第二十八話 クリスマスローズ
毎年、クリスマス前になるとクリスマスローズを自分用に購入する。今年も、街がクリスマス一色なった頃にネットで注文した。
あれは、私が四歳、妹が四歳の頃。私達の母はシングルマザーで、仕事があると日勤でも夜勤でも私達は二人で長時間留守番していた。
私は、クリスマスを知っていた。父が同居していた頃に誕生日やクリスマスにプレゼントをもらっていたからだ。
でも、離婚してからはプレゼントなんてものは無くなった。家に二人で閉じ込められて、幼稚園にも行っていなかった。
その年のクリスマスイブの夜は母は仕事で妹と二人でコンビニのパンを食べた。
いつの間にか、私達はリビング眠ってしまった。ふと、目を覚ますと寝室に移動していてドアの外からビリビリと音が聞こえた。
「ママぁ?」
私が、恐る恐る音がする方に近付くと寝室のドアが開かなくなっていた。ドアノブを回しても何をしても開かなくて私は訳がわからなかった。しばらくすると音が止んで玄関からガチャンと音が聞こえた。
どうして? 私は一人部屋に取り残されていた。妹は? 妹は無事なの?
私が窓を開けようとするとベランダの窓もガムテープで固定されていた。必死に剥がした。何時間もかかりようやく外すとベランダに出ることが出来た。
隣の部屋は明かりが消えている。
私は寒空の下で何時間も人が出てくるのを待った。手足がかじかみ、ガタガタと震える。寒さと恐怖でクリスマスイブの夜を明かした。
朝方、初雪が降った。隣の部屋のカップルが出てきて『雪だ!』ってベランダで喜んでいる。二人は『メリークリスマス!』と言って幸せそうだった。
「助けて下さい亅
私は泣きながら何度も叫んだ。
* * * * *
しばらくして、母は逮捕された。
私と妹の皮下出血の痕は数十カ所に及び、虐待と児童遺棄の疑いで逮捕された。
妹はリビングで放置されていたが、命に別状は無かった。
私達は祖父母に育てられ、私は高校を卒業してから働きだして妹と二人で暮らしている。
「こんにちは! 花言葉屋です。ご注文のお花をお届けに参りました」
「ありがとうございます」
部屋に入ると窓際にクリスマスローズを飾った。ローズと入ってもバラのような豪華さはない白い花だが、私にとって大切なのは花言葉なのだ。あの忌まわしいクリスマスから自分を解放し妹にもクリスマスを楽しんでもらえる日が来ることを願っている。
花言葉のカードを見ると涙がこぼれ落ちた。
『クリスマスローズ 花言葉 慰め 私の不安を和らげて』
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