第12話 行方不明?

 学校での生活はいつも通り。午前中はちょくちょく讃大が今日も生徒会室に来いを言ってきたくらい。

 いつも通りである。生徒会室に呼ばれるのがいつも通り。というのはちょっと嫌なのだが。何度でも言うが俺は生徒会役員ではない。


 現在は昼休み。

 俺の昼ご飯は基本パンだ。高校内に売店があるのでそこばかりである。

 びっくりするくらい生徒が殺到するから、俺はいつも最後くらいに行って、余っているものを買う。まあ同じものが余っていることが多いが。でもうまいし安いし問題はないな。


「いつもありがとね」


 いつものおばちゃんからパンを受け取ると俺は教室ではなく。晴れていれば中庭に行く。何故かこの学校の生徒は中庭利用率がみんな低いのでほぼ空いているためだ。


 静かで結構いいんだがな。他の生徒はこの良さがわからないらしい。まあわかられて混むのは嫌だが…。っかく俺が最近の楽しみにしているのだからな。ゆっくり過ごす昼の時間だ。


 俺は中庭にある階段に座り。スマホを出してパンを一口かじる。今日も美味い。ここのパン安いのにホント美味いんだよな。


 そういえば吉野はどうしているだろうか。ふとそんなことを思った。さすがにそろそろ起きただろうか。とか思っていたら。

 それと同時になんか声が聞こえた気がした。


「……先輩」

「—―?」


 なんか――俺呼ばれた気が……?って、学校にいるから先輩と呼ばれている人はたくさんいるか。気のせいだな。俺は基本呼ばれないし。後輩に知り合いは数えれる数しか居ないからな。そんなことを思いスマホを見つつもう一口パンをかじった時。


「葛先輩!」

「!?」


 急に近くで呼ばれてビクッとなる俺。いやいやマジでびっくりした。


「あっ……ごめんなさい。気が付いてくれなかったで、あとちょっと急用で……」


 近づいてきていた古市に気が付かなかった俺も悪いが、マジでびっくりした。急に声をかけられたから一瞬パンをつまらせかけた――危ない危ない。窒息して古市に迷惑をかけるところだったよ。

 

「……古市?めずらしいな。どうした?」


 俺の横に立っているのは古市だ。生徒会室以外で話すのはかなりレアなことかもしれない。


「先輩。今日夜空ちゃんと会いましたか?あっ昨日でもいいですけど――」

「えっ――えっ?なんで?」

「夜空ちゃん昨日から行方不明になってるみたいです」

「…………はい!?」


 ――あっ、やばい。俺じゃん。誘拐犯俺じゃないか?と、顔には出さないがめっちゃ焦っている俺だった。いや、だって昨日なんやかんやあって吉野を家に泊めたし。うん。すると。


「先輩?どうしました?」

「あ、あー悪い。ちょっとな」

「—―何か知ってるんですか?」


 古市に怪しまれているのか。ちょっと古市が近づいてきた。ヤバいここでバレるのはとってもまずい気がする。ややこしいことになりそうだからな。


「あ――いや――」

「……葛先輩?」


 古市にめっちゃ見られている俺。あとこんなところ誰かに見られたら。とか思っていると。


「……先輩?あっ古市……さん?」

「うん?」

「えっ?」


 ――俺でもなく。古市でもない声が横。正確には俺から見て斜め前から聞こえてきた。


 第三者登場だ。それも。


「よ、夜空ちゃん!?」

「……えっ?あ……う、うん」


 現状を理解できていない吉野がちょっと戸惑いつつ返事をする。


「吉野……って、あれ?」

「……」


 俺は古市を見て吉野を見る。古市は吉野を見て驚いている。つまり……。


「吉野。今学校来たのか?」

「……うん。家に寄って今さっきだけど――なんで?」

「古市よ。行方不明者?かは知らんが。見つかったぞ?目の前に居る」

「……ですね。って、えー。夜空ちゃん……えー!?」

「えっ。なに?行方不明者?」


 しばらく古市がパニックになっていたが――俺は助かった。吉野が俺のところに監禁されていた。とか言わなければだがな。


 ――って、あれ?でもなんで吉野が今ここに居るんだ?っか学校にも登校してきてるし……うん?俺がそんな事を思っていると。


「と、とにかく。先生に伝えてきます」


 古市がバタバタと中庭を後にした。

 そして俺と吉野が残る。なんか変な沈黙になりそうだったので俺は食べ忘れていたパンをひとかじりした。

 そして吉野に話しかけた。


「で、吉野なんか用だったか?」

「……家の鍵を持ってきました」


 そう言いながら俺の家の鍵を差し出してくる吉野。


「えっ?あ、あー。そういうことか」


 そうそう忘れていた。俺は合鍵を手紙とともにテーブルに置いておいたんだった。もしかしたら起きて家に帰る気になるかもしれないからな。その場合俺の家は、まあ自動で鍵がかかるんだが。それを吉野は知らないだろうし。まああった方がわかりやすいだろうで置いておいたのだ。


「で――わざわざ持ってきてくれたのか?」

「……そんなところです。鍵を持っているのも。でしたから。って、ところで古市さんは何を騒いでたんですか?」

「まあ、いろいろだな。主に吉野に関してだが」

「えっ?私?」

「って、久しぶりに吉野は授業でも受けていくのか?学校来たんだから」

「……検討中……です。でも用事も済んだから帰るかも……です」

「おい、ここまで来てさようならかよ」

「……昼休みなら目立たないかな。で、でも先輩のクラス知らなかったからどうしよう……だったけど。ちょうど中庭に先輩が居たから……」

「なんとまあ、いい偶然だな。でもこのまま居ても大丈夫だろ?古市もいるんだから」

「……先輩。それより……」

「うん?」


 なんか吉野が真剣な話があるのか俺の横に座って来た。結構真面目な顔をしているので何だろう?なんかとっても重要な話があるみたいだが。って、さっき用事が済んだとかこいつ言ってなかったか?と俺がちょっと考えていると。


