第20話 復帰

 翌週。無事吉野は学校に復帰した。


 そして今は放課後。作業も土曜日に頑張ったため。無事に終わっているので今日は何もない。

 何もないのだから讃大に捕まる前にとっとと帰ろうとしていたら。吉野と下駄箱のところで会った。


 ちなみに今日は朝にも会っていてとりあえずしばらくはじいちゃんばあちゃんの家に住むことになったことを聞いた。家はちょうど俺の家から古市の家に行く途中あたりらしい。なんかみんな近いな。とか聞きながら思っていたな。


 なにやらちょうどじいちゃんばあちゃんもずっと家を空けるのは……だったらしく。吉野が留守を任された。みたいな感じとなったと。ちなみに吉野の親が厳しいのはじいちゃんばあちゃんも知っているので何も聞かずにすぐにOKだったとか。

 

 ちょっと何かが起こる気もしたが……まあ、今のところは多分大丈夫だろう。吉野も学校来るようになったしな。いいことじゃないか?とりあえずは。


 そして放課後。今だ。


「先輩、今帰りですか?」

「ああ、吉野は?」

「しんどいしんどい学校生活から解放されたのでととっとと帰っておじいちゃんおばあちゃんの家を綺麗にしようかと」


 吉野は片付けやらも好きなのか。っか帰ってから掃除とは……こいつすごいな。とか俺が思いつつ聞いていると。


 ♪♪〜


 校内放送が流れた。


「1年吉野さん1年○組吉野さん。至急職員室まで来るように。繰り返します。1年……」

「—―だとよ」


 俺の前の前に居る生徒が呼び出しを食らっていた。


「さようならです。先輩。疲れた疲れたー」

「なんで何も聞かなかったようにさらっと足早に帰ろうとしてるんだ?またややこしくなる前にちゃんと行けよ」

「……いやですよ。早く帰りたいです。もう放課後です」

「はぁ……」


 とか俺が思っていた直後。たまたま通りかかった先生に吉野は見つかり連行されていった。残念吉野。ってこいつ目立つから。ってか前髪の特徴があるから先生らの中で有名人みたいな感じだな。俺もほとんど知らない先生に吉野捕まっていたし。


 俺はそんな吉野を見送り。家へと向かっていた。まあまだ学校の敷地内に居るんだがな。


 ♪♪〜


 すると、今度はカバンの中から俺のスマホがなんか鳴っている。もしかして呼び出し――?と確認すると古市だった。こいつよくかけてくるな。とか思いながら通話ボタンを押した。


「もしもし」

「あっ、葛先輩。学校にまだ居ますよね」


 なんで断言なんだよ。


「い……いや?」

「見えてますよー」

「…………」


 俺—―監視されているらしい。ちょっと振り返り校舎の方をみると――とある教室の窓からから古市が身を乗り出しこちらに手を振っていた。


「マジか……って、古市。危ないから戻れよ」

「大丈夫ですよ。って、葛先輩。先週まとめてもらった資料の入った段ボールを運ぶの手伝って下さい」

「はい?」

「お願いします。今、讃大先輩いなくて1人なんですよ」

「讃大がいない?」

「はい。だからお願いします。私1人じゃ無理ですから。か弱い乙女ですから」

「……」

「なんで無言になるんですか!」

「いや、うん」

「そんな態度とっていいんですねー。私先輩の事いろいろ知ってますよ?バラしちゃいますよ?いいんですか?」

「おい」

「嘘でーす。でも本当に手伝ってほしいです。ダメですか?」


 ——後輩が困っているので……仕方なく俺はまたUターン。下駄箱で上履きにまた履き替えて校舎内に入る。すると。


「葛先輩ありがとうございます!」


 下駄箱のところまで副会長がお出迎え。ちょっといろいろと視線が……古市。周りに結構生徒いるからな?


