第六十七話 セキチク

 その日はわが子の初めての授業参観で私は早めに学校へと向かった。駐輪場で仲良しのママ友と話しながら教室に向かう。少し前まで幼稚園にいた我が子がきちんと机と椅子に座っているだけで感動したが、みんな親を見つけると手を振る姿は可愛いままだ。


「本日はお忙しい中お越し下さりありがとうございます。今日は作文を読みます。自分たちで一生懸命文章を考えてひらがなを書いたので聞いてください」


 担任の立花先生が挨拶をすると、どの保護者もニコニコとわが子を眺めた。


 前列の右端の子から作文を読み始めた。

 後ろを向くと恥ずかしそうにニコニコしながらお母さんに手を振った。髪をツインテールにした、コロコロとした可愛らしい女の子だ。お母さんも嬉しそうに手を振り返している。


『おばあちゃんの家。 相田ふう

 私はお休みの日にお父さんとお母さんと一緒におばあちゃんの家に行きました。おばあちゃんはお庭に可愛いピンクの花を植えていました。セキチクというお花です。おばあちゃんがこのお花には『あなたが嫌いです』ていう花言葉があると教えてくれました。ふうのこと嫌いなの?と聞いたら『ふうちゃんは、大好きだよ』って言ってくれました。このお花はおばあちゃんがもらったお花だから大切に育てているそうです。終わり』


 女の子は礼をすると椅子に座った。

 パチパチと拍手が教室に響く。


(なんだろう……後味が……)


 隣りにいたママ友がコソッと渡し耳打ちした。


「花をプレゼントするときは、花言葉に気をつけたほうが良いね」


『セキチク 花言葉 あなたのことが嫌いです』

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