第53話 優先順位
……。
……。
……。
「これ風邪ひくとだから早く帰らないとな。ってまずは古市を送らないとかって……この状況でおんぶは無理だから…」
「ですね。私も濡れちゃいますから。でも大丈夫です。もうすぐそこですから頑張って歩きます」
「まあ荷物くらいは持って行ってやるから早く帰るか。吉野。お前もあとで送るから。とりあえず古市のところまで付いてこい」
あとで……ですか。
「……」
「どうした?吉野?」
古市さんは怪我していることはもちろん知っている。
でもやっぱり……。
――わがままだけど。先がいい。
――後は嫌だ。
橋から落ちた時に先輩が来たのは心臓が飛び出すくらいびっくりして……ホント心臓に悪いことをしてくる先輩……そして川の中で私が流されないようにずっと身体を支えてくれていたのは普通に嬉しかった。
なら……わがままってわかっているけど。最後まで優先してほしかった。ずぶ濡れなんだし。私。
「……1人で帰ります。先輩は古市さん送ってください」
多分これが正解。
――今は……2人が話しているのを見ていると……負けた気がどんどんしてくるから。
「えっ?」
「どうしたの夜空ちゃん?」
2人は戸惑った感じになっちゃったけど……ごめん。
「おい。吉野?」
「……」
先輩の声ももちろん届いているけど……ごめんなさい。
多分このまま2人から離れれば……大丈夫。1人になれば落ち着ける。
――――そう思っていたけど。
「吉野」
どうやら先輩は追いかけてきてしまったみたい。声がかなり近くなったので。
そこで私の何かが切れてしまった。
「ほっといてくださいよ!」
「へっ?」
――言ってしまった。先輩にあたろうとかそんなことを思っていたわけじゃないけど……言ってしまった。
早く謝らないと――と思ったが。
――その言葉は出てこず……。
「……古市さんと帰ってください」
「……」
私はそれだけ言うと。ちょっと早歩きで先輩たちから離れた。
次は……先輩も追いかけてはこなかった。
――ホント私どうしたんだろう……。
――なんでこんなことに……。
――助けてもらったのに……。
――—―なにしているんだろう……馬鹿だ。
――。
……ずぶ濡れの私は家に帰るまでに何人かの人に見られた気がしたが。気にすることなく。そのまま歩いた。
「しばらく先輩たちに会えないな。もしかしたら……」とそんなことを思いつつ家へと入った。
今日はおばあちゃんが居ない為私1人。
でもよかった。こんなずぶ濡れの姿をおばあちゃんに見せるわけにはいかないから。
ずぶ濡れの私は荷物を玄関に置いたままそのままお風呂場へと向かい。濡れた服を脱いだ……。
「……あっ」
と、そこで気が付いた。
そういえばさっき先輩が来ていた上着をかけてもらったことに――。
「—―先輩の……着てきちゃった」
これは先輩にちゃんと会えと服に言われているのだろうか。
って絶対先輩に見られた。間違いなく透けてたもん。
と、また怒りがぷつぷつと……。
「先輩の馬鹿野郎!」
――と、今度は叫んでしまった。
ご近所さんに……響いてしまったかも。
……私は急に恥ずかしくなり。服などを急いで脱いで風呂場に入り。蛇口をひねった。
「—―冷たっ!!!!」
と、今度は水を頭からかぶり悲鳴をあげることとなったのだった。
「……全部先輩が悪い。うん。冷たい……先輩の馬鹿野郎—―」
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