんて。本当に凄いですね?」
「ハハ、そうか?」
「そうですよ?正面突破で総員を戦闘不能にしていく作戦なんて、私やその仲間では考えられません。もしあなたが介入してくれなかったら、私たちはまだ何年も『インペリアルラース』を演じていたのかもしれません。今となっては考えられないことですね」
「要は、機関と政府の代わりに組織を監視する役割ですよね」
キルステンも、憑きものが落ちたようにスッキリとした笑みを浮かべている。
「任務も終わったし、私は二週間の休暇を取りました。残った仕事は後日片付けるとパパに言ってあります。ダリルも一緒に行きますよね?」
「私も?」
「パパにあなたのことを伝えたら、ぜひ我が機関のために力を貸してほしいと言っていました。休暇が終わったら、共に働きませんか?」
レイミーは誘惑するような笑顔を見せたが、突然訪れた人生の転換点に、キルステンは少し戸惑っていた。
「……少し、考える時間をいただけますか」
「あなたの気が向いたら、こちらはいつでも歓迎ですよ。トヨトミ先生もご一緒にどうですか?旅費は私が出しますよ?」
レイミーと二人きりの休暇を過ごす予定になったキルステンは、
「……私も先生と近況を話したいです」
「サンキューな。だけど、アトランス界ではまだ俺を待っていることがたくさんあるんだ」
「急いで帰らないといけないんですか?」
「あぁ。ダリル、お前の後輩たちにも色々あるんだぜ」
レイミーには、義毅の教え子たちが羨ましく感じられた。そして、彼の意志を尊重することを決めた。
「元々、そのためにこちらへ飛んでこられたんですよね?」
かつて義毅に教わったダリルには、彼の考えが大いに理解できる。
「分かりました。仕方ありませんね」
「トヨトミ先生さえ良ければ、改めて、眺めの良いレストランをご一緒するのはどうでしょう?」
「そりゃ良いな。酒が飲めればさらに良いぜ」
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