「ああ、で、古市。讃大はどうした?」

「なんか用事があって遅れる見たいです」

「相変わらず忙しいなあいつ」

「じゃ葛先輩。まず生徒会室に荷物置きに行きましょう」

「うん?」

「いや、カバンあると邪魔ですから。段ボール運ばないとですから」

「なるほどな。確かにカバンは邪魔だな」


 ということでまた生徒会室にやってきた俺。めっちゃ来るじゃん生徒会室。生徒会役員じゃないのに。


「とりあえず鍵閉めますから荷物はここに置いて置きましょう。で鍵を私がしっかり管理するので葛先輩は終わるまで帰れません」


 とか言いながら古市は俺に見せつけるように。カッターシャツ胸ポケット?とか言うんだっけ?まあとりあえずそこに鍵を入れたのだった。


「……」

「葛先輩、そんなに胸ばかり見ないでくださいよ。ぺったんこなのに……」


 わざとらしく恥ずかしがる古市。


「いやいや、今見せつけたよな?ってか勝手に自分で言って落ち込むなよ」

「まあ。葛先輩がどうしても帰りたい場合は――私を襲ってください!」

「……それ。俺が退学にならないか?」

「なるかもしれませんね」


 笑顔で言うな笑顔で。


「……この後輩怖い」

「だから、早く終わらしましょうよ」

「了解。で、あのくそ重たい段ボールどこに運ぶんだ?」

「えっと、全部体育館の準備室です」

「遠い。めっちゃ遠いじゃん。職員室じゃないのかよ」

「そうなんですよ。すぐ使うから体育館に。と先生に言われました。だから私1人では無理なんです」

「……台車とかないのか?」

「あっ、ありますあります!が、途中に階段がありますからね」

「じゃ、とりあえず階段まで運んで階段は頑張って運び。そこからまた台車で体育館だな」

「はい。お願いします」


 ということで、古市は事前に台車を準備していてくれたらしく。すぐに台車が出てきた。

 その台車に段ボールを乗るだけ。まあ3箱が重さ的にも限界だったので3箱乗せて古市とともに階段まで運ぶを繰り返し。まず階段前に段ボールの山を作った。


「ふー、きついですね」

「マジな。もう暑い」


 とか言いながら俺は腕をまくった。すると。


「えっ、葛……先輩?」


 急になんかオバケ?でも見たような声が隣から聞こえてきた。


「うん?」

「な、んですか?その傷。えっ?」

「えっ、あ、悪い」


 完全に油断したというか。自然としていた。教室とかでは我慢できるんだがな。なんか古市とは最近よく居るから。讃大と同じような扱いになっていたようだ。なんか悪いな。変な物を見せてしまった。


「えっ――痛そう……何しちゃったんですか?喧嘩?じゃないですよね?古傷?手術とか……ではないですよね?」


 古市はのぞき込む。とかのレベルではないが。まああまりしっかりとは見たくないよな。こんな傷跡。でもちゃんと知りたいのか全てを見るように俺の腕を見ている。


「いや、ちょっとな、昔やらかしてな。痛みとかはないんだが。跡がな。残ってて」

「うわ。これだけはっきり残ってるって……その時もっとやばかったんですか?」

「いや、まあ、なかなかだったな」

「あー、痛い痛い。って、先輩。これ夏になったら半袖になりますが。めっちゃ目立ちますよね?みんな怖がりませんか?これ……なかなかですよ?」

「いや、俺年中長袖だから。学校にも説明済み。まあだから夏にそれで気が付くやつもいるみたいだが。まあそれほど騒ぎにはならないな」

「そうなんですか……でも痛そう……本当に痛くないんですか?」

「ああ、とまあそういうこと。毎回毎回だとな。っか、見たくないやつもいるだろうから。まあ去年はずっと長袖だったが別に……何も言ってくるやついなかったしな。変な視線はあったが」

