2-31. 予言解明
「のぞみちゃん、のぞみちゃん!」
ミナリが何度呼びかけても、のぞみはしばらく無反応だった。
「ど、どうしたらいいニャ?ショックすぎてのぞみちゃんの魂が飛んでいっちゃったニャ~!」
心配で慌てるミナリを放っておき、イリアスがのぞみの頬を摘まんで強く引っ張った。痛みの感覚はあったのか、のぞみが頬をさする。
「イリアスちゃん……痛いよ……」
「のぞみちゃん、戻ってきた?」
「イリアスちゃん……」
「のぞみちゃん……精神的なダメージが大きいんだニャ……」
のぞみがいつもの純粋で無垢な笑顔を失った様子を見て、ガリスは見ていられないような、悲しい気持ちになった。
「
「やめろガリス。いちいち言うと余計なプレッシャーになるだろ」
「そうですね……。でも、どうすれば元気を与えられるでしょうか」
ミュラが凜とした声でのぞみに声をかける。
「のぞみちゃん、しっかりなさい。まずはあなたが立ち直らないと、ホプキンス寮長先生の言うとおり、あなたたち五人の命が本当に失われてしまうわよ」
「ミュラさん……」
楊(ヨウ)は力こぶしを作るように腕を曲げ、のぞみと目を合わせ、激励するように言う。
「神崎さん、正念場だぜ。一ヶ月後なんだろ?それならまだ、色んな準備を整えられるじゃねぇか。まだ諦めるのは早いぜ?」
「楊君……。そうですね、落ちこんでいる場合じゃないですよね……」
のぞみはゆっくりと息を吐き、気持ちを整えるように目を瞑った。
(楊君の言うとおり、まだ一ヶ月もある。諦めるにはまだ早い。……光野さん、力を貸してください。私が、皆の命を助ける、絶対!)
のぞみが目を開くと、そこには少し意志がこもっていた。ガリスはその表情を見てホッとしながら訊ねる。
「寮長先生のお言葉からすると、カンザキさんは誰に狙われているか、心当たりがあるんですか?」
「ん~~……」
のぞみには何の心当たりもなかった。
イリアスも果物を食べながら考える。そして、手に持ったフォークを上向きに何度か振った。
「とにかく!一ヶ月後にまた、のぞみちゃんを襲った悪人たちがきっと何か手を打ってくるのよ!」
二人の考えに頷きながら、楊も付け足す。
「だろうな。しかも、あの女と一緒にいるタイミングってことだな」
(それって、私が襲われるときに、森島さんと、ほかに誰か三人が巻きこまれるってこと?だったら私が森島さんを避けていれば、悲劇は回避できる?)
重く悩んでいる様子ののぞみに、ミュラは三人とは別の視点から問いかける。
「のぞみちゃん、一ヶ月後というと、ちょうど中間テストでしょう?五人チームで行うテスト項目はあるかしら?」
「いえ、たしか中間テストの実技項目は、チームよりも個人の全体能力が試されるはずです」
「そう……」
のぞみの回答を聞くと、ミュラも少し黙った。
「ミュラさんは中間テストが危ないと思いますか?」
「寮長先生のヒントを考えてみたの。もし私が賢い暗殺者なら、あなたが無防備になるときを狙うわ。それか、あなたが日常生活から離れる、特別なイベントのときよ」
「どうして?」
ミュラの考えを代弁するように、楊が言う。
「それはそうだな。神崎さんは今、警護されてる。『
ミュラも続ける。
「そうでしょう?ターゲットが警護されていて手を出すタイミングが難しいなら、それ以外のタイミングを狙うのは当然なの。だから、具体的なテスト内容がわかれば、トラブルの発生しやすいタイミングを予測できるかもしれないわ」
「ですが、私が何とかしようとすればするほど、失敗しかねないんでしょう?それなら一体どうすればいいんでしょうか?」
「それは一理あるわね」
ホプキンスの予言の意味が理解できず、のぞみは頭上に?が飛んでいるような表情をしている。
「どうしてですか?私にはさっぱりわかりません」
「よく考えて、のぞみちゃん。もしも寮長先生が事件に関する具体的なことを知らせれば、あなたは先回りして動こうとするでしょう?そのあなたの動きに、あなたの命を狙う人が気付いたなら……?」
先に理解したガリスが大きく頷いた。
「なるほど。神崎さんがどう対応しても、相手が常に一枚上手であれば、優勢に立たれる状況は変わらないわけですね。むしろ、対応すればするほど追いこまれ、予想よりも混乱を招く可能性がある」
「そうよ、ガリス君。つまり犯人は、普通の
その話を聞くと、楊の目が険しくなった。左右に立つ警護人すら信用はできない。彼らがもしも連中の一味なら、のぞみの取る対策を仲間やボスに密告する可能性がある。楊は咳払いをしてミュラに無言のコンタクトを試みた。
「おい、ミュラさん、もしその推測が正しいなら……」
楊は瞳を左右に動かし、見張りの先輩たちのことを注視する。そして頭を左右に振った。
「あらあら、それは大変ね!」
ホプキンス寮長先生のヒントを解析したミュラの話、それをまとめたガリスの話を聞きながら、のぞみは相手が想像以上に手強い人物だと理解した。その瞬間、恐怖で体中に寒気が走った。
「それなら……私はどうすれば良いでしょうか……」
「普通に過ごしていればいいのよ。もちろん、適当に情報収集はしておくのよ?」
「それで、本当に良いんでしょうか……」
完全に考えないでいることなどできない。どんな物事にも丁寧に対応する癖が身についているのぞみにとって、「適当に」などと曖昧なことを言われると、かえって難しかった。心の中にはぽたりぽたりと、水が溜まっていくように不安が増していく。
湯呑みを覗きこむと、不安げに下がった眉が映っていた。
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