第51話 橋

私は学校から1人で歩いて来た。


しばらくは1本道だったので普通にそのまま歩いていたのだけど……途中から川沿いの街灯の少ない道になったため。ちょっと早歩きで歩いていた。


そして今は見覚えのあるところまで私は来ていた。


「確かここは……」


先輩とともに歩いたことがある。確か古市さんの家に行く道の途中にあった橋。そこそこ大きな川だから夜でもわかった。ってこの道ここに出るんだ。と思いつつ。

本当は橋を渡る必要はなかったが。おじいちゃんの家は反対側なので――。

でも……なんかちょっと橋の方に行きたくなった私は……。


橋の方へと歩いて行った。


橋に差し掛かると。フワッと風が抜けていた。

橋の真ん中あたりまで歩いて行くとちょうど凹みというか?ちょっとした退避スペース?みたいな感じで出っ張りがあったので私はそこで止まった。


この橋は歩行者と車が別れているため。橋の真ん中でぼーっとしていても特に邪魔になるとかそういうことはなかった。歩行者側の橋は私以外今のところ居なかったし。


私はそこから川を見る。少し高さがあるからか。または薄暗くなったからか。今私が立っているところから水面は……ちょっとわかりにくい。


「ここって……水深どれくらいあるんだろう」


私は誰も居ない。返事がないことをわかっていたが。そんなことをつぶやいた。


もう少し水面が近いと今の自分の表情が……見えないか。流れはそこそこあるみたいな感じの川だったので。


まあ激流とかではないが。流れているというのはここからでもわかる感じだった。


「……はぁ、私何してるんだろうな」


せっかく最近は楽しい生活。と少し感じてきていたが。

先ほどそれを自分で手放してしまった気がしてきた。


私は手に持っていたカバンを地面へと置いて橋の欄干にもたれて「ふー」と。息を吐いた。


そして――。


「そうだよね。私は……1回やめかけたんだから。でもそれを先輩が止めてくれた。そしてそれまでと違う生活になって……楽しくなってきたのに。自分で……捨てた。はぁ……やっぱり私生きるのが下手なのかな……コソコソじゃなくて……奪い取るとか……も出来たのに……何もしないで私はただ逃げてきた」


マイナスの事を考えるとなんか一気にいろいろなものが頭の中をめぐって来た。


「……私が居なければ。先輩と……古市さんは……かな」

「そうだよね。私って先輩に対して……いつも冷たく。ひどい事ばかり言って。叩いちゃったり蹴っちゃったり。いろいろしちゃったもんな……そりゃ……ダメだよね。ホラーホラー言われてるし」


なんかいろいろ思い頭の中がいっぱいになって来た私は。大きく息を吸って……吐き出そうとした。


そしたらちょっとは楽になるかも――と、


本当は「先輩の馬鹿野郎!」とか叫んでやろうとも思ったが……それはちょっと誰かに聞かれると恥ずかしいので叫ぶのは我慢して。大きく息を吸ってとりあえず吐こうとした。


「すーーー…………はぁーー……—―へっ?」


が、自分で思っている以上に私は息を吸って吐く際に前へと勢いをつけたらしく……。


大きく息を吸って吐く。だけだったはずが……息を吐く際にちょっと勢いをつけすぎたのか。橋の欄干を手で持っては居たが。頭が下まで行ってしまったというのか。うん。人の頭は重いから……あと私は髪の毛が長いからその重さも入ったのかもしれない。


急に下半身がフワッとした。


――それは足が地面から離れたという事。


「—―えっ」


私は息を吐くのをやめていたが。ゆっくりと身体は前に進んでいる。足を地面に付けなきゃ。と思ったが。勢いがあったからか。まるで鉄棒で前回りをする感じで私の身体は進んで行き……さらに橋の欄干も持ってはいたが。軽くしか握っていなかったので。足が地面から離れてしまった私はそれでちょっと焦り。欄干からも手を放してしまったので……。


……。

……。

……。


川へと向かっている身体をどうすることもできなかった。


「あ、危ない!」


と、その時最近よく聞いた声が聞こえたが……私の視線の先は……暗い水面だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る