第二十二話 モミジガサ 前編

 三神陽子みかみようこは料理が大好きだ。ベランダでハーブを育てたり、プランターで野菜も育てていた。旬のものをシンプルに味わう、それが料理の一番の醍醐味だと思っていた。


 暖かな春の日、洋子が買い物から帰宅すると玄関先に置き配された箱が置いてあった。

贈り主を見るなり、洋子の顔は強張った。緊張と動揺で思わずその場で箱を開けてしまった。


 中身はプランターに植えられたモミジガサだった。丁寧にラッピングまでされている。モミジガサは食用の植物で葉の形が紅葉に似ていることからモミジガサと名付けられている。葉を天ぷらにすると美味しい。


 贈り主は、友人の佐々木さんだった。前に食事会を開いて呼んだ時に、佐々木さんの鶏肉が生焼けで、カンピロバクター胃腸炎を起こして入院したという苦い思い出があった。入院中には菓子折りを持って謝罪に行った。佐々木さんは、「仕方ないわよ」と言ってくれた。


 無事に退院できたものの、退院後に顔面麻痺の後遺症が残り今度は家まで謝罪に行った。完治してからは、一度だけ謝罪に行ったがそれからは怖くて会いに行っていない。


 それからは友人を招いての食事会は一切開いていない。


(どうして……こんなものを私に?)


 恐る恐るモミジガサを出すとベランダに置いた。


(もしかして、これで料理を作って欲しいってことなのかしら?)


 陽子はドキドキしながら箱をゴミ箱に捨てると、レシピの本を開いた。

 その時、箱からメッセージカードが落ちてゴミ箱の中へと吸い寄せられていった。


『モミジガサ 花言葉 罪と罰』


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