16.愛の給餌
いつぞやの朝を思い出させるように、空腹を刺激するほのかな香りに目を開ける。
どうやら理性が勝利したようだ。
隣にいたはずのレンがいない。
体を起こすと、テーブルにところ狭しと料理を置いていた愛らしい黒目と目が合う。
「あ、起きた?」
一瞬夢でも見ているのかと思うくらい、あの日の朝のように長い髪を後ろにまとめ、穏やかに笑いかける。
ただ少し違うのは、俺の為だろうが料理がたくさん並んでいる事。
そしてそこに黒だまりができていることだ。
「レン、ウォン、キョロ、黒竜、おはよう」
黒髪黒目の人属レン、黒狼のウォン、黒鳥のキョロ、黒竜のファル····黒いなぁ。
「おはよう、グランさん」
「ウォン!」
「キョロ~!」
「ふん、来たのか」
黒竜はともかく、全員挨拶は返してくれた····多分。
「グランさんの持って来てくれた食材使っちゃった」
「あぁ、どのみち俺がかなり食うから気にするな。
レンは相変わらず朝は食べられないか?
昨日も思ったが、もっと太らないと体力つかないぞ」
「うーん、普段は1人だし、食べないのが普通になっちゃってて。
たまにファルが一緒に食べてくれるから、食べるの忘れるのが続く事はないんだけど····」
「なら今日から3日は俺とちゃんと3食べような」
「なんだ、3日もいるつもりか」
「3日しかいられないんだ!
俺はもっとずっと一緒にいたいんだからな。
大体レン!
昨日のあれは何なんだ?
風呂入って動けなくなるとか、この真冬に心配するだろう。
ちゃんと食って体力つけないと心配で森から連れ帰りたくなるぞ」
「何だと?
お前はまた1人でやらかしたのか。
長湯する時は必ず俺かキョロかウォンを呼べと言っておいただろう。
それと獣!
お前まさかレンの裸を覗き見てないだろうな?!」
「ちょ、グランさん、言わないでよ!
ファルも、ちょっと油断····」
「油断じゃなく迂闊だ。
この期に及んで秘密にしようとは」
「ほらな、こうならないようにちゃんと体力つけような。
黒竜、残念ながら裸は見てない。
俺はこれでも紳士だぞ」
黒竜に遮られ、怒られるレンも可愛いが、俺は鞭より飴を与えたい。
黒竜の剣呑な目が少し和らいだが、やはりレンは雌なのか?
「ほら、こっち来い」
俺はレンを抱えて座る。
「えっ、グランさん?!
僕1人で食べれる!
ファルと同じ事しないで!
小さい子供じゃ····ムグッ!」
問答無用でレンの小さい口にサラダを放り込む。
行儀が悪いと思ったのか、食べてる間は静かだ。
その間に俺も食べる。
「グランさん、じぶ····モグッ!」
「レンの手料理はやっぱり旨いな!
あーやっぱり連れ帰りてぇ」
レンは口に放り込むとちゃんと食べるようだ。
黒竜に躾られたのか····複雑だ。
可愛らしい抗議の目は無視だ。
やばい、給餌が楽しい。
「獣、レンの給餌は俺の役割だ。
外に連れ出すのは許さん」
「獣じゃなくて、グランだ。
呼ぶなっつうならお前の名前は呼ばないが、俺は名前で呼んで欲しい。
心配しなくてもレンが自分の事を話してくれるまでは連れ出さねぇよ。
話も聞かずに危険な事なんかするわけないだろう。
黒髪黒目の人属ってだけで危険なのに、それ以上の何かがあるんだろ?
だがレンが望むか、話聞いて外に出る方が良いって判断したら別だ。
それにお前もレンが望んだら許すはずだろう?
メルにとって番の望みを叶えるのは何よりの喜びだからな。
給餌は求愛行動だ、3日は譲れん」
「ふん····ファルでいい、グラン。
レンが望めばな」
ファルは鶏肉の甘辛いソテーをパクパク食べ、スープを飲むとそのまま消えた。
その間レンは無言で俺に給餌されているが、どことなく不安そうに、落ち着かなそうに視線を下に落としている。
「レン、まず俺の事を知ってくれ。
レンは俺の番だが、俺はレンの気持ちを優先したい」
「ん、ご飯食べたら教えて?
あと、もう入らない」
やっぱりレンは食べなさすぎだ。
俺が食べ終わるまで膝から逃がすつもりがないのを感じ取ったのか、膝の上で大人しくスープをすする。
食後のお茶だけは別々に座ったのがちょっと寂しいが、話をするのが最優先だと言い聞かせた。
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