第七話 真紅の薔薇

 南田淳みなみだあつしは、最後のアルバイトへと出勤した。大学の卒業を控え、明後日からは就職先での研修が始まる。送別会などは無いが出勤した時からみんなが声を掛けてくれた。

 特に入れ違いで退勤した飯塚麻子いいづかあさこさんは、目に涙を浮かべて『就職してからも頑張ってね』と言ってくれた。彼女には本当に世話になった。


 フロアにいる敦の彼女もことあるごとにキッチンに顔を出すと「寂しいなぁ」と言って泣きそうな顔をしてくれた。ひとつ下の彼女と付き合い始めたのは三ヶ月前のことだ。


 秘密にしていたが、みんな、二人の関係を知っている。


 バイトを終えて外で彼女を待っていると飯塚さんが突如現れた。短いデニムのスカートを履いて派手な化粧をしている。


「終わる時間待ってたの。良かったらこれ……」


 手渡されたのは真紅の薔薇四本と手紙だった。敦は戸惑いながらもお礼を言った。


「わざわざ、ありがとうございます」


 飯塚さんは彼女が出てくるのを見るとすぐに立ち去った。


「あれ? 飯塚さん?」

「なんか……わざわざ持ってきてくれたみたい……」


 手紙を開けた。


『敦君へ

 今日でアルバイトを辞めてしまうなんて、すごく寂しくて残念です。あなたに会うことだけが私の生き甲斐でした。彼女ができたと知ったときすごくショックで今でも嫉妬で怒り狂いそうです。

 彼女さんと別れたら私と付き合って結婚して下さい。大好きです。愛しています』


 四本の真紅の薔薇には、花言葉が添えてあった。

『死ぬまで気持ちは変わりません』


 二人は青ざめた。

 飯塚さんはこの店の店長だ。

 彼女がすぐにアルバイトを辞めたのは言うまでもない。

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