第50話 裏道

「なんというか。とりあえずどうす……」

「うん?どうしたんですか?先輩?」


俺が急に話すのをやめたから古市が不思議そうに俺を見ている。


「いや、ちょっとな。もし俺なら……って考えたら。あそこの校舎の陰に行くかなって」

「えっ?あー、そこですか?」


と、俺と古市はホント少し先にあるところを見る。うん。距離も近いし。そっと動けば気が付かれない気がする。とか俺は勝手に思っている。


「葛先輩は夜空ちゃんがあそこに隠れていると?」

「いや、何となく。というか。急に居なくなったから。なんか居づらくなったというか。何かあってとっさに隠れた的な……まあないだろうが……」

「ないんですか。でもじゃあ……行ってみますか?裏からでも少し遠回りですが私の家には行けますから」

「そうなのか?」

「はい。確か。家の近くに川沿いを歩いて行くことになる道ですから。ちょっと夜は暗いですが。先輩が居ますからね。問題ありません」

「まあここに居てもだしな。吉野は何故か電話出ないし。とりあえず歩いてみるか」


と俺が歩き出すと――。


「ちょ、葛先輩!」

「うん?なんだ?」

「なんで1人で歩いて行くですか!」

「……あっ。悪い。運ぶんだったな」

「そうですよ。まあ……葛先輩が嫌なら頑張って歩きますが……」


俺は古市をその場に放置して歩き出していた。


「無理に歩かれてなんかあってもだからな。ほらよ」


俺は少し戻り。古市の前の座った。


「ありがとうございます」


そう言い古市が俺の背中に乗った。

古市が掴まったのを確認して俺は立ち上がる。


そして俺と古市は校舎の裏の方の出口……何だっけ?職員入り口?の方へと進んで行った。


まあ校舎の陰に入ってすぐ。吉野がいてくれたらいつも通りの道で帰ったんだが。まあそんな予想当たるわけもなく。誰も居なかった「まあたまには違う道で帰りましょう」と乗っている古市が言ったのでそのまま裏から帰ることになった。


校舎の裏を進んで行くと職員玄関の方に出て……さらにそこから出て行くと。職員用の駐車場か。そこの横を歩いて行き……しばらく1本道が続く。


「夜空ちゃん。居ませんね」

「まああんな予想なんて当たらないんだよな」

「ですね。ってそういえば朝は聞くの忘れてましたが」

「なんだ?」

「……何回か乗ってますが……私……重くないですか?」

「は?」

「いやいや、は?じゃなくて。重いですよね?」

「いやいや、軽すぎて心配するレベルと思うが?」


うん。古市を乗せた時にびっくりしたが。こいつめっちゃ軽いんだよ。うん。


「そうですか?あー、そうか、余計なものが無いですからね。このぺったんこが――」

「……」


――それにどう反応しろと言うんだよ。古市よ。と俺が思っていると……。


「……反応してくださいよ」

「いや、反応するのもなー。と」

「スルーは言ってて恥ずかしいじゃないですか」

「自分で言っといて」

「でも、もう少しくらいは欲しいです。こんなにしっかりくっついているのに。先輩何も反応しないようなレベルですからね」


と、古市の話を聞いて……。

さっきからなんか古市がしっかりと俺にくっついてくるな。とか思っていたが。それは落ちない為に掴まっているのではなくて……押し付けていた。ということか。が……まあ何も感じてなかったのだが……悪い古市。でもまあ俺は今の古市でいいと思うぞ。うん。こんなこと言ったら首絞められそうだから言わないが。うんうん。


「……」

「先輩。黙らないでくださいよ」

「ああ、悪い」

「もう。って夜空ちゃんホントどうしたんだろう」

「わからん。ってか。古市道あってるか?」

「あ、はい。このままで。あっもう川沿いまで来たので……まっすぐ進むとあれです。橋があるので。先輩の家や夜空ちゃんの家から私の家に行く途中にあるあの橋です」

「あー、あの場所にこっちから行くと出るのか」

「そうです。で、橋を渡ったらそこが私の家ですね」

「なるほど。そういう道だったか」


ちょっと新たな道を発見した俺だった。


それからしばらく歩くと住宅などが増えてきて道も少し明るくなってた。


「あー、あれか?橋って」

「あっ。そうです。あれです」

「やっとわかるところまで来たわ。ってこっちは結構遠回りだな」

「ですね。でも私は楽ですよ?」

「だろうな。乗っているだけだから」

「葛先輩の香りが染みついちゃいますねー」

「……変なことを言うな」

「これはあれですね。もしパパが気が付いたら問い詰められますねー」

「何その怖い未来予想図」


うん。古市パパさん激怒するんじゃない?とか俺が思っていると……。


「嘘ですよ。さすがにパパはここまで近くに寄りません。とか寄せ付けませんから」

「—―なんか……パパ……可哀そうだな」

「でも私この……」


と、話していたら急に古市の言葉が切れた。


「うん?どうした?古市?」

「先輩。橋」

「橋?」

「あの橋の真ん中に……夜空ちゃん居ませんか?」

「はい?」


俺は歩く足を止めて……少し先に見えている橋を見た。車がたまにだが通っているので……車のライトで少し歩行者用の橋が照らされると……橋の真ん中あたりに人影が……後ろ姿だが髪が長くて……身長はまあそこまで大きくなくて……多分俺たちの学校の制服を着ている。


って確かにあの後ろ姿は――。


「吉野……だな」

「なんで夜空ちゃんあんなところに……」

「わからん」


そう俺は返事をしつつ。再度橋の方へと歩き出した。


橋の方へと近づいていくと……。

うん。やっぱりあれは吉野だ。ホントあんなところで何をしているのだろうか。と思いつつ。俺と古市は横断歩道を渡り。橋の歩行者用の橋へとさしかかる。


「なんか……夜空ちゃん落ち込んでます?」


と、俺の背中に居る古市がそんなことを小声でつぶやいた。


まあ確かに吉野はなんか元気がないというか。水面を見ている感じだった。って確かここの橋はそこそこの高さが水面まであるので……高所恐怖症とかだと……だが。

まあジェットコースターを楽しんでいた吉野なら大丈夫か。とか俺は勝手に思いつつさらに吉野へと近づく。吉野はこちらには全く気が付いてないみたいだった。


そして吉野まで俺と古市があと10メートルもないところまで来た時だった。


吉野は何故か大きく息を吸った?というかまあそんな姿勢になった。


何だ?深呼吸でもしてるのか?とか思ったら次の瞬間。まあ俺の予想通り深呼吸だったのか。吉野は橋の欄干にもたれるように川に向かって息を吐いて――。


「へっ」


と、声を出したのは俺の背中に居た古市だった。それと同時に吉野はバランスを崩したのか。足が地面を離れた。あれだな。鉄棒で前回りをするみたいな感じに……ってここでしちゃダメだろ。と俺が思っていると――。


「あ、危ない!」


再度古市が叫んだのだった。

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