第五十九話 スギ

 毎年恒例、このシーズンがやって来た。


 寒い冬を超え、暖かな春の訪れはスギ花粉のシーズンの到来を俺に告げた。

幼少期から花粉症の俺は、毎年このシーズンは目を充血させながら涙を流し、鼻水は止まらない、くしゃみは止まらない……と定番のパターンで花粉症に苦しんでいる。


「だからぁ、花粉症シーズン前に耳鼻科に行っておいたらって言ったでしょ」


 妻は呆れ顔で言ってくる。妻はまだ花粉症になっていない。花粉が多い日に、ちょっと目が痒いとか言うくらいだ。


『早く花粉症になってしまえ……そしてこの苦しみを味わうんだ……』


 俺は妻に念を飛ばすが、今年も念は通じなかったようだ。


「あ、そうそう、スギ花粉に花言葉があるの知ってた? 君のために生きるって意味なんだって。スギ花粉は今年も君のために生きている!」


 妻はケタケタ笑っている。俺はソファーに転がったまま妻に悪態を付いた。


「早く花粉症になっちまえー!」

 

 はぁ。スギなんて枯れ果てちまえ。


『スギ 花言葉 君のために生きる』

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