第二十四話 蔦

 部屋にいるのは、教祖様と私だけ。狭く暗い部屋には、蔦が室内中の壁や天井に絡みつき一面緑のカーテンを作っている。テーブルの上に燭台が置かれ、蝋燭の炎が揺らめいている。

 私はお告げを聞いて使徒に告げる役割を担っている。重要な役割だ。


 私の真の姿は警察官だ。


 数年前にこの教団は神からの啓示を受けたと駅前の路上で無差別殺人を行った。車で横断歩道を渡る人たちをなぎ倒した後に四人の男が降りてきて、街ゆく人を滅多刺しにするという衝撃的な事件だった。当時、事件にこの教団が関係していると分かったものの決定的な証拠がなく未だに教祖を逮捕できていない。そして、女である私が教団の一員となり忍び込んだ。

 

 下っ端だった私は警察の情報と頭脳を武器にここまでのしあがってきた。


『いよいよだ。二度目の神からの救いの啓示が来た。今回は前よりも遥かに偉大なことを成し遂げなければならない』


 私は黙って聞く。いよいよ、次の無差別殺人の司令が来たのだ。


『教団にいる女性全員が私の子を身籠り、子孫を作るのだ。さぁ、まずお前からだ』


 私は目を見開いた。


『安心しろ。ここにいる女性全員を愛し、結婚すると誓おう』


『っ……わかりました。まず、啓示を告げて参ります』


『さぁ、ここで結婚しよう。蔦は永遠の愛の象徴だ』


 まだ、確固たる事件の証拠は掴めていないが、最近、若い女性の団員を増やしていた理由が分かった。


 警察官としてここに残るべきか、人間としてここを去るべきか否か。


『蔦 花言葉 永遠の愛』

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