ラクリとホロン、サウナに加わる ②

 『機械』――主に金属で作られた、複雑な機構や動力を用いる装置。設計と作成には一般の金細工師や木工職人が持つ以上の、逸脱した知識と能力が必要とされる。『自動車』や『銃』など、常人の理解できない機構によって動くものが多く、扱えるのはごく一部の天才、あるいは『転生者』のみとされる。

「驚いたな、機械を作れるとは。お前、『転生者』か?実際に見るのは初めてだ」

「違う違う。俺なんかが『転生者』なわけないだろ。俺はなりそこないだよ。ただ……んだ、色々と」

 『転生者』――常人の知り得ない知識や技術を持って生まれてくる者。世界におこる致命的な問題を解決するために発生し、危機にひんした人間世界を「生へと転じる」者、という意味でそう呼ばれる。というのが、ユージーンたちの持つ知識だ。

 『転生者』の逸脱の度合いにも様々あり、度合いの高い者はある日、突然この世界には存在しない場所や言葉、知識を「思い出し」、別人のようになってしまうという。ラクリのように度合いが低い場合は、別人になるとまではいかないものの、少しばかり同族より浮いた性格だったり、どうしようもなく特定のものに惹かれるという形で発露することもある。

「……!……!」

「……ふうん、事情はだいたいわかったよ……」

 ハラウラが耳をホロンのほうに向けて、少し笑って頷いた。

「何か言ってるのか?」

「『ラクリはすごいんだ、群れの仲間は彼のすごさが理解できなかったんだ』って。……ボクじゃないと聞き取れないぐらいの、小さい声さ……面白い子だね……」

「ホロンは、いろいろあって自分の声とか力とかを抑え込むのがクセになってるんだ。力仕事ってなったらもちろん全力でやるから大丈夫。どう?俺の機械とホロンの力、ここで使わせてくれないか」

 少し考えて、ユージーンは頷いた。訳ありのようだが、人手が足りていないことも確かだ。

「……!!」

「ありがとうな!なんでもやるからよ!」

 ハラウラに館内の案内をまかせ、ユージーンは店じまいの準備に戻った。

(ネ族とク族。離れたとはいえ、魔族の最大派閥にいた彼らの話を聞いておきたい。機械のほうも興味があるし……ただ、仲の悪いク族とネ族がいっしょにいるのは、気になるな)


「……ーーーーっ♪」

「う”にゃ~~っ……」

「ふうーっ……」

 ホロンとラクリはハラウラに導かれ、サウナを体験していた。客はだれもいないので、貸し切り状態だ。水風呂を終え、外気浴をしている。

「……どうだい、気持ちよかったかい……」

「……♪」

「ああ、ウ族のサウナってのは聞いたことがあったけど、こんな良いもんだったとはなぁ」

 3人の魔族が長椅子に横たわっている。小柄なラクリとハラウラに比べると、ホロンの巨体が際立つ。

「……ねえ、聞いてもいいかい」

「俺らがいっしょにいる理由だろ?」

 ラクリがハラウラの言葉を先取りして答えた。

「……ホロンは、ク族の偉いやつの娘なんだ。それが、ネ族の……しかも俺みたいな変人とつきあってるから、群れにも居られなくなった」

「―――!」

 ホロンが抗議の言葉をつぶやくが、ラクリは首を振った。要は、駆け落ちだったというのだ。恐らくユージーンも、なんとなくは気がついていたことだろう。

「それを聞いて、安心したよ……落ち着くまで、ここで働いているといい……主人もきっと許してくれる」

「……♪」

「え、いや、違うよ、違う……主人というのは、店の主人という意味で……」

「そうなのか?魔族と人間がいっしょに経営してるって聞いたから、俺はてっきり」

「やめてくれない……恥ずかしくなるだろ……」

 そうして三人でくすくすと笑っていると、ラクリが思い出したようにハラウラに尋ねた。

「ところで、サウナの話だけど……あのストーブ、何をつかってるんだ?」

「ボクも詳しくは知らないけど、なんか邪竜の鱗を使ってるとか……」

「……?!」

 ハラウラが答えると、二人は目を丸くした。邪竜の鱗がこんなところにあるとは誰も思わないだろうから、当然だ。しかし、ラクリは驚いただけではなかった。

「なるほど、そういうことか……でも、同じような仕組みなら……それならこっちのほうが……」

 ぶつぶつと何かをつぶやきながら、更衣室のほうに戻っていく。怪訝そうな顔をするハラウラに、ホロンが耳打ちした。

「『もっとすごいストーブが作れる』……だって?」

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