第五十七話 サフラン
冬になると毎年インフルエンザ、胃腸炎といった流行り病が増える一方で近所に自粛警察なる人がいた。その人は普段は良い人なのだが毎年冬になると外でのマスク、外食、ワクチン接種など、あらゆることをズケズケと近所の人に聞いていた。
高齢のおばあちゃんだったのでまわりはやんわりと聞いていたが、近所のおばあちゃんを呼び集め、その人の家で数人で集まって本格的なパトロールなるものを始めたそうだ。
『孫を親に会わせたくても帰省は暫く我慢しなさい』
『買い物は一人でね!昔は子どもなんて家で留守番してたから大丈夫よ!』
『マスクを外す外食は絶対ダメ。飲み会なんて以ての外よ!』
『家の中でもマスクよ!家族間でもね!』
『パトロールしてマスクをしていない人を見つけたら通報しているの』
『家族全員で買い物に来ている人には声をかけて注意してるわ』
明らかに過剰だった。そもそも、家に集まって会議している自分たちのことは棚に上げているし、近所の人も流石にその人たちを警戒しあまり挨拶もしなくなった。
ある日の夕方、花壇の草むしりをしていると例のおばあちゃんに久しぶりに会ったので私は遠慮がちに挨拶をした。
「こんにちは……涼しくなりましたね」
「こんにちは。いよいよワクチン接種始まったわね。もう打った?」
(始まったわ……。話しかけなきゃ良かった)
「命を守るために絶対必要なのよ!」
私が会釈して家に入ろうとした瞬間、おばあちゃんがうちの花壇を指さした。
「あ、その可愛い紫のお花はクロッカスかしら?」
「あ、これはサフランです」
「あらぁ、サフランて香辛料とかにも使われるお花よね?私も、植えようかしら」
「良いですね。この花の花言葉は過度を慎めですよ」
「過度を……慎め……?」
「それでは、失礼します」
私はにっこりと笑った。
インフルエンザの時期が終わるとパトロールをしているおばあちゃんは見なくなった。
『サフラン 花言葉 過度を慎め』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます