第九話 マリーゴールド

 二学期の初日。夏休みの大量の宿題を前に六年二組の担任の立花たちばなは職員室で機械作業のように提出物を確認していた。


 その中でも大変なのが、夏休みの思い出感想文を読むことだ。400字詰めの原稿用紙に二枚程度の文章なのだが、全員で三十人分を読まなければならない。


 早速、出席番号一番の相田伊織あいだいおりの原稿用紙に目を通した。この子はしっかりした賢い子だ。


題名『マリーゴールド』


 私は夏休み、母と一緒に離婚した父に久しぶりに会いました。父は私の異母姉妹に当たる妹を連れてきました。妹はまだ0歳で父に抱っこされていました。

母は私が2才のときに家事や育児に一切協力せずになぐったりしたから離婚したと話していました。

 だから、なんで赤ちゃんを連れてきたのかわかりません。私達が赤ちゃんを見てかわいいと言うとでも思ったのでしょうか?自慢したかったのでしょうか?

 私たちはショッピングモールでご飯を食べてから、噴水のある公園に行きました。

父に妹を抱っこさせてもらいました。赤ちゃんは、ブサイクでヨダレを垂らして汚くてうるさかったです。

 その間、母は父にお土産のマリーゴールドの手作りのしおりを渡していました。私と母で選んだ花です。父は喜んでいました。

 それから少しすると父は血相を変えて私に「赤ちゃんはどこ?」と聞きました。

私は「知らないよ」と答えました。そしたら父は「お前が抱っこしてたろ!」と怒鳴りました。なので、「ハイハイしてどっかに行っちゃったのかな?」と答えたらあわてて探しに行きました。

 それから数分後に噴水から赤ちゃんが見つかりました。父は泣き叫んでいました。でも、目を離した父が悪いんです。

これが、夏休みで一番の思い出です。 

 マリーゴールドは、花言葉で『嫉妬と絶望』という意味があります。私達親子にピッタリの花です。


 読み終えた立花は、動揺して理解できずに何度も読み返した。


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