第15話 市長からの電話
12月23日の朝に市長から電話が入った。
確かに図書館で市長への提言という投書箱を見て入れたが、何故こんなに丁寧な電話が入ったか疑問だった。
ある小学校の裏門を通りがかって、やっとその電話の意味がわかった。
去年私はそこで車にひかれたのだ。
時速10キロ以下でチャリチャリしていたら車が飛び出してきてひかれた。
ひかれた時の事は何も覚えてない。
命を守る為に、最小限の怪我ですむように頭の回路が切り換わったのだろう。
気がついたら道路に寝ていて空を見上げていた。
直ぐに起き上がろうとし、周りが騒いで止めるのが何故かわからなかった。
救急車を呼ばれたが病院でも自分がどうしたかわからず、携帯を忘れたからタクシーを呼べず歩いて帰ってきた。
その夜は痛みがひどく転げ回った。
それから行きつけの整形外科でものすごくたくさんのレントゲンを撮った。
痛みから考えるに、私は空中を飛んでから両手両膝で着地し、衝撃を逃がす為に回転レシーブのように転がったらしい。
それは私が選んだ最適解である。
事故の直後に聞いたが、通学路だがスクールゾーンではない。
優先道路も一時停止ラインも曖昧だから罪には問えない。
「変なんですよね」と警察官が言った。
それだけで終わってしまい改善すべきという思考はない。
0.5秒の差で私は死んでいたろうに。
それから小学校に行った。
注意喚起には意味がある。
「ひかれたのが私で良かった。でも子供たちが心配です。どうか子供たちを守ってください」
頸椎カラーに腰椎コルセットと膝装具は全校生徒の注目の的だったが、見るからに恐ろしく説得力があったろう。
「もちろんです。私どもは子供たちの安全に常に心を砕いています」
それから学校帰りの子供たちを見る度に危なくないか、先生方はいるのか、大丈夫なのかジッと見てしまう。
痛ましい事故の後に、市は通学路の危険区域について各学校に問い合わせをしたと思うが、私の話は多分報告されたろう。
そして今でも心配し続けているのかと市長は考えたのか。
行政が150の危険区域改善をしているから、もう心配しなくて大丈夫だとそう言いたかったのだろう。
市長からのクリスマスプレゼントだ。
その配慮には感謝する。
私がひかれた場所には、今や2つのスクールゾーン標識がある。
でもやはり私は大丈夫なのかと見続けてしまうのだろうな。
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