「いや……聞きにくいですもん。って、なんなごめんなさい」

「いやいや、古市が謝ることではない。俺がちょっとミスったからだ。むしろ変な物見せて悪い……って、早く運ばないか?」

「そうですね。あまり聞くのも悪いですから。この話は終わりですね。再開しましょう」


 古市を驚かせてしまったので俺は腕まくりはやめて荷物運びを再開した。


 それから階段は1箱ずつ運ぶしかなかったので2人で慎重に運んだ。足を踏み外すとだからな。


「古市大丈夫か?」

「だい、丈夫です……」

「無理するなよ?俺運ぶから少し休んでもいいぞ?」

「ふー、ありがとうございます。にしてもこんなことしてると暑いですね」

「まあこれ重労働だならな。讃大はなにしてるんだか」


 しばらく運んでいると嫌でも暑くなり汗が出てきた。いやホント。これ古市1人にさせちゃダメだからな?めっちゃキツイし。先生らも手伝おうよ。とか俺は思いながら運んでいた。ちなみに古市には適度に休んでもらって俺が頑張った。結構……大変だったよ。


 それからしばらくして――。

 

「……よし、終わった」

「階段運びが終わった。ですけどねちょっと休憩しましょうよ。葛先輩ずっと運んでくれましたから」


 そう言いながら古市は階段に座った。


「だな。ちょっと休んで次は体育館までか」

「ですね。あっ次は台車もう1台借りてきます。多分それの方が早く運べますよね?」


 そんなことを古市が言って、しばらく休憩のち。職員室の方に小走りで向かっていった。

 俺は、待っていてもなので、先程から使っていたもう1つの台車に段ボールを乗せ体育館に運ぶ事にした。


「マジ重い」

 

 1人ぶつぶつ言いながらな。そして体育館にやってくると。バスケ部が練習をしていたため。俺は段ボールを置く場所を確認。確か準備室言っていたから……と、裏口に運ぶことにした。


 3箱を置くと階段まで戻る。すると階段のところで古市がもう1台の台車に段ボールを乗せていた。


「あっ、先輩。先に運んでくれたんですか?」

「ああ、待っていてもだからな。早く終わらせたいし、っか、バスケ部が居るから裏口に置いてきたぞ?」

「あ、はい。大丈夫だと思います。じゃ、とっととやっちゃいましょう」


 ということで次からは台車2台で運んだ。俺が3箱、古市が2箱ずつ運んだ。


 そしてしばらくして――。


「ふー、これラストです」

「……終わった。っか量が多すぎる」


 やっと体育館の裏口まで全ての段ボールを運んだ。


「あっ、台車先に返してきますね。忘れると先生がうるさいので」

「なら1つ運ぶよ」

「ありがとうございます。先輩」


 それから一度職員室へ台車を返してから俺たちは体育館裏口から準備室の中にに段ボールを運んだ。ちょっと薄暗いし数段の階段がめっちゃ大変だったが……距離が短いのがまだ救いか。そんなこんなでなんとか終わらせた。


「ラストー」

 

 古市がそういいながら段ボールを置き。準備室に置かれていたマットに段ボールを置くなり寝転んだ。まあ気持ちはわかる。寝転びたいな。かなり疲れたし。


 いやでも今は、ちょっと目のやり場に困った。


「あー、先輩のえっち」

「えっ?」

「今私の足見てたー」

「……見てないからな?」


 いや、見てた。いや、急にマットに寝転んだ古市だが。ちょっとチラっとな。見えてたから。布が。布だ。白い布。ただの白い布だ。前に吉野に散々言われたというか。未だに俺は記憶消すためにいつか吉野に頭をガンガンされるんじゃないかと……怖い怖い。


「今はダメです。短パン履いてないですから」

「何をカミングアウトしてるんだか……」


 見えたがな。言わない言わない。と俺が思っていると。


「ホント。葛先輩何を言わせるんですか?もう。えっちですねー」

「なんか俺言ったか?」

「言いましたよ?」

「……」


 とか言いながら古市は起き上がり楽しそうに笑っていた。

 っか、古市よ。今の言い方だと。短パン履いてれば……になる。って、短パン履いたら見えないか。


「っか、マジ1回休憩だ。しんどい」

「ですよねー。先輩も座ってくださいよ」

「ああ」


 ということで2人マットに座り休憩。あー、結構ふわふわ。あれか。走高跳?のマットかなにかか。めっちゃ沈む。たしかに寝転びたくなるわ。寝よう。ってことで俺は寝転んだ。気持ちいいわ。


「っか、讃大。来なかったな」

「あー、そういえば讃大先輩来なかったですね?用事が長引いたんですかね?」

「だろうな」

「でも葛先輩が居てくれて助かりました」

「お役に立てたようで……」

「そういえば先輩」

「うん?」

「今日夜空ちゃん学校に来たんですよ」

「あー、居たな。会った会った」


 無事に居たな。とか思い出しつつ返事をすると。


「あ、そうなんですか?」

「ああ、とりあえずじいちゃんばあちゃんの家に居ることになったやら。あと、学校は嫌だとぐずってたな」

「あー、私が教室で声かけた時もずっと言ってました」

「古市マジ吉野のこと頼むわ。なんかまたやらかすかもだし」

「はーい。出来る限りサポートしますね。って結局先輩は夜空ちゃんのなにになるんでしょうか……?彼氏?」

「違うからな?まあいろいろあってな。ぶっ飛んでいかないように……みたいな」


 子守か?とかうん。なんかいろいろ考えつつ俺が話すと――。


「なんか不思議な関係なんですね」

「大した繋がりはなかったはずなんだがな」

「でも夜空ちゃん先輩と話してる時は楽しそうにしてましよね?」

「—―そうか?」

「はい。私が声かけた時は、ボソボソでしたし……私嫌われてるのかな?」


 古市はそう言うと少し下を見た。


「いや、それはないかと。単に教室だと周りに知らない人が多いからじゃないか?って、まああいつオバケちゃんやらやら言われてるの嫌がってたからな」

「あ……あー。そうか……今はほとんど聞かなくなったんで大丈夫だと思いますが……」

「まあ吉野あの雰囲気だからな。髪バッサリ切ったら結構かわいいんだがな」

「へ?」

「うん?」

「いや……先輩夜空ちゃんの髪短いバージョン知ってるんですか?」

「いやいや、単にさ。古市もしてたじゃん。吉野の髪結んだりで」

「あ、はい。あれだけ長いといろいろできますからね」

「あの時の雰囲気でな。あれだ今の古市くらいの長さにしたら。吉野もなかなか似合うと思うんだがな。今が長すぎてホラーだからな」

「あーはいはい。たしかに夜空ちゃん短いのも可愛いかも。って、そもそもかわいいんですよね。髪で隠れてますが。前髪だけでも……ちょっと帰るだけでかなり雰囲気変わりますからね」

「だよな。古市よ。機会があったら美容院でも連れて行ってやったらいいんじゃないか?まあ……吉野が切るとは……言わない気がするがな。夜見たら怖いからって言ったんだが……まあなんかあのホラーを変えれたら変えてやってくれよ」

「あー、って、そっか先輩とこに夜空ちゃん居たんですもんね。数日間」

「ああ、うちは1人だからな。部屋は余裕であったからな、まあたまたまだがな」

「ホント2人だからって、変なことしちゃダメですよ?高校生さん」

「だからな。なにもないし。古市も高校生だよな?」

「先輩。真面目そうでたまに怪しい視線がありますから」

「ないから。ないからな?」

「ホントかな?結構私の足に視線を感じた気がするんですがね」

「……ないない」

「先輩がお願いしたら。ちょっとくらいお手伝いしてくれたサービスしますよ?」

「なにをいい出すんだがこの副会長は」

「てへへー」


 ――こいつ。なんか楽しそうにしてるな。俺なんかと話していて。と、思った時だった。

 ふと、俺たちはなんでこんなところに居るんだっけ?と。そして、2人で結構長い間いろいろとしゃべっていた気がするが。


「—―あれ?今何時だ?」


 俺は周りが静かになっていたことに気がついた。確か先ほどまでは声が聞こえていたのだが……今は全く聞こえない。


「あ、そういえば――」


 俺が言うと古市も周りをキョロキョロとして……。


「……」

「……」


 俺と古市は互いを見て……互いにスマホを手に……取れなかった。


「「スマホカバンの中だ!」」


 2人して同じタイミングで同じことを言ったのだった。

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