第三十六話 ミヤコグサ
続
あ〜。やっとデザートね。今日はジェラートとケーキセットか。
私ばっかり話しちゃってごめんね。
え、他には面白い話無いかって?
あるのよ〜! 聞いてくれる?
先月のことなんだけどさ、患者さんと車椅子で散歩してたのね。病院の外の庭に黄色い花が咲いてるのを見たいって言うからちょっとだけ見に行ったのよ。庭に群生して咲いてたのはミヤコグサっていう黄色い花なんだけど知ってる? 丸みを帯びた可愛い黄色の花。鳥帽子の形に似てるって言われてるんだって。
あ、ジェラート溶けちゃうわね。美味しい〜!
このチョコケーキ濃厚!
でね、庭を一周してミヤコグサの前を通って病院に戻るところで、患者さんが呟いたの。
「恨みを晴らす」って。だから、私びっくりしちゃって「えっ?」って聞き返したら、その花の花言葉なんだって教えてくれたの。
なんで、こんな不吉な花植えるんだって思わない? まぁ、その花は自然に群生してる花だから仕方ないと思ったんだけど……。
それからバタバタしてる間に夜勤の時間で見回りをしに行ったの。
え? 怖いわけ無いでしょう。もう暗い廊下は慣れたもんよ。お化けより急患の方が怖いし。
でさ、昼にお散歩に連れて行ってあげた患者さんの病室に行ったらその患者さんのベッドだけ電気が付いてたから声かけたのね。
そしたら、ミヤコグサの花と茎を布団の上でもぎっててびっくりよ。
「何してるんですか?」って聞いたら「お爺ちゃんにあげるんです」って笑顔で言ってたの。「もう寝ましょうね」って電気を消したんだけど。
翌日、箱にミヤコグサを詰めてお爺ちゃんにお花をあげてたわ。そしたらお爺ちゃん『いらん』って突っ返してたけど。
それから数日後におばあちゃん亡くなってね。お爺ちゃんへの最後のプレゼントがミヤコグサだなんて……結婚ってなんだろうって思っちゃったわ。
まぁ、この仕事してたら最期は綺麗に看取りたいけどそうも行かないこともあるからねぇ。
じゃあ、珈琲飲み終わったし帰ろうか。
『ミヤコグサ 花言葉 恨みを晴らす』
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