2-81.ネオヨーク支部

 5分後、義毅よしきはローデントロプス機関・ネオヨーク州支局の玄関ロビーにいた。手には道中で買ったコーヒーとケーキの入った袋を持っている。受付には女性が二人いて、内勤者用のスーツを身につけている。


「こんにちは、綺麗なお姉さん方」


 館内に入った者は、例外なくセンサーによる身分検査を受ける。不審人物の侵入を防ぐためだ。義毅の源紋グラムクレストの照合結果を見て、受付の一人が席を立った。


「これはこれは、英雄トヨトミ。ネオヨーク支局へようこそ。何かお手伝いいたしますか?」


「あぁ、ある事件の調査でな。情報収集のために来たぜ。支部長はいるか?」


「支部長ですか?……少々お待ちくださいね」


 女性が内線チャンネルにかけると、首に貼ったシール型のスピーカーが光り、左耳のイヤホンにも受信ライトが点いた。女性はそのまま話し始める。


「すみません。アトランス界から来られた英雄の方が、事件の取り調べのため支部長に面会したいと仰っております。……えぇ、英雄トヨトミです」


 相手の声を聞く女性の瞳は義毅から逸れ、どこか別の場所を見るともなく見ていた。


「はい、分かりました。ではご案内しますね」


 そう言ってチャンネルを切断すると、イヤホンとスピーカーは光を失った。


「お待たせいたしました。それではあちらのエレベーターホールでお待ちになり、扉が開いたものにお乗りください。プライベート階層へお着きになったら、そこからは擬人人形が案内いたします」


 案内所の後ろがアーチ状に開けており、そこからエレベーターホールに繋がっている。女性がコンピューターを画面操作すると、三つのゲートの内、真ん中のものが開いた。


「サンキューな。あぁ、そうだ、このコーヒー、飲んでくれ」


「……これは?」


「ハハ、ただの差し入れだぜ。長時間のお勤めご苦労様。ちょうどおやつの時間だろ?二人で遠慮なく飲んでくれ」


 義毅の言葉を聞くと、緊張感のあった女性の心にほんの少し、ゆとりができた。


「ありがとうございます、後の休憩時間で頂きます」


そう言って、女性は笑顔を見せる。隣にいた女性も、嬉しげに頷いてみせた。


 義毅は案内通り、エレベーターに乗った。何のデザインもない金属的な空間だ。鏡がないだけでなく、行き先を決める階層ボタンすらない。扉が閉まると、金属の箱は上昇を始める。宙に投影された数字が変わっていき、しばらくするとプライベート階層に達した。上官やキャリアしか入ることを許されないその階層は、数字ではなく「P」と投影されている。


 扉が開くと、女性が迎えに来ていた。光ファイバーに似た材質のその擬人人形は、人間らしからぬ色の髪の毛を、お団子に結っている。受付の女性たちと同じデザインのスーツを着てはいるが、布の服ではなく、ボディーアーマーを兼ねた金属製のものになっている。


「英雄トヨトミ。私はバーニー支部長の専属秘書であります。支部長はすでにお待ちです。どうぞ付いてきてください」


「ああ、案内してくれ」

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