「—―お腹すきました」

「……」


 ズッコケた方がいいのだろうか?でも俺そんなキャラではないのでとりあえずフリーズを選択した。


「お、お腹すきました!」

「聞こえてるよ!2回も言わなくても。って……知りませんだな。金無かったのかよ」

「いろいろ事情がありまして、ホントは居ない予定だったのでお金とか持ってきていなかったので……で、さっき家に寄ったんですが持ってくるの忘れました。ホント空腹です」

「で、これくれと?」


 俺は余っているパンを指差す。


「……はい。先輩がたまたま美味しそうなのを食べていたので我慢できなくなりました」

「まあ、このあと取り調べかもだからな」

「へっ?」

「おまえだよ。おまえ」

「……な、なんでですか?何もしてないですよ」


 話しながらその後は後輩とパンの取り合いをすることになるとは思ってもいなかったが。結局なんやかんやあって食料を渋々吉野に与えたんだがな。俺が夕方腹減りそうなんだが……どうなるか。

 そんな事をしていると俺の予想通り。古市と多分古市たちの担任だろう。あとは、どっかの学年の先生?俺はなんとなく見たことある先生。って、レベルだから他学年の担当の先生だろう。


 そんな御一行様?が中庭にやってきて。吉野が何かを言う前に連れていかれた。が正しい表現か。話があるやらで先生らにほぼ強制的に連れていかれた。


 頑張れ吉野である。


 ちなみに今度は古市がここに残っている。


「古市」

「はい」

「吉野のこととりあえず頼むわ」

「じゃ、教えてくださいよ」

「なにを?」

「昨日夜空ちゃんと何があったんですか?先輩知っているみたいな感じでしたよね?」

「ナンノコトダ――」

「まだ隠しますかー」


 さすが生徒会メンバー。鋭いというか。俺がバレバレなのか。めっちゃ興味あり。みたいな感じで古市は俺の横に座った。


「いや……」

「葛先輩。秘密にしますから。ほらほらー」


 なんか楽しそうだなこいつ。


「いやいや……大したことはなくてだな」

「まさか。言えないようなことしてました?それは流石に、私の手に負えないのでお巡りさんを……」


 古市はそんなことを言いながらポケットからスマホを取り出した。


「おい、副会長。スマホをしまえ。そして変な想像をするな」

「葛先輩が隠してますからね。あらぬ噂を広げるかもしれません」

「怖ー……まあ、ちょっとしたことだよ。親子喧嘩した夜空をな……匿っただけだよ」

「わー。えー。先輩と夜空ちゃんそんな仲だったんですか?知らなかった。仲良しだったんですか?」

「いやいや、偶然なったというかだな――まあなり行きというか?」

「ふむふむ。先輩の秘密ゲットですね。これは脅しに使えるかもしれません」

「おい、副会長」


 なんで副会長はこんなに笑顔なんだろうか。俺そのうち手下みたいな扱いされるんだろうか。下手したら今日から奴隷のような扱いに、いや――ないよな?えっ。ないよな副会長?とか思っていたら。


「おっ?これはめずらしい組み合わせだな。何してるんだ?久遠、楓華」

「あっ、讃大先輩!お疲れ様です!どうしたんですか?」

「なんだ。讃大か」


 たまたま通りかかったらしい讃大が俺たちを見つけて近寄ってきたらしい。


「いやな。なんかめずらしく楓華が男子と昼食べてたって噂を聞いてな」

「なっ、なんですか!その嘘情報。わたしは教室で食べてましたよ?」


 古市がちょっと恥ずかしそうに讃大に詰め寄っていた。まあうん。讃大の持っている情報は嘘だな。ここにいた理由も昼を食ってたじゃなくて。単に吉野のことを聞きにきただけだし。


「っか、讃大。それ今お前が考えただろ?」

「バレたか」

「もう。讃大先輩」

「たまたまな。職員室行こうとしたら。2人が仲良く座ってたからな」

「なっ、讃大先輩。これにはわけがありまして。仲良く……は……」

 

 讃大、古市をいじめるなよ。こっちに飛び火しそうだからな。ややこしいことになるだろ?って仲良く?聞き間違いか。


「まあ讃大。ちょっと質問があって古市は来ただけだから。特に何もないぞ?」

「まあ、それも知ってたがな。そもそも久遠が誰かと居ること自体事件だろ。俺意外と話してるのほぼ見たことなしい」

「おい。事件とか言うなよ。事件って」

「ちなみにもう1人と――なんか先生も2人くらいさっきは居たよな?」

「讃大先輩。もしかして全部見ていたんですか!?って、見てましたよね?そこまで知っているってことは」

「見てたみたいだな。まるでストーカーだな」

「まあまあ、一応俺とこにも話が来てたんだよ。行方不明の生徒がいるって。まあ行方不明じゃなかったみたいだがな」

「まあだな。讃大がさっき見た奴だよ。行方不明の生徒とやらわ」

「だろな。特徴が似てたからな」

「もう、讃大先輩意地悪ですよ。全部知ってて聞いてくるなんて」


 その後もなんか雑談は続いて、何故か昼休み生徒会の2人と過ごすことになった俺だった。


 ちなみにだが昼休み中に吉野は戻ってこなかった。大変そうだ。あっちはあっちでな